研究課題/領域番号 |
23K22135
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補助金の研究課題番号 |
22H00864 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07060:金融およびファイナンス関連
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
諏澤 吉彦 京都産業大学, 経営学部, 教授 (50460663)
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研究分担者 |
米山 高生 明治大学, 研究・知財戦略機構(中野), 研究推進員(客員研究員) (00175019)
山本 信一 東京経済大学, 経営学部, 客員研究員 (90388108)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
10,660千円 (直接経費: 8,200千円、間接経費: 2,460千円)
2024年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2023年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2022年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
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キーワード | 健康増進型医療保険 / 健康意識 / 線形回帰分析 / 生活習慣 / 健康経営推進 / 健康診断受診 / 線形回帰モデル / 健康診断結果 / ロジスティック回帰モデル / 健康経営 / シミュレーション分析 / モンテカルロ・シミュレーション / 経済価値ベースのソルベンシー比率 / 新契約価値 / 保険金・医療費削減効果 / 長寿社会 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、保険がICTの活用により事前の損失軽減機能を持つことを説明する新たな保険理論を構築し、そのことを健康増進型医療保険の分析をとおして計量的に示し、さらに長寿社会における保険経営のあり方を探るものである。そのために、健康診断受診や生活習慣、健康診断結果などの健康関連変数が、医療費などと関連性があることを、健康保険組合データを用いて線形回帰モデルをとおして実証する。また同型医療保険の引き受けが、保険会社の支払能力を強化し、事業価値を向上させるか否かをシミュレーション分析により探る。そのうえで保険会社が健康増進と医療費削減のために提供すべき医療保険商品のあり方など、保険経営への示唆を導く。
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研究実績の概要 |
令和5年度は、研究計画の目的②「マイナスのモラルハザード」の実証および目的③健康増進型医療保険のリスク評価指標とすべき変数の特定を継続するとともに、新たに目的⑤長寿社会における保険経営のあり方を検討した。②については、継続的健康診断受診の有無など健康意識を代理する変数と健康状態・医療費との関係性の解明のために、健康保険組合のレセプト情報から構築した大規模データベースを用い線形回帰モデルに基づく予備分析を行った。その結果、交絡因子などの精査の必要性などがわかり、モデル改良に継続して取り組んだ。③については血圧、コレステロール値、BMIなどの健康診断結果に加え、運動習慣、睡眠習慣、喫煙習慣および飲酒習慣といった生活習慣が、胃がん、大腸がん、直腸がんおよび肺がんの発症と重症化にどのように関係するのかを、同様のデータを用いロジスティック回帰モデルにより分析を行った。その結果、不十分な運動量、喫煙・飲酒習慣が、各種がんの発症と治療の長期化に関係することがわかった一方で、健康診断結果については高血圧を除き明瞭な関係性は見出せなかった。⑤については、保険会社が健康経営推進支援を行う事例が見られるようになっていることを受け、健康増進と生産性向上を目指して、企業・組織経営者と医療保険契約関係にある保険会社が、被保険者である従業員の生活習慣に対して行うべき介入について予備分析を行った。その結果、睡眠習慣が精神疾患の発症とその重症化に関係することが示唆された一方で、運動習慣と飲酒習慣との関係は明らかとならなかった。以上の研究成果は、「保険が事前の損失軽減機能を持つことを実証できるのか」という本研究の学術的問いに一定の答えを出し、本研究計画の目的①新たな保険理論の再整備に向けた重要な知見となった。同時に、保険が健康増進機能を発揮するための、医療保険商品・サービス設計のあり方への実務的示唆となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度の研究計画のとおり、健康保険の全加入者の匿名レセプト情報に基づき構築し、研究組織内で相互に利用可能とした大規模データ共有システムに、運動習慣、睡眠習慣、喫煙習慣および飲酒習慣といった生活習慣の情報を取り込みデータベースを充実させた。これを用い、個人の健康状態、医療費および医療保険金との関係を継続して分析するとともに、分析モデルの改良を順次行った。同時に、生活習慣病のなかでも重大な疾病となっているがんを発症部位別に細分化した分析を行い、いずれの生活習慣がどの部位のがんの発症と重症化に関係しているのかを探った。また、生活習慣病に加え、うつ病などの精神疾患が増加していることを受け、運動量や睡眠時間などの生活習慣が、精神疾患の発症と重症化にどのように影響するのかを、同様のデータベースを用いて分析を行った。さらに近年、保険会社が企業・組織に対してヘルスケアサービスを提供する事例が見られるようになったことから、健康増進型医療保険の商品設計に加え、保険会社の健康経営推進支援サービスのあり方も検討対象とし、長寿社会における新たな保険事業の役割と保険経営のあり方を探った。これらの研究成果の一部は、国際学会および学術雑誌において発表した。また、分析結果からは、保険が積極的に事故防止機能と損失軽減機能を持ち得ることが見出されたことから、研究計画に挙げたリスクマネジメントの全体的体系の再構築と、そのなかでの保険の位置づけの再定義につながる、一定の学術的知見を得られた。
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今後の研究の推進方策 |
大規模データ共有システムに各種の健康関連変数を取り入れ、データベースの充実を図る。具体的には、生活習慣に関しては、これまでの歩数、運動時間、睡眠時間に加え、スポーツ施設の利用状況、有酸素運動時間、脂肪燃焼運動時間、ソーシャルジェットラグ、飲酒量、安静時心拍数などのデータの入手可能性を検討し、順次取り込む。同時に、線形回帰モデル、ロジスティック回帰モデルおよびシミュレーションモデルの有効性の検証を継続し、改良する。分析から得られた結果に基づき、健康維持・増進効果が高く、かつ保険会社の支払能力と事業価値を損なうことのない、健康増進型医療保険の最適な商品モデルを、リスク評価指標の設計、情報通信技術を活用した情報取得方法とリスク評価方法、保険料割引の金額と適用要件を含む保険料体系とその運用方法、還付金などの金額・種類とその付与方法などを含めて検討する。さらに近年、従業員の健康増進と生産性向上をともに目指した健康経営の重要性が増していることを受け、企業・組織経営者が従業員に対して、どのような介入を行えば、健康維持・増進につながるのかを探る。同時に企業・組織と医療保険契約を結ぶ保険会社が、保険契約引受け・維持、保険金支払いなどの一連の業務を行うなかで蓄積したリスク評価とリスクコントロールに関する技術知識を活用して、契約者である企業・組織と、被保険者である従業員を対象としてどのようなヘルスケアサービスを提供すれば、健康経営推進に貢献し得るのかを分析する。とくに労働者の生産性向上に良好な精神状態の維持が不可欠であること、そして精神状態が運動や睡眠などの生活習慣に左右されることが諸研究で明らかにされていることから、被保険者の良好な精神状態の維持または向上のために力点を置くべき生活習慣を見出し、従業員に対する健康増進支援のあり方を探る。
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