研究課題/領域番号 |
23K22167
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補助金の研究課題番号 |
22H00896 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分07100:会計学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
米山 正樹 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (00276049)
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研究分担者 |
山下 知晃 福井県立大学, 経済学部, 准教授 (50754553)
徳賀 芳弘 京都先端科学大学, 経済経営学部, 教授 (70163970)
浅見 裕子 学習院大学, 経済学部, 教授 (70327310)
宮宇地 俊岳 追手門学院大学, 経営学部, 教授 (90609158)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2024年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
2023年度: 5,980千円 (直接経費: 4,600千円、間接経費: 1,380千円)
2022年度: 5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
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キーワード | のれんの会計処理 / 償却と非償却 / 市場関係者の認知 / 理論と実証の融合 / フィールド・リサーチ / 買い入れのれん / 証券市場関係者の認知 / 会計観の形成過程 / 認知バイアス(刷り込み) / 証券市場環境の国際比較 |
研究開始時の研究の概要 |
買い入れのれんを規則的に償却するかどうかを巡っては、長きにわたり先鋭な国際的対立がみられる。にもかかわらず、対立が生じている原因や問題解決のための処方箋に係る客観的な考察はこれまでほとんど行われていない。 政治的な利害を負っていない研究者が、多角的な手法を通じて対立の源泉を探るとともに、短期的に解決しうる問題・しえない問題をより分け、実践的な提言に結びつけることを本研究の目的としている。
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研究実績の概要 |
昨年度は、「市場関係者の買い入れのれんに係る認知を規定しているのは、初期に受けた会計教育、なかでも公的資格を取得するための会計教育ではないか」という仮説が事実に裏付けられているかどうかを確かめるため、公認会計士試験の出題内容を「どのような会計観に根ざしたものなのか」という観点から分類する作業に着手した。当該調査はいまも進行中だが、制度会計を支えているとされる収益・費用観に根ざした出題の比率が高いことは、これまでの調査から明らかとなっている。多くの市場関係者が望ましいと考えている規則的償却もまた、収益・費用観と整合的な処理であることから、前述した仮説は現時点において受容されている。 昨年度はまたこれまでの研究成果が企業会計を取り巻く環境の異なる海外でどのように評価されるのかを確かめるため、海外での成果報告に努め、また近い将来に報告するための環境を整えることにも努めた。「買い入れのれんの望ましい会計処理」に係る市場関係者の認知がどのように決まるのか、を確かめるためには、他法域の市場関係者に係る認知についても幅広く情報を収集する必要があるためである。具体的には、国立台湾大学に在籍する研究者との交流プログラムにおいて研究報告を行うとともに、2024年度にフランス会計学会で報告を行う段取りを整えた。 加えて、これまでの研究成果の一部をできるだけ早く世に問い、研究者からのフィードバックにもとづきより多くの知見を得るべし、という方針にもとづき、浅見・米山ほか1名による書籍『投資のリスクからの解放 -純利益の特性を記述する概念の役割と限界-』(中央経済社)を出版した。同書には、現行会計基準を支えている基礎概念の解釈に応じて、基礎概念と整合する買い入れのれんの会計処理を複数想定しうる旨が記されている。こうした知見は、本基盤研究の活動に由来するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画によれば、2023年度にはオーストラリアの会計基準設定主体で買い入れのれんの会計処理に係るインタビュー調査を行う予定となっていた。オーストラリアを調査対象としたのは、会計制度を支える基本的な考え方(基本思考あるいは会計観)が日本と対照的であることが知られているからである。日本では規則的償却(と減損処理)が広く支持されているのに対し、オーストラリアでは非償却(減損処理のみ)というアプローチが強く支持されている。証券市場を取り巻く環境に係る法域毎の相違が縮小されつつある中でも、基本的な利益観に係る相違はほとんど解消されていない。その理由を探ることは、「買い入れのれんに係る会計処理の望ましさに係る価値判断が何に根ざしているのか」という、本基盤研究の主要な研究主題と密接に結びついているため、オーストラリアの基準設定主体との日程調整を目指した。この調整が不調に終わり、インタビュー調査が2024年度以降に順延となったことが、研究の遅れを生み出した最大の要因だというのが自己評価である。 他方で、当初の予定より少し遅れたものの、オーストラリアの基準設定主体を対象としたインタビュー調査に代わり、フランス会計学会において研究報告の機会が与えられたことから、上記の遅れは部分的に補償されている。フランスは基本的な会計観において、むしろ日本と共通する部分も多い国として知られているが、買い入れのれんに限っては、望ましい会計処理に関して日本と異なる(オーストラリアに近い)スタンスを一貫して堅持している。買い入れのれんに限って極端に大きな差異が生じている原因の解明もまた、買い入れのれんの会計処理に係る市場関係者の認知がどのような要因に規定されているのか、という本研究の主要な研究主題の解明に近づくことができるのではないかと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は本基盤研究の最終年度である。これまでの研究成果をとりまとめ、出版物として結実させる必要に迫られている。こうした事情から、メンバーによる会合をより多く開催し、研究を進捗させることに留意する。 本基盤研究の成果は、海外の会計研究者や海外の会計基準設定主体にとって重要な知見・含意を有していることから、現時点において、英文書籍として研究成果を出版することが本研究メンバーにとっての努力目標となっている。 よく知られているように、書籍の出版に際しては、適時性と網羅性のトレード・オフ問題が生じる。すなわち、ある一定時期までに書籍を出版することを「不動の目標」とした場合、書籍の体系性や網羅性を高めるために現在進行形で行っている研究成果を書籍に含めることを、部分的に諦める必要が生じる。実際、本基盤研究においても、この問題は既に顕在化している。 すなわち書籍の各章を構成する「研究パーツ」は、現時点においてほぼ揃った状態となっている。他方で各パーツはこれまで、他の章における記載内容を必ずしも意識せずに作成されてきた。ゆえに、書籍内の一貫性・整合性は現時点においては十分に保たれていない。これから行うインタビュー調査の成果を書籍にとりこむなど、書籍で扱う研究内容の網羅性を高める努力も継続するが、その一方で、これまでの研究成果をレビューし、全体として整合的な記述となっているかどうかをチェックすることにも、かなり多くのリソースを割く必要に迫られている。 上記のように、2023年度までと異なり、今年度は、研究領域の拡大には制約を課し、一貫した研究成果が得られているかどうかを確認する時間を設けなければならない。確認の過程で「漏れ」が明らかとなった場合には、至急その「漏れ」あるいは「穴」を埋めなければならない。こうした必要性をメンバーと共有することに努める。
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