研究課題/領域番号 |
23K22170
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補助金の研究課題番号 |
22H00899 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
玄 武岩 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 教授 (80376607)
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研究分担者 |
金 敬黙 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (00388620)
福島 みのり 名古屋外国語大学, 現代国際学部, 准教授 (30553987)
金 誠 札幌大学, 地域共創学群, 教授 (40453245)
本庄 十喜 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (40584454)
李 美淑 大妻女子大学, 文学部, 准教授 (40767711)
倉橋 耕平 創価大学, 文学部, 准教授 (40783163)
松井 理恵 跡見学園女子大学, 観光コミュニティ学部, 准教授 (50830676)
森 類臣 摂南大学, 国際学部, 准教授 (60635093)
呉 世宗 琉球大学, 人文社会学部, 教授 (90588237)
金 明柱 同志社女子大学, 現代社会学部, 助教 (20905921)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
12,740千円 (直接経費: 9,800千円、間接経費: 2,940千円)
2024年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2022年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
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キーワード | 日韓連帯 / 親密圏 / 公共圏 / 戦後補償運動 / 物語アプローチ |
研究開始時の研究の概要 |
日韓「65年体制」に回収されないかたちで市民社会によって築かれてきた「日韓連帯」という社会運動のコンタクト・ゾーンの歴史的系譜をたどり、そこに作動する理念/共感の継承と発展の連続性および断絶性を、「親密圏」と「公共圏」を2つのキーワードとして考察する。それをとおして、日韓関係における越境的な下からの公共性を築いてきたトランスナショナルな運動文化に作用する思想と行動のメカニズムを探り、その基層にあるものに迫る。
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研究実績の概要 |
本研究は、1970-80年代の韓国の民主化に向けて連帯する日韓の市民運動と、1990年代以降に本格化する戦後補償運動など市民社会の協力・交流が地続きであるものとして捉えることでみえてくる「日韓連帯」の言説と行動のメカニズムについて考察するものである。 初年度にあたる2022年度は主にワークショップを開催し、以上の問題意識の共有に努めた。共同研究の取り組みはすでに開始していたことから、共同研究のメンバーは問題意識を共有しつつ、それぞれのフィールドを中心に考察を進め、その進捗状況についてもワークショップを開催して議論を深めた。2022年7月に開催した神戸ワークショップは非公開であったが、同年12月16日開催の「国民国家を越える伝統、文化、そして連帯」(早稲田大学)、2023年1月27日開催の「戦後補償運動と日韓連帯」(北海道大学)は一般公開した。 本研究と連携する韓国国際交流財団の事業との共催のかたちで開催した国際シンポジウム「グローバルな物語としての「パチンコ」-「在日」の表象と植民地主義の記憶」(東京大学、2022年10月29日)も重要な実績のひとつである。共同研究者のうち5名が直接かかわって成功させた同シンポジウムに、対面とオンラインを含めて400人以上が参加した。シンポジウムの議論に基づいて、『グローバルな物語の時代と歴史表象-「PACHINKO パチンコ」がつむぐ植民地主義の記憶(仮)』を2023年中に青弓社より出版する予定である。 本研究の研究活動および研究成果を社会に向けて広く発信するホームページ(https://nikkan-rentai-forum.com)を立ち上げた。これは本研究の情報発信のためのものであるが、日韓連帯研究会のホームページとして共同研究の終了後も継続して使用するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、主にワークショプをとおして研究テーマの枠組みを整理する一方、共同研究者はそれぞれのフィールドで調査を続け、研究論文の執筆に取り掛かっている。出版社はまだ決まっていないが、その成果として『「日韓連帯」を研ぎ澄まして- 断絶・連結・継承(仮)』を2023年度中に刊行する予定であり、本研究は順調に進んでいる。 連携する韓国国際交流財団の事業として開催したものであるが、2022年上半期に実施した日韓連帯市民講座(全7回)によって、「日韓連帯」を実践する市民運動の団体や組織とのさまざまな関係構築に結びつき、市民運動と学術的な考察が絡まり合う好循環を生み出すことで、今後の問題意識の深化や研究領域の拡大にも大いに役立つことが期待できる。こうした試みは、日韓関係に携わる研究者・活動家たちが、平和研究を基盤にしてポスト冷戦時代を見据えた新たな日韓関係のあり方について対話を行い、市民社会の領域からいわゆる「65年体制」を乗り越える方法を提案するきっかけにもなりうる。 本研究の目的が、たんに「日韓連帯」に関わる市民的活動の考察ではなく、社会運動論におけるナラティブ・アプローチをとおして親密圏と公共圏を媒介するメカニズムを明らかにすることで、理論的にも貢献することを目指しているように、社会運動論における考察も順調に進んでいる。その手がかりとして、社会運動論から「日韓連帯」の歴史と現在を照射し、その連続/断絶をたんなる運動の形態や組織の継続か否かの問題ではなく、社会運動観や理論的枠組みの変化を反映するパラダイムの問題として把握することになるが、こうしたアプローチはこれまでにない新たな視点といえるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の理論面における重要な概念となるのが「親密性」である。「日韓連帯」の連続と断絶の契機を見出すために、公共圏/親密圏からアプローチすることになるが、これら二つの領域は社会運動の動員論/行為論に代表される理論的潮流から考察することで明瞭に浮かび上がってくる。そこで、「親密圏が公共圏を支える」という立論を提示するため、「日韓連帯」として現れる集合行動の内的で文化的なダイナミズムに迫るものとしてナラティブ・アプローチの有効性を示し、日韓の市民社会が育んできた信頼と紐帯、規範と価値を捉える意義について考察することが求められる。 こうした「親密性」の手がかりとなる議論が、レオ・チン『反日-東アジアにおける感情の政治』(倉橋耕平監訳、人文書院、2021年)である。国家間における和解は条件付きのものであり、別の形の和解の道を模索することを提唱する本書は、「親密性を理論化する」ことをとおして、ポストコロニアルの東アジアにおける脱帝国化・脱植民地化・脱冷戦化の課題に向き合うことを提唱する。今後、『反日』/Anti-Japanの著者であるレオ・チン氏を招いて「親密性」概念の理論化について議論する。 「日韓連帯」については、韓国ではあまり議論が活性化されていない。それは「日韓連帯」の歴史的・政治的意味は、それぞれの時代状況および社会構造によって変化するため、韓国の「民主化」の実現による「日韓連帯運動」の政治的役割の終了が、「日韓連帯」に断絶をもたらす結果となったことによる。したがって、本研究の問題意識を日本国内でのみ議論するのではなく、韓国で発信して今後の国際的な共同研究への取り組みにつなげることも重要な課題である。その一環として、韓国の人文社会科学研究団体である細橋(セギョ)研究所と協力して、本研究の成果を韓国で報告して議論する国際シンポジウムをソウルで開催する予定である。
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