研究課題/領域番号 |
23K22399
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補助金の研究課題番号 |
22H01128 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分12010:基礎解析学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
梶野 直孝 京都大学, 数理解析研究所, 准教授 (90700352)
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研究分担者 |
Croydon David 京都大学, 数理解析研究所, 准教授 (50824182)
中島 誠 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 准教授 (60635902)
田中 亮吉 京都大学, 理学研究科, 准教授 (80629759)
白石 大典 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (00647323)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
16,900千円 (直接経費: 13,000千円、間接経費: 3,900千円)
2026年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2025年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2024年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2023年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2022年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
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キーワード | 劣ガウス型熱核評価 / フラクタル上のポテンシャル論 / ランダムフラクタル / フラクタル上の確率過程 / 自己等角フラクタル / ポテンシャル論 / (劣)ガウス型熱核評価 / 調和測度 / 反射壁拡散過程の境界へのトレース過程 / フラクタル上のp-エネルギー形式 / スケール極限 / ランダムウォーク / フラクタル上の確率熱方程式 / 2次元一般化Sierpinski carpet / ランダム媒質中の確率過程 / 離散群上のランダムウォーク |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の主題は,熱方程式に現れる微分作用素であるラプラシアンのフラクタルにおける対応物,および熱拡散に対応する確率過程の,解析的性質・幾何的性質と両者の相互関係である.既存の研究では熱拡散の速さに対する不等式評価とその直接的な応用に関するものが主流である一方,確率過程の大域構造・調和測度(確率過程の境界集合への初到達位置の確率分布)・エネルギー測度など熱方程式の解を用いて直接記述することが困難な基本的対象も多く,後者の研究はその重要性にも拘らず遅れている.本研究課題では,一方に偏らない両者の研究の進展,ひいてはフラクタルおよびその上の確率過程の解析学・幾何学の包括的な発展を目標に研究を行う.
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研究実績の概要 |
梶野はM. Murugan氏と共同で一様領域上の反射壁拡散過程の境界への調和測度に対する上下評価および境界へのトレース過程の具体的記述と上下からの熱核評価を与え,またM. Slowik氏・B. Wille氏と共同でフラクタルグラフ上のランダムコンダクタンス模型に対しコンダクタンスの独立同分布性と一定の正負のモーメントの存在の仮定の下で上下からの熱核評価を与えた.さらに清水良輔氏(早稲田大)と共同で一定の幾何的対称性を満たす有限分岐的自己相似フラクタルでは異なるpに対するp-エネルギー測度が互いに特異になることを証明した. CroydonはEleanor Archer氏 (Paris Nanterre)と共同で,ランダム双曲半平面三角分割上のランダムウォークが高次元臨界パーコレーションに対して期待されているのと同様のスケール極限を持つことを証明した. 中島はS. Albeverio氏 (Univ. of Bonn), 楠岡誠一郎氏(京都大),梁松氏(早稲田大)と共同で高分子の模型であるEdwards模型の解析を行い,模型を記述する確率測度(Edwards測度)がWiener測度と特異になる3次元の場合にEdwards測度を不変測度とするMarkov過程を構成した. 田中は双曲群の積の境界に定まる調和測度について次元公式を得た.これはフラクタル幾何学では自己アファイン測度の解析に相当し,自己相似測度の場合と比べて本質的な困難がある.また関連してランダムウォークのノイズ鋭敏性と安定性についての研究も行った. 白石はK. Burdzy氏とS. Feng氏と共同で,2次元ランダムウォークのtan point(ランダムウォークがその点は通過するがその「右側」は通過していないような点)の個数の下からの評価を与えた.証明にはこれまでのループ除去ランダムウォークの研究で培った知見が活用されている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
まず梶野が当該年度に行った共同研究のうち,Murugan氏と行った反射壁拡散過程の境界への調和測度とトレース過程に関する研究は概ね期待していた通りに進展した.これは研究計画調書に記した課題(1)-(7)のうちの(4)「領域上の調和測度」の研究に大きな進展をもたらすものであると同時に,近年急速に進展した飛躍型マルコフ過程に対する熱核評価の一般論を適用できる非自明な具体例を多数提供しているという点でも意義深い結果と言える.またM. Slowik氏・B. Wille氏と行ったフラクタルグラフ上のランダムコンダクタンス模型の研究は課題(2)「ランダムフラクタルでの熱核評価」の研究を一定程度進展させたと言える. さらに清水氏と行ったp-エネルギー形式・p-エネルギー測度の研究は広い意味で課題(5)「エネルギー測度」に関連するものであるが,この研究でp-エネルギー形式の理論の整備が大きく進み,さらにそれを活用することで有限分岐的自己相似フラクタル上のp-調和関数の性質についての理解も深まるなど,年度当初にはほとんど想定していなかった高水準の進展があった. Croydon・中島・田中・白石も関連する研究課題について精力的に研究を行うとともに,論文の公表および研究発表も着実に行っており,本科研費研究課題の目的は十分に果たせていると評価できる.研究計画調書に記した課題(1)-(7)のうち,Croydonの研究は課題(2)「ランダムフラクタルにおける熱核評価」,中島の研究は課題(6)「フラクタル上の拡散過程を土台にした統計物理モデルの解析」,田中の研究は課題(4)「領域上の調和測度」,白石の研究は課題(3)「拡散過程の標本路の大域構造」にそれぞれ広い意味で関連するものである. 以上の経過から,全体として研究は当初の計画以上に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
2023年度には新規の研究に大きく進展があった一方で年度当初に念頭に置いていたいくつかの課題には取り組むことができなかったため,まずはその課題に取り組めるよう努める. 具体的には,研究代表者の梶野は2次元一般化Sierpinski carpetにおける自然な部分領域上の調和関数の境界付近での減衰の速さの評価および「ガウス型熱核評価の実現不可能性」の結果を速やかに論文にまとめ投稿できるよう引き続き努力する. また課題(1)「熱核評価の特徴付けや安定性についての一般論」・課題(2)「ランダムフラクタルにおける熱核評価」に関して,Murugan氏によるプレプリント [arxiv:1809.00767] の結果をランダムフラクタルにも適用可能な形に改良することを目標に引き続き検討を進める. さらに課題(7)「自己等角フラクタル上のラプラシアン」については,梶野のこれまでの研究における手法の応用により単純曲線でないフラクタルやランダムな単純フラクタル曲線の上に自然なラプラシアンを構成できないかを,自己等角フラクタルに関する先行研究を精査しつつ検討する. 2023年度に新規に行ったM. Slowik氏・B. Wille氏と共同で行ったフラクタルグラフ上のランダムコンダクタンス模型に対する熱核評価の研究や清水氏と行ったp-エネルギー形式・p-エネルギー測度の研究についても,当該結果を論文にまとめるとともに,結果のさらなる改良・拡張に向けて努力する. その他,研究計画調書に記した課題(1)-(7)および関連する新たな研究課題について,梶野および研究分担者のCroydon・中島・田中・白石がそれぞれ引き続き国内外の研究集会に出席して近年の研究の進展に関する情報の把握に努めるとともに,Croydon,中島,田中,白石と梶野の間で必要に応じて研究打合せを行うことにより解決に向けて努力する.
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