研究課題/領域番号 |
23K22414
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補助金の研究課題番号 |
22H01143 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
笹本 智弘 東京工業大学, 理学院, 教授 (70332640)
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研究分担者 |
佐々田 槙子 東京大学, 大学院数理科学研究科, 教授 (00609042)
今村 卓史 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (70538280)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2025年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2024年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2023年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2022年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
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キーワード | 非平衡統計力学 / 揺らぎ / 流体力学 / KPZ普遍性 / 可積分系 / 非平衡 / 大偏差 |
研究開始時の研究の概要 |
非平衡多体系の流体力学的記述や揺らぎについて、ミクロ系に対する具体的な計算を、微視的および巨視的に進めることにより理解を深める。まずは巨視的揺らぎ理論を古典可積分系にマップして解く手法を発展させ、同時に微視的計算との比較を行うことにより、両者の関係を探る。さらに一般化流体力学における揺らぎ、古典可積分系の長時間による揺らぎや、KPZ普遍性との関連についての理解も深める。
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研究実績の概要 |
非平衡統計力学研究において、相互作用する多体系の非平衡状態における揺らぎは中心的な課題である。伝統的に、拡散的(diffusive)な振る舞いを示す系の揺らぎの性質が主に調べられており、そのための理論として、揺らぐ流体力学(macroscopic fluctuation theory, 以下MFT)と呼ばれるものなどがあるが、一方、近年は弾道的(ballistic)な性質を示す系の流体力学も関心を集めている。研究代表者は、B. Doyon氏らとの共同研究において、弾道的な性質を示す系に対する非平衡揺らぎを扱う一般理論として、弾道的揺らぐ流体力学(ballistic macroscopic fluctuation theory)なる理論の基礎部分を構築し、最初の2つの論文を完成し、出版した。 また、前年度中に、拡散的な系の代表例である対称単純排他過程に対する揺らぐ流体力学の基礎方程式を古典可積分系にマップし厳密に解くという成果を挙げていたが、これを発展させるべく、Kirone Mallick教授のところに3週間滞在して研究を継続し、いくつかの予備的な結果を得た。 分担者の佐々田は、二つの集合の直積空間上の全単射が、独立性保存則を持つこととYang-Baxter写像であることとの関連についての研究を行った。特に、Yang-Baxter写像の中でもquadrirational mapは全て独立性保存則を持つことを明らかにした。 研究成果を広く周知すると同時に、関連分野における最新の情報を収集するため、Mallick教授とともにSaclay大(フランス)で27th Itykson conference: Fluctuations far from Equilibriumと題する研究集会を開催した。数名のボルツマンメダリストも参加し、ハイレベルな講演が多く、成功であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すでに取り組みつつあった弾道的性質を示す系に対する揺らぐ流体力学の構築に関しては、その基礎部分を完成させて論文を完成し、出版までされたという意味で、計画はまずは順調に進んでいるといえる。ただその後、拡散の効果を取り入れること、1成分系の精緻な解析、2成分系への応用、衝撃波の影響を取り入れること、超拡散の取扱いなど、色々な発展が考えられ、どのテーマについても一定程度理解は進みつつあるが、完成には至っておらず、非常に順調に進んでいるとまではいえない。 拡散的な系に対する揺らぐ流体力学の基礎方程式を、古典可積分系にマップして解くというテーマに関しては、Mallick教授を訪問するなどして議論を積み重ね、いくつかの予備的な結果を得たという意味では、計画はおおむね順調に進んでいると言える。一方で、関連するテーマに関して新たな論文を完成させるところまで到達できなかったという意味では、非常に順調に進んでいるとまではいえない。 散逸量子多体系における興味深い現象である散逸時間結晶の由来について、PT対称性と関連している可能性を示唆する計算結果を得て、論文出版まで至ったのは、当初予期しておらず、思っていた以上の進展が得られたと言える。 他に取り組んでいる課題として、Kardar-Parisi-Zhang(KPZ)系と自由フェルミオンとの関連の理解を進めるというものがあり、こちらについては時間がかかっているが、分担者の今村氏とも議論を重ね、着実に進展はしており、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
弾道的な性質を示す系に対する揺らぐ流体力学に関しては、進捗状況の説明欄でも書いたように、今後進めるいくつかの方向性が具体的にあり、現在進めている状況であるが、今後はそれらを完成させてゆくということが基本的な方策となる。どの課題も非自明な問題があり、当初の予定よりは時間はかかってはいるが、行き詰まっているわけではないので、着実に進める。 拡散的な系に対する揺らぐ流体力学の基礎方程式を、古典可積分系にマップして解くというテーマに関しては、現在すでにいくつかの方向で進展させている。例えば空間的に離散的な格子上で定義された古典可積分系との関連を見出し、連続系での手法を拡張適用する研究を進めている。これは、単純に離散的な系に対する一般化というだけではなく、これまで同時に行っていた流体力学的極限と状態数無限の極限を分離して取り扱うことに対応していると解釈でき、これまでより精密な理解を得ることができると期待できるため、優先的に取り組む。他にも、半無限系など異なった状況の系への適用や、多点での揺らぎの大偏差の決定、ソリトンの存在の解への影響の理解など、興味深い課題がいくつもあるので、多面的に検討を進める。 Kardar-Parisi-Zhang(KPZ)系と自由フェルミオンとの関連の理解を進める課題に関しては、以前の研究では不明であった、KKR対応とよばれる別の線形化法との関連を明確に理解できたので、論文執筆を進める。 他にも興味深い課題として、スピン鎖においてKPZ的振る舞いが現れる理由を理解するというものがある。KPZ系に対する厳密解の理解を深めることと、上記の課題での知見を組み合わせることで進展をもたらすことができる可能性があるので、検討を進める。 さらに流体力学極限、決定論的な時間発展に対する普遍測度に関する研究も進める。
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