研究課題/領域番号 |
23K22420
|
補助金の研究課題番号 |
22H01149 (2022-2023)
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13020:半導体、光物性および原子物理関連
|
研究機関 | 関西学院大学 (2024) 東北大学 (2022-2023) |
研究代表者 |
伊藤 弘毅 関西学院大学, 理学部, 教授 (70565978)
|
研究分担者 |
井口 敏 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (50431789)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
18,200千円 (直接経費: 14,000千円、間接経費: 4,200千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2022年度: 14,690千円 (直接経費: 11,300千円、間接経費: 3,390千円)
|
キーワード | 電荷秩序 / 電荷ゆらぎ / テラヘルツ強電場 / 有機伝導体 / 光誘起相転移 / 電子強誘電体 / 強相関電子系 |
研究開始時の研究の概要 |
雪の結晶成長が大気中の塵をきっかけとして始まるように、非一様性が起爆剤となって「ドミノ倒し」のように巨大変化が生じることがある。 本研究では、強相関電子系と呼ばれる物質では非一様な電子構造ができることに注目し、強い光やテラヘルツ波などで刺激して、その際の物性変化(電気伝導性、強誘電性、磁性)を追跡する。先端光技術を駆使し、サブピコ秒(一兆分の一秒未満)の超高速ダイナミクスを明らかにすることで、光で物質を操る設計指針が得られると期待される。
|
研究実績の概要 |
1.テラヘルツ強電場ポンプ・光第二高調波発生(SHG)プローブ測定系を用いて、強相関鉄酸化物RFe2O4について空間分解測定を行った。260kV/cmの電場でSHG増加率が170%にも達する(バルク強誘電体として史上最大)ことがある一方、測定位置によっては、さらにその数倍以上の変化を示すことが解った。各々の測定位置でSHG異方性の過渡変化(~ピコ秒)を非線形光学テンソルにより評価したところ、前者では単一の強誘電ドメインの応答として理解できた一方、後者では反平行分極が混在したマルチドメイン状態を仮定した解析によってのみ解釈できることが解った。このことは、マルチドメインが単一ドメインより巨大応答を示すこと、即ち空間的非一様性に特有のダイナミクスの存在を示唆している。 2.多くの先行研究ではSHG時間変化はテラヘルツ時間波形と相似形であった。だが本研究ではRFe2O4のSHG変化率が時間とともに増加する挙動が観測され、その変化は波形と相似形でないばかりか、波形の巾乗や微分を用いた解析でも説明できない。そこで実験的なアプローチとして、テラヘルツポンプ光を分割して独立に時間遅延を与えられるダブルパルス系を構築し測定を行った。その結果、シングルパルス励起時には見られなかった特異な時間変化の観測に成功し、「非相似形」な応答であることが確かめられた。本結果は、微視的ドメインの協力効果といった新奇な現象の存在を示唆している。 3.前年度までに開発した偏光変調測定法により、対称性の低い結晶においても高精度な磁気光学効果の検出が可能となった。本手法を有機伝導体κ-(ET)2Cu[N(CN)2]Clに適用し、広帯域(赤外)に非対角伝導度スペクトルが得られた。その形状はスピン軌道相互作用を基にした理論計算と良く一致しており、反強磁性スピン構造に由来する磁気光学効果を実証できたことを意味する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.空間的非一様性の新奇ダイナミクスを明らかにするためには、テラヘルツ強電場を用いたポンププローブ測定を空間分解の手法で行わねばならず、そのための実験系を構築することが必要であった。本研究では、まずポンププローブ測定系を稼働させ、それを空間分解測定に対応させる段取りによってスムーズに実験系を構築できたため、順調に電子強誘電体RFe2O4の測定に取り掛かれた。実験を行ったところ、顕著な測定位置依存性が見られ、それが期待どおり強誘電ドメイン構造に由来することがテンソル成分のフィッティング解析により示唆されている。一部の成分において、時間的不連続などの不自然な挙動も残るが、これはフィッティング条件の最適化による解決が見込まれる。測定済の位置を起点として周囲で同様な評価を行えば、空間構造との対応が明らかになると期待される。 2.テラヘルツ電場下のRFe2O4が示す特異な時間変化は、微視的ドメインの寄与を示唆している。一般に、空間構造であるドメインの応答を知るには空間分解測定が最適であるが、本研究において、時間変化からのアプローチも有効であることが解った。空間および時間分解測定を共に進めることで、本研究で注目する空間的非一様性に関し相補的な知見が得られると期待される。 3.本研究で磁気光学効果の検出スキームを開発した理由のひとつは、有機伝導体κ-(ET)2Cu[N(CN)2]Clにおける特異なスピン構造に由来した効果を検出するためであり、この点は達成されたと言っても過言ではない。本成果を出発点とすることで、本手法をより広範囲の物質に展開できる道が拓かれたと言える。
|
今後の研究の推進方策 |
A.電子強誘電体RFe2O4が示す光第二高調波発生(SHG)ダイナミクスは試料上の測定位置によって変化したが、これは強誘電ドメインの寄与を強く示唆している。そのことを確かめるために、空間マッピング測定を行う。測定位置を二次元的に走査し、各点でSHGの異方性やテラヘルツ電場下ダイナミクスを評価することで、空間的な規則性の有無や試料の表面状態との関連を確かめる。顕微テラヘルツ波発生を並行して行って強誘電ドメイン構造を可視化することで、両者の対応、な らびに、空間的非一様性に特有な応答を明らかにする。 B.RFe2O4において、テラヘルツ電場下でのSHG強度の時間変化は、テラヘルツ時間波形と非相似形で、遅れを伴ってSHGの感度が上昇しているように見える。これは他物質における先行研究と全く異なる挙動で、微視的な電子強誘電ドメインの寄与を示唆している。ダブルパルス実験により、その詳細解明を目指す。二連のポンプパルスを作って相対的時間遅延を変えることでテラヘルツポンプ波形を時間領域で制御し、その応答を精査する。このような測定は前例が無いが、テラヘルツ電場に敏感かつ柔軟に応答できる電子強誘電体になら適用できる。SHG時間変化は、テラヘルツ時間波形の単なる巾乗や微分では今のところ再現できていないが、より高次の寄与も取り入れた解析も試みる。A.の実験と組み合わせることで、時空間から電子強誘電ドメイン構造の応答を明らかにする。 C.有機伝導体における磁気光学効果は複屈折性に埋もれて検出が難しいことが多いが、本研究で開発した手法により(BEDT-TTF)2Xにおいて観測に成功した。より広範囲の物質群に適用することで、これまで見過ごされてきた、スピン構造由来の効果を探索する。
|