研究課題/領域番号 |
23K22424
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補助金の研究課題番号 |
22H01153 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13020:半導体、光物性および原子物理関連
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
沖本 洋一 東京工業大学, 理学院, 准教授 (50356705)
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研究分担者 |
池田 直 岡山大学, 環境生命自然科学学域, 教授 (00222894)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,680千円 (直接経費: 13,600千円、間接経費: 4,080千円)
2024年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2023年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2022年度: 9,750千円 (直接経費: 7,500千円、間接経費: 2,250千円)
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キーワード | 電子強誘電体 / 非線形光学分光 / 電気磁気効果 / 強誘電体 / 第二次高調波発生 / 時間分解測光 / 鉄複合酸化物 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、鉄複電荷酸化物RFe2O4(R:希土類イオン)に対し、フェムト秒レーザパルスを用いた非線形光学特性測定、特に第二次高調波発生(SHG)観測を通してその電子強誘電性とその起源を明らかにする。研究に用いるRFe2O4単結晶試料は分担者の池田が合成する。具体的には、RFe2O4結晶においてDC電場印加による抗電場評価、光による電荷整列擾乱による分極ダイナミクスの解明、磁場による新奇電気磁気効果の探索を行い、従来型強誘電体には無い電子強誘電体にオリジナルな強誘電性機能を提示してみせる。
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研究実績の概要 |
鉄複電荷酸化物RFe2O4(R=希土類イオン)は、W-Layerと呼ばれるFeイオンと酸素イオンからなる二重層が積層してできた構造を持つ。このW-Layerの間でFe2+とFe3+ の数が不均化を起こすために、RFe2O4は室温で電気分極を持つ。このような材料は電子強誘電体と呼ばれ近年注目を集めている。本研究では、この電子強誘電体RFe2O4(R=希土類イオン)の強誘電分極を、光、電場、磁場で制御し、観察することが目的である。研究初年度では、LuFe2O4結晶(R=Lu)の光照射による分極状態の高速制御を試みた。まず初めに、LuFe2O4結晶のab面およびac面における第二次高調波発生(SHG)の入射偏光角依存性を測定し、この系の二次の非線形感受率のc軸成分に起因する成分を初めて観測することができた。次に、LuFe2O4結晶のフェムト秒時間分解ポンプ・プローブSHG変化の測定を行った。この結晶に800 nmのフェムト秒パルスを照射するとFe2+→Fe3+ のd-d 遷移が発生し、それによって鉄イオンの電荷秩序構造が擾乱されることが知られている。よって、そのような光励起にともなって、SHG,すなわち系の分極状態がどのような時間スケールで変化するかを詳細に調べた。その結果、この光励起によりab面内のSHG強度は100フェムト秒以内に減少しその状態が保持されるのに対し、c軸方向のSHG強度は瞬間的に励起前よりも増大した後に1~3ピコ秒かけてゆっくり元の状態に回復するという極めて異方的な分極ダイナミクスが観測された。これから、W-Layer内の面内の電荷整列状態は光励起で大きく乱されるのに対し、W-Layer間のFe2+とFe3+ の不均化構造はむしろ増大し、その結果系の分極が増強することがわかった。本研究から、光照射により電子の秩序によって発生する非熱的な分極増大が起こること、およびその分極変化を室温で100 fsスケールで高速に制御することができることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、電子強誘電体と目される複電荷鉄酸化物RFe2O4(R=希土類イオン)の強誘電分極を、光、電場、磁場で制御し、その変化を実空間観察することが目的であり、研究初年度では、LuFe2O4結晶の光照射による分極状態変化をSHGを用いて観測することに成功するだけでなく、光による分極のC軸成分の増強といった予期せぬ新現象も発見している。この結果は学術論文としてまとめ、現在Physical Review Materialsに投稿中である。 更に、次年度以降の研究に向けて、外部電場、および磁場を印加しながらSHGを測定できる光学システムの構築を新たに行っており、予備的な成果が出つつある。さらに分担者の池田は、YFe2O4(R=Y)といった新種の電子強誘電体の合成に成功しており、また岡山大の藤井グループも、スパッタリング法を用いて電子強誘電体の薄膜結晶の合成に成功している状況であり、これら新結晶の分極構造解明と新機能の探索を行っていく。本研究の最初の目的である、電子強誘電体の外部電場、および磁場下での電子強誘電体の分極変化を測定する準備が整っている状況である。 (なお、次年度以降の磁場印加によるSHG変化測定に向けて、電子強誘電体のスピン構造を調査する必要があり、そのために米国オークリッジ研究所で中性子回折実験を行うことが予定されていたが( 課題番号 IPTS-29259),原子炉の不調のため、実験が2023年4月以降に延期されることになり、そのための諸費用として科研費補助金の一部の次年度への繰り越しを行った。)
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、光照射後の電子強誘電体の超高速、かつ異方的な分極ダイナミクスを測定し成果をまとめることができた。本研究では、さらに電子強誘電体の外部電場、および磁場を印加した場合に電子分極がどのように変化するかを明らかにする必要がある。そのために、次年度以降は、電子強誘電体にテラヘルツ電界、および磁場を加えながら第二次高調波測定を行い、電子強誘電体の新機能を更に明らかにしていく。また、結晶表面のイメージングのための測定系の構築も同時に進めていく予定である。
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