研究課題/領域番号 |
23K22440
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補助金の研究課題番号 |
22H01169 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐々木 豊 京都大学, 理学研究科, 教授 (60205870)
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研究分担者 |
松原 明 京都大学, 理学研究科, 准教授 (00229519)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
16,900千円 (直接経費: 13,000千円、間接経費: 3,900千円)
2025年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2024年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2022年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
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キーワード | 超流動 / スーパーカレント / 量子流体力学 / カイラル / 超流動ヘリウム3 / カイラル超流動 / カイラルドメイン / ドメインウォール / テクスチャー / MRI |
研究開始時の研究の概要 |
超流動体には、摩擦による減速なしに永久に流れ続ける超流動流が存在し、未来における情報伝達の柱となる可能性がある。シンプルな超流動体では、超流動流が波動関数の位相の空間変化により与えられる。一方、カイラル超流動体である超流動ヘリウム3-A相においては、位相変化による流れのみならず、波動関数そのものの空間変化に応じた、質量ならびにスピンの超流動流が存在すると考えられているが、超流動流の直接的な測定手段がなく明瞭な実験検証はなされていない。本研究ではこの2種の超流動流の実在を磁気共鳴映像法を利用した新開発の手段で実験的に検証し、2流体モデルを超える、3流体量子流体力学の必要性を検証する。
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研究実績の概要 |
ギャップの狭い平行平板セルに閉じ込めたカイラル超流動ヘリウム3A相は、カイラリティがマクロに揃ったテクスチャーを基底状態として保有するが、実験的に実現される状態は、カイラリティが平板の法線方向あるいはその逆方向にマクロにそろったカイラルドメインがドメインウォールを挟んで隣接する、カイラルドメイン構造を自発的に取ることが多い。複数のドメインウォールが隣接するとき、ウォールの面積を最小とするため、お互いに平行となることが期待されるが、超低温MRI撮影装置で撮影された配置は、必ずしも平行とはならず、1本毎に逆の方向に傾いた八の字あるいは逆八の字パターンを描いて配置されることもあった。この八の字配置の成因がウォールを横切って流れるスーパーカレントの影響によるものであることを、ウォールを横切るスーパーカレントが自然発生できない構造の平行平板セルでは平行配置となることにより確認し、さらに熱対向流を利用して発生したスーパーカレントを印加することで八の字あるいは逆八の字パターンを発生できることを実証した。その結果、スーパーカレントの向きと隣接する2本のウォールの傾きの方向の関係から、2本のウォール間ドメインのカイラルベクトルの向きを決定できることも実証した。マクロな大きさのカイラルドメインを実空間上で配置することで、カイラル超流動体の流れ応答の実験研究への新たな道が開かれたことになる。この成果の一部は研究分野の最高会議である量子流体固体国際会議QFS2023の招待講演として報告された。また、スピンスーパーカレントと密接に関わるスピン空間の異方性を表すdベクトルが一方向に沿って旋回するdソリトン構造の生成と実空間観測にも成功した。スピン空間のdベクトルと軌道空間のlベクトルが規則正しく空間変調を受ける超流動体の中では、スピンスーパーカレントとマススーパーカレントが流れ続けることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平行平板セルを用いて超流動ヘリウム3のカイラルドメイン構造と流れの関係についての研究成果をあげ報告したことは概要欄に記述した通りである。 これとは並行して、マススーパーカレントと超流動体の相互作用検証に向け、定常的な流れの向き速さを制御して与えるために、本邦唯一の回転核断熱消磁冷凍機を整備増強する作業を進めてきた。23年度には、新設計に基づく高純度銅製の核断熱消磁冷凍段の形状加工を行い、高い残留抵抗比を示す高熱伝導状態にするための酸素焼鈍を行った。完成後の検査で得られた残留抵抗比1000は満足のできる熱伝導度を達成したことを保証している。また、この断熱消磁冷凍段にあわせて、予冷用高熱伝導熱リンク、断熱用高純度アルミ熱スイッチなど周辺構造の製作を進め、まもなく最終組み立てを開始できるところまで到達した。 また、これとは別に、細い円筒形容器に閉じ込めた超流動ヘリウム3を対象に、磁気共鳴分光映像法(MRSI)によるテクスチャーの決定や多重パルス励起によるスピンマーク法を用いた流れの検出法の開発実験を進めた。数年間休止していた固定型大型核断熱消磁冷凍機を整備して、冷凍機としての冷却性能に問題がないことを試運転により確認したのち、円筒型試料セルを取り付けて冷却したが、試料セルと結合した熱交換器が著しく劣化していることが確認された。そのため、十分な低温まで冷却して長時間に渡る測定を安定して行うことができなかったが、希釈冷凍機温度でのNMR/MRI設備の動作確認は行えた。また、これらの測定手段と連携してセル形状にあわせた境界条件でのテクスチャー計算を精密に行うための計算環境の整備を行った。従来用いてきたものより高速大容量な環境を用いて、より現実に近い状況でのテクスチャー計算を行えるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
平行平板セル内にマクロなスーパーカレントをトラップできない構造にした上で、熱対向流を利用して、スーパーカレントを生成する手法の完成により、カイラルドメインのカイラリティー測定が可能となった。また、究極のNMR測定ともいえるMRSI測定の豊富な情報量を元に、試料内の温度分布を測定し、各ドメイン・ドメインウォールのより詳細な理解を進めることができるようになった。これらを基にして、さらにカイラル超流体の理解を進める。また、テクスチャー計算能力の向上を背景として、実験測定結果の解釈に有用なモデル計算の精度を高めるが、同時に推定されたテクスチャーを基にしたスピン波共鳴周波数の算出精度についても算出原理からの再検討を進める。 これらと並行して、回転断熱消磁冷凍機の改造を進め、超低温でのMRI/MRSI測定を回転下の超流動ヘリウム3に適用できるようにする。さらに、大型核断熱消磁冷凍機に取り付けた、直径1ミリの円筒形容器に閉じ込めた超流動ヘリウム3を対象に、磁気共鳴分光映像法(MRSI)によるテクスチャーの決定や、多重パルス励起によるスピンマーク法を用いた流れの検出法の開発実験を行う。多重パルス励起によるスピンマーク法としてはダンテパルスによる格子模様の生成が有名であり、常流動相におけるテスト実験ではその生成に成功しているが、スピン動力学が非線形である超流動相での実施テストは今回初めて行うことになる。スピンにつけた印の時間発展を追うことができるようになれば流れを可視化できることになる。
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