研究課題/領域番号 |
23K22445
|
補助金の研究課題番号 |
22H01174 (2022-2023)
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
野村 竜司 北海道大学, 工学研究院, 教授 (00323783)
|
研究分担者 |
青木 悠樹 群馬大学, 数理データ科学教育研究センター, 教授 (60514271)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
17,940千円 (直接経費: 13,800千円、間接経費: 4,140千円)
2024年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2022年度: 11,050千円 (直接経費: 8,500千円、間接経費: 2,550千円)
|
キーワード | 超流動 / ヘリウム / 流体力学 / 量子液体 / 非平衡 / ヘリウム4 |
研究開始時の研究の概要 |
超流動性が顕わに効いていると一目見ただけで判別できる現象は、あるようでなかなかない。我々は、粘性の無い超流動液滴が大振幅振動し、液滴が滴下するときに滴下周期の離散化をもたらすことを見出した。粘性のある水などでは滴下周期はカオスを示し、流量が一定でも広く分布する。しかし超流動液滴では、流量が変化しても周期が一定値をとるのである。超流動液滴に固有の新たな流体現象と考えられる。
|
研究実績の概要 |
落下する超流動ヘリウム4液滴や超流動ヘリウム4中を落下する物体を高速度カメラを用いて可視化し、超流動体に固有の現象を探索することが目的である。本年度は液滴の落下の際に見られる液滴の大振幅振動と、それが誘起する液滴の落下周期に頑強な離散化についてより詳細に調べた。 半球型の容器底面から超流動液滴が滴下するとき、底面に付着している間、液滴がそのサイズに匹敵するような大振幅かつ無減衰で振動し続けること、振動の間に接触線も同じ周期で振動していることを、これまでに見出した。この振動は周期が液滴サイズに依存しないという異常なものであった。これまでに知られていない振動モードであり、超流動性に起因する現象の可能性が高まった。この異常振動モードの発現する条件を調べるために、様々な容器底形状で実験を行った。細い円柱から滴下させた場合は、周期が液滴サイズに依存し、水などの古典流体と近い振る舞いを示した。この場合は、接触線が円柱の縁に固定され振動していなかった。このことから、異常振動が起こるためには接触線の自由な運動が必要と分かった。 また滴下周期は、大振幅振動の影響を受けて、半球型容器では離散化することも分かっていた。しかしながら、細い円柱から滴下する場合は、明確な離散化が見られなかった。したがって離散化が起こるための要因は、サイズに依らない一定周期の超流動液滴の大振幅振動であると実験的に示すことができた。振動周期がサイズに依らないので、滴下後の液滴サイズのバラツキが振動の位相に影響せず、滴下のタイミングを一意に決めることが離散化の要因であるとの説明が可能である。超流動液滴のみで起こりえる接触線の自由な運動が、種々の異常な振る舞いのカギとなることを示唆する結果が得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超流動性が顕わに効いた新奇な流体現象というのは、あるようでなかなかないものである。我々が見出した超流動懸垂液滴の異常振動と滴下周期の離散化は、まさに超流動性の賜物であるとの結果が揃いつつある。フィルムフローによる超流動液体の容器からの漏出という80年以上前から知られている現象に、このような未解明の側面があるというのは驚きと言える。低温物理や流体物理における新たな側面を開く研究と考えられる。 超流動懸垂液滴の大振幅振動は、その周期が液滴サイズに依存しないという異常なものであった。容器底形状を系統的に変えた実験で、この異常振動が起こる条件は、液滴の壁面への接触線が自由に運動できることであることが明らかになった。古典粘性流体の液滴の振動では、接触線は壁の微視的な凹凸の影響を受けて強くピン止めされ、動かないのが通常の振る舞いである。また粘性の影響を受けて、振動は減衰する。超流動液体は全ての固体壁面を完全に濡らすため、壁面は予め非常に薄い超流動薄膜で覆われているので、ピン止めが効かずに自由に運動できる。したがって接触線の自由な運動を伴う、サイズ依存性の無い液滴振動は、超流動性の賜物とも言える特異な振る舞いで、これを見出したことの意義は大きいと考える。 また滴下周期が流量が変化するにもかかわらず、一定値で離散化する現象の本質的な要因も、サイズに依存しない液滴の大振幅振動に依るとの結論が得られつつある。よく似た系であるチューブから滴る水滴はカオスの典型で、流量が一定でも周期が広く分布することと全く異なる振る舞いである。離散化の原因も接触線の運動を伴うサイズ依存性の無い振動と言えるので、これも超流動性が本質的に重要な現象と言える。 液滴の滴下という日常でも馴染みのある現象の中で超流動性が重要な働きをし、粘性流体と異なる振る舞いをすることが明らかになりつつあり、順調に進んでいると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は超流動性が顕わに関わると思われる流体運動として、超流動ヘリウム4液滴の振動と滴下について注力して研究する。実験はこれまで通り簡便に可視化が可能なガラスデュワーを用いる。液滴の運動は高速度カメラにより可視化する。液滴の生成方法としては、超流動フィルムフローを利用する。 これまでに、水滴の落下では見られない超流動液滴の大振幅振動は、超流動体に特有の現象であることを示唆する結果を得ている。またこの大振幅振動が落下周期の頑強な離散化をもたらすことも分かっている。今後は、これらの現象に超流動性が本質的に関わるのかをより明確にし、機構の解明を進める。接触線の自由な運動が、サイズ依存性の無い特異な振動をもたらすことは実験的に示された。しかしながら、なぜそうなるのかは依然として謎である。現在のところサイズ依存性の無い液滴振動は異常としか言えず、これに答えを出す必要がある。本年度に、液滴体積の時間変化を液滴形状から見積もることができるようになったので、これを用いて異常性の詳細を明らかにし、超流動性との関りを明確にする予定である。 さらに滴下周期の離散化の原因にも、流量依存性の観点から迫る。滴下周期の駆動力依存とも言えるので、これが明らかになれば離散化の本質へ迫る鍵が得られる。一方で、接触線が運動できないときは、離散化が起こらないということも明らかになった。接触線の運動のあるときとないときで、それぞれ流量依存性を調べ、超流動液滴の滴下の全体像を明らかにする。 また平らな容器底面の場合、並進対称性を反映した液滴の水平運動が観測された。この運動は理論的には予測されていたが未発見であったネーターモードであると期待できる。この水平運動にも超流動体に特有の接触線の自由な運動が効いていることは明らかで、その発生条件や駆動機構も解明したい。
|