研究課題/領域番号 |
23K22446
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補助金の研究課題番号 |
22H01175 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
今井 良宗 東北大学, 理学研究科, 准教授 (30435599)
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研究分担者 |
那須 譲治 東北大学, 理学研究科, 准教授 (40610639)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,200千円 (直接経費: 14,000千円、間接経費: 4,200千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2022年度: 13,910千円 (直接経費: 10,700千円、間接経費: 3,210千円)
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キーワード | 量子スピン液体 / キタエフモデル / スピン軌道モット絶縁体 / 金属絶縁体転移 / 高圧合成 / キタエフ量子スピン液体 / スピン軌道相互作用 / モット転移 |
研究開始時の研究の概要 |
本研本研究課題では,従来のキタエフ量子スピン液体研究では脇役とされてきた非磁性サイトに着目し,配位子の役割を考慮したキタエフ量子スピン液体に関する新しいモデルの構築と,キタエフ相互作用とそれらとの協奏によって現れる新現象の開拓を目的に研究を行う.配位子サイトを系統的に制御したルテニウムハライドの電子相図の解明,および,キャリアドープ効果の検証のテーマに取り組み,キタエフ量子スピン液体に関する新しい学理の構築を目指す.
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研究実績の概要 |
研究計画にしたがって,今年度は配位子サイトを系統的に制御したルテニウムハライドに関して研究を行った. まず,高圧合成を用いて系統的にハロゲンサイトを変化させたRuX3 (X = Cl, Br, I)試料を作製した.合成時の条件を最適化した結果,従来は多結晶粉末試料しか得ることができなかったが,約500ミクロンの大きさの単結晶試料を作製することに初めて成功した.これは,精密な物性測定や異方性の評価を可能にするものであり,大きな進展と言える. 次に,得られた試料に対して,電気抵抗率,磁化率,比熱の基礎物性測定を行った.その結果,RuBr3とRuI3との間で起こる金属絶縁体転移は1次転移であることを見出した.金属組成側から金属絶縁体転移が起こる組成に向かって電子比熱係数が増大していることから,ブリンクマンライス型の金属絶縁体転移が起こっていることが示唆される.また,反強磁性転移温度が組成に対して非単調に振る舞うことを明らかにした.これは,RuBr3に近い組成ではジグザグ型反強磁性を示すが,金属絶縁体転移付近の組成では異なる磁気構造を持つことを示唆している. また,理論的には,RuX3の配位子の影響を摂動論を用いて評価し,キタエフ相互作用やハイゼンベルク相互作用などの大きさに配位子の違いがどのように影響を与えるかを調べた.その結果,配位子サイトのスピン軌道相互作用の増大に伴い,強磁性的なキタエフ相互作用と同時に,3次近接ハイゼンベルグ相互作用が増強されることを示唆する結果を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験的には,高圧合成を用いてRuX3 (X = Cl, Br, I)単結晶試料を作製する手法を確立し,系統的にハロゲンサイトの組成を変化させた単結晶試料を作製することができた.単結晶試料作製はこの研究計画を実現する上で極めて重要であり,それが実現できたことは大きな成果であると判断することができる.また,基礎物性測定を進めることによって,RuBr3とRuI3との間で起こる金属絶縁体転移の調査は順調に進んでおり,1次転移であることやブリンクマンライス型の金属絶縁体転移であることなどが明らかとなっている. 他方,磁気的な性質に関しては,RuCl3やRuBr3がジグザグ型の反強磁性秩序を示すことから,絶縁体相では同じ共通する磁気構造が実現すると考えていたが,予想に反して,金属絶縁体転移の組成付近では異なる磁気構造を持つことが示唆された.磁気構造を決定するために,計画にはなかった中性子散乱実験を行うことになったが,既に,マシンタイムは確保されており,研究の進捗に大きな影響を与えるものではないと判断している. 理論的にも,磁気相互作用に対するRuX3の配位子の影響を解析したことに加えて,軌道自由度を有する低エネルギー有効相互作用に対する一般的な解析手法の理論構築を順調に進めている. したがって,おおむね順調に研究は推移していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,昨年度に引き続き,「配位子サイトを系統的に制御したルテニウムハライド」に関する研究を中心に遂行する. まず,磁気構造を完全に解明するために,粉末中性子散乱実験を行う.反強磁性転移温度が非単調な組成依存性を示すことから,RuBr3と金属絶縁体転移付近の組成では磁気構造が異なることが示唆されることから,金属絶縁体転移付近の組成を持つ試料に対して粉末中性子散乱実験を実施する.中性子散乱実験はJ-PARCにて行うことを予定しており,本測定を通して磁気構造を決定する.本測定の結果に基づいて,この系の完全な電子相図を確立する. 次に,RuX3の単結晶試料に対して,圧力下での電気抵抗率の測定,および,X線回折実験による構造解析を行う.今年度,化学的な圧力印加に相当する配位子サイト置換によって,金属絶縁体転移が1次転移として生じることを明らかにしたが,物理的な圧力を印加した場合においても金属絶縁体転移が起こるか否か,転移の詳細を調べる.電気抵抗率測定に加えて,ダイアモンドアンビルセルを用いて,圧力下における放射光X線回折実験をSPring-8で行い,結晶構造の圧力印加に伴う変化を調べる.これらの測定を通して,圧力誘起金属絶縁体転移と結晶構造との関連性をを明らかにする. 理論的には,現実の物質のパラメータに基づいて第一原理計算を行う.その結果と,低エネルギー有効相互作用の計算とを組み合わせることによって,一般的な磁気構造の解析手法を確立する.その手法を用いて,特に,全角運動量j=1/2だけでなく,j=3/2まで取り入れて,磁気励起スペクトルなどを計算していく予定である.
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