研究課題/領域番号 |
23K22451
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補助金の研究課題番号 |
22H01180 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高木 英典 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (40187935)
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研究分担者 |
松林 和幸 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (10451890)
北川 健太郎 東京大学, 物性研究所, 准教授 (90567661)
平岡 奈緒香 (太田奈緒香) 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任助教 (40758827)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2024年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2023年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2022年度: 8,840千円 (直接経費: 6,800千円、間接経費: 2,040千円)
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キーワード | 量子スピン液体 / キタエフ系 / ランタノイド化合物 / 半金属 / 高圧実験 |
研究開始時の研究の概要 |
キタエフ量子スピン液体とマヨラナ粒子の開拓研究では、候補物質の不足が実験的研究の進展を妨げている。本課題では、物質相開拓とプローブの両面で新しい流れを創出し、実験研究進展を加速することを目指す。現実物質での量子スピン液体実現が提唱されて以来、これまで絶縁体であるRu、Ir化合物に探索が集中してきた。本課題では、未開拓の物質系である半金属のランタノイド化合物に着目する。Materials Informaticsによる探索と高圧下の先端磁性測定(核磁気共鳴及び磁化測定)を組み合わせ多変数制御を行い、電気伝導性とマヨラナ粒子の協奏という付加価値を持つキタエフ量子スピン液体及び周辺の新奇相を開拓する。
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研究実績の概要 |
予備的研究では、Materials Informaticsによる効率的物質スクリーニングにより、ハニカム構造Cu3SmTe3を新しい切り口のキタエフ候補物質として見出している。前年度までに、Cu3SmTe3の良質な単結晶育成にも成功した。本年度は、Cu3SmTe3とその置換物質の常圧下基礎物性を決定した。基底状態が反強磁性状態で温度変化に対して二段階の転移を持つこと、キタエフ相互作用を持つことが想定されるΓ7二重項と矛盾しない磁化率温度依存性であることを明らかにした。また、TeのAsへの置換によって、キャリア(ホール)ドープした多結晶体を得ることに成功している。一方で、常圧の物性開発では期待されるエキゾチックな状態の発現には至っていない。Cu3SmTe3とその置換体では確かに半金属性と何らかのフラストレート磁性を両立できているが、伝導を担うキャリアとSm磁性イオンとのカップリングが弱く、電荷ドーピングにより磁性を制御するまでには至っていない。今後は、超10GPaの非常に高い圧力を印加することで、さらに探索のスペースを広げる。 キタエフ型相互作用の存在が示唆された別の物質、CrSiTe3では前年度に高圧強磁性(半)金属相と圧力誘起超伝導相の共存または相分離を発見し、強磁性の飽和磁気モーメントの短縮が何らかのフラストレーションに関係している可能性を見出してきた。今年度により詳細に調べた結果、共存する圧力誘起超伝導相のバルク性については否定的な結論を得つつある。今後は、この非自明な強磁性相と超伝導相の問題を決着させる。 両物質、および他の候補物質では磁性相制御と状態観測に超高圧下での精密磁化測定が有効である。本年度は、これまで開発に注力してきた7 GPa程度までのセルを改良し、超10GPaを再現性良く発生できる見込みがたった。本技術により新奇な量子磁性相開拓を遂行する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Cu3SmTe3のみをベースとして開始した半金属のキタエフ物性開発は、一定の成果はあるものの、常圧下の研究だけでは研究の広がりが欠けることがはっきりした。母物質は非一致溶融であり、ドーパントの選択やドーピング量に対する制約が大きいためである。一方、本来必要としたキャリア数及び伝導キャリアと磁性イオン間カップリングの制御の観点からは、圧力印加による制御に将来性があると判断した。残る課題は十分に高い圧力の発生と圧力下磁性測定の手法開発である。今年度はその開発に大きな進展があった。キタエフ系物性の擬スピン1/2の測定には精密な磁化測定が必要とされる。以前開発した7 GPa程度までの精密磁化測定技術は精度は概ね良好だったものの、圧力値の再現性等の可用性に問題を抱えていた。モアッサナイトをアンビルに採用して新しく製作した高圧セルにより測定精度を保ちつつ、従前は10 GPaまでに制限されていた発生圧力と可用性を早期に改善する見込みがたった。ごく最近の試行では最大13.8GPaの発生に成功している。この新技術により最終年度に本課題の迅速な研究展開が期待できる他、10GPa超での広範な磁性/超伝導研究へ当初の計画を超えた展開が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
超10GPaの高圧を印加することで、さらに探索のスペースを広げる。超高圧下の探索を進める基盤として、磁化測定用高圧セルの開発を継続発展させる。これまで開発に注力してきたセルでは、7GPa程度までの高圧力の発生が可能である。これを超10 GPaを再現性良く発生できるようにアップグレードする。従来型では、昇温や降温を繰り返す過程での圧力抜けがたびたび発生していた。圧力印加時にハンギングサポートを使用するようにセル構造を設計し直すことで、これを克服する。また、独自形状のモアッサナイトやダイヤモンドをアンビルに採用する。今年度最初の数か月で、Cu3SmTe3のプロジェクトでの実用に耐えうるレべルの再現性を確立したい。新しく開発する高圧セルは高圧下での「精密」物性測定の可能性を問う意味で、極めてユニークである。非常に広範な応用が期待できる。その性能評価もかねてLa3Ni2O7および関連物質の高圧下微小超伝導成分検出への応用を試みたい。La3Ni2O7および関連物質の元素置換、ポストアニールにより酸化状態を精密に制御し、高圧下での超伝導部分の割合を評価する。これによりNi酸化物の示す圧力誘起高温超伝導の真の超伝導相同定に寄与する。
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