研究課題
基盤研究(B)
本研究では,中性子ラジオグラフィによる高解像度・高時間分解画像診断を可能にするべく,高出力短パルスレーザーを用いた超短パルス点中性子源の開発,及びその応用技術の確立に挑む.特に,研究代表者らがこれまでに開発してきたレーザーの一方向照射による「爆縮不要の慣性核融合方式」をさらに発展させることで,ピコ秒・ミクロスケールの高輝度「点」中性子源の生成を実証する.また,中性子線の連続供給までを見据えた中性子発生原理の最適化,ターゲット・計測技術の改良を重ねることで,高輝度かつ実用的な短パルス点中性子源の実現を目指す.
本研究では,「爆縮不要の慣性核融合方式」を発展させることで,中性子ラジオグラフィなどの応用に適した高輝度点中性子源を開発する.この手法は,相対論強度のレーザー‐プラズマ相互作用に基づいており,球殻あるいは円管ターゲットにレーザーを照射することで球面に強力な荷電分離電場(シース場)を生成し,その電場によってMeV級の求心プラズマ流を駆動するというものである.この求心プラズマ流によって,ターゲット中心部にはミクロスケールの高エネルギー密度プラズマが形成され,極めて短時間に高い効率で核融合反応を起こすことができる.非相対論強度で行う同手法に比べて,相対論強度では千倍以上の中性子数増大がこれまでに確認されている.実験で確認された中性子発生数はレーザーの出力エネルギー(∝集光強度)の約4乗に比例しており,その物理的な根拠として,球対称系におけるTarget Normal Sheath Acceleration (TNSA)とそれに伴うMeV級のプラズマ集束によって核融合反応が起こるというシナリオが定性的,定量的に妥当な説明を与えることがわかってきた.また,実験で計測された中性子スペクトルのドップラーシフトの様子から中性子の発生源を評価することができ,それによると中性子のほとんどは球殻ターゲットの中心部で発生していることが明らかとなった.そこで,今年度からは中性子発生点の「大きさ」(ソースサイズ)を評価するべく,マルチピクセルシンチレータパネルを用いた中性子イメージングによるデータ取得を開始した.次年度も計測を継続し,周囲の構造物からの散乱中性子の影響や,重水素の崩壊反応による中性子発生などの影響に対処し,計測精度の向上を目指す.以上の研究成果について,慣性核融合研究に関する国際会議(IFSA2023)およびアジア太平洋物理学会(AAPPS-DPP2023)にて招待講演を受けた.
2: おおむね順調に進展している
実験と並行してParticle-In-Cell(PIC)シミュレーションやポストプロセスによる核反応計算を実施し,相対論強度で起こるMeV級のプラズマ集束と高密度領域の形成,非熱的核融合反応による中性子発生といった物理過程が中性子数増大に有効であることの裏付けを示すことができた.また,中性子イメージングのための計測器開発も順調に進んでおり,一年前倒しでソースサイズ計測に着手できた.ソースサイズ評価については高強度X線や2次粒子(散乱中性子や即発γ線など)の影響への対策を施して,次年度は計測精度の向上を図る.
次年度は,ソースサイズの評価手法として,上記の中性子イメージングに加えてプロトンイメージングを導入する.重水素同士の核融合反応では中性子と概ね等確率でプロトンが放出される.したがって,プロトンをイメージングすることでもソースサイズの評価が可能である.プロトンイメージングでは,ナイフエッジを用いたラジオグラフィによる高精度なソースサイズの評価が可能である.次年度も大阪大学レーザー科学研究所の超高強度レーザーLFEXのマシンタイムを獲得しており,中性子・プロトンイメージングによるソースサイズの計測によって,ミクロンサイズの点中性子源の生成を実証する.次年度は本研究の最終年度であるため,これまでの研究成果の論文化を進める.
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件)
Review of Scientific Instruments
巻: 93 号: 9 ページ: 093523-093523
10.1063/5.0099217
巻: 93 号: 6 ページ: 063502-063502
10.1063/5.0078817
巻: 93 号: 11 ページ: 113530-113530
10.1063/5.0101872