研究課題/領域番号 |
23K22486
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補助金の研究課題番号 |
22H01215 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
諸井 健夫 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (60322997)
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研究分担者 |
殷 文 東京都立大学, 理学研究科, 准教授 (20908719)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2026年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2025年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2024年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2022年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
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キーワード | 素粒子標準模型を越える物理 / 電弱真空 / 真空の崩壊 / 素粒子標準模型を超える物理 / 真空の安定性 / 暗黒物質 / 超対称模型 / インフレーション |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の研究テーマは、大きく3つに分けられる。 第1は、上旬模型を超える素粒子模型における電弱真空の安定性の研究である。不安定な電弱真空を実現する素粒子模型は数多く存在する。それらについて電弱真空の崩壊率を精度良く計算し、模型に対する信頼度の高い制限を得る。 第2に、インフレーション中における電弱真空の安定性について研究を行う。インフレーション中およびインフレーション後の再加熱時期には、スカラー場の量子揺らぎが増幅される可能性がある。それが電弱真空の安定性に与える影響を調べる。 そして第3に、電弱真空の安定性を保証する素粒子模型について、その実験・観測的検証方法を探る。
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研究実績の概要 |
超対称模型における電弱真空の安定性について、特にミューオン異常磁気能率のアノマリーとの関連という観点から研究を行った。μ粒子異常磁気能率のアノマリーは、素粒子標準模型を超える物理の存在を示唆するものとして、極めて重要である。超対称模型においては、超対称粒子によるループ効果によってμ粒子異常磁気能率が補正を受け、μ粒子異常磁気能率のアノマリーの問題が解決される可能性がある。我々はそのようなシナリオにおいては電弱真空の不安定性が引き起こされる可能性があることに着目し、電弱真空の崩壊率を1ループの効果まで含めて世界で初めて計算した。そして、その結果をもとに、スカラーミューオン粒子の質量上限を得た。 スタロビンスキーインフレーションにおける電弱真空の安定性についての研究を行った。スタロビンスキーインフレーションは、現在得られている宇宙密度揺らぎや宇宙背景放射揺らぎからの制限と整合するインフレーション模型であり、多くの研究者が興味を持って研究を行っている。しかしこの模型を素粒子標準模と組み合わせる時、素粒子標準模型における電弱真空は偽真空であることからインフレーション前後に電弱真空の不安定化が起こり得ることが知られている。本研究では、特にスタロビンスキーインフレーション後の電弱真空の不安定化について、格子計算を基にした詳細研究を行い、非最小結合の大きさの上限を得た。 ヒッグスの重力との非最小結合を考慮した場合の真空の安定性、有限温度効果による真空崩壊である一次相転移の詳細研究、シングレットを加えた最もシンプルな標準模型を超えた物理における一次相転移や相転移に伴う泡の高エネルギー膨張の研究なども行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主目的は、現在の宇宙が安定的に電弱真空にあるという事実に基づき、素粒子標準模型を超える物理の姿を明らかにするということにある。 このため、現在は以下の2点を明らかにすることを目標とし、研究を進めている。 まず第1には、μ粒子異常時期能率のアノマリーと電弱真空の安定性について、特に超対称模型の枠内で考察する。そのためには、超対称模型における真空の構造を理解するとともに、超対称粒子からのμ粒子異常時期能率への寄与についても理解をする必要がある。スカラーμ粒子のみが電弱スケールに近い質量をもつスカラーレプトンの場合については、本研究の準備段階でこれらについて既に理解することができていた。研究初年度は、3世代全てのスカラーレプトンが電弱スケールに近い場合について、特に真空の構造の理解を進めた。そしてそのような場合には、特にタウレプトンの湯川結合定数が大きいことの帰結として、タウレプトンが電弱真空の不安定化に重要な役割を果たすことがわかった。さらに、タウレプトンが関連した場合の真空の崩壊率の計算式もすでに導出を終えており、今後はμ粒子異常時期能率のアノマリーが超対称粒子のループ効果で解決される場合について、どのようなパラメータ領域で電弱真空の安定性が保証されるかを数値計算によって明らかにする。 また、我々の真空の安定性は、新物理の性質に大きく影響を受ける。新物理の性質を探る上での一つのキーポイントは、宇宙暗黒物質である。したがって、本研究においては、宇宙暗黒物質の物理についても考察を進める。特に研究初年度においては、量子ビットを用いた暗黒物質探査の可能性について新たなアイデアを得た。今後、このアイデアについても研究を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度以降は、引き続き電弱真空の安定性の観点から研究を続ける。特に、超対称模型における電弱真空の安定性とミューオン異常磁気能率アノマリーの間の関連については、2022年度に行った研究をさらに発展させる。2022年度に行った研究では、超対称粒子のなかでスカラーミューオンとビーノだけが電弱スケールに近い質量を持つ超対称粒子である場合について、電弱真空の安定性を研究した。しかし、3世代すべてのスカラーレプトンが電弱スケールに近い質量を持つ場合は、電弱真空の安定性からの制限はさらに厳しくなると考えられる。2023年度以降はそのような場合についての研究を行い、さらに一般的な場合の超対称模型における電弱真空の安定性を研究する予定である。 また、素粒子標準模型を超える物理の姿を明らかにする上で、暗黒物質についての理解は極めて重要である。そこから得られる情報は、電弱真空の安定性を理解する上でも有用な情報を与える。従って、暗黒物質の物理に関しても研究を進める。特に、最近研究を始めた量子ビットを用いた暗黒物質探査の可能性について、探査可能な暗黒物質の種類や探査領域を広げるための方策、さらには暗黒物質が発見された場合にどのような情報が得られるかなどについて、研究を進めていく。
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