研究課題/領域番号 |
23K22495
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補助金の研究課題番号 |
22H01224 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
西村 淳 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (90273218)
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研究分担者 |
松古 栄夫 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 計算科学センター, 助教 (10373185)
伊藤 祐太 徳山工業高等専門学校, 一般科目, 助教 (40788105)
大西 明 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (70250412)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,160千円 (直接経費: 13,200千円、間接経費: 3,960千円)
2025年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
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キーワード | 素粒子論 / 格子ゲージ理論 / 量子色力学 / 有限密度系 / 符号問題 / 複素ランジュバン法 |
研究開始時の研究の概要 |
原子核は陽子と中性子から構成されていることが知られている。一方で、物質を極限まで高密度にしていくと、こうした原子核の構造が壊れ、別の状態になると考えられる。そのような状態の性質を解明するため、陽子と中性子の中に存在する素粒子であるクォークとグルーオンに着目し、これらの相互作用を表す量子色力学(QCD)に基づく計算を行う。特に、グルーオンが引き起こすクォーク間の引力の結果、クォーク対が凝縮した「カラー超伝導状態」の存在が理論的に予言されており、これを第一原理計算に基づき検証する。
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研究実績の概要 |
令和4年度は、L=16, T=128という格子サイズの計算を行った。まず、摂動論的描像に基づき解析的な計算を行い、クーパー対凝縮が生じるパラメタ領域を求めた。その結果、クォーク化学ポテンシャルの離散的な値に対して、クーパー対が凝縮することが示された。これは、フェルミ面付近にクォークの運動量モードが存在するときに、それらのクォークが引力的なチャンネルを通してクーパー対を形成するものと解釈できる。こうした計算をスタガード・フェルミオンとウィルソン・フェルミオンのそれぞれに対して詳細に実行し、生成されるクォーク対の構造を明らかにした。今後、同様の格子サイズで数値シミュレーションを実行することにより、カラー超伝導などの現象がシミュレーションで再現できる可能性が高まった。 数値シミュレーションでクォーク対凝縮の有無を調べるには、クォーク対を表す補助場を導入し、その真空期待値を計算する必要がある。そこで、これまで開発してきた複素ランジュバン法用のコードを元に、クォーク対を表す補助場に関する部分を加えて新しいコードを完成させた。スーパーコンピュータ「Oakbridge」を用いて行ったテスト計算では、クォーク対に関する暫定的な結果を得ることができたが、凝縮が起こることを示す兆候は見られていない。今後、より広いパラメタ領域を探索する必要があると考えられる。 又これと併行して、有限温度領域でのQCDの相図の研究も行なった。L=24, T=12という格子サイズを用いて、化学ポテンシャルを変えながら、高温側で予測されるクォーク・グルーオン・プラズマ相を確認できた。但し、温度を下げていくと、閉じ込め相への転移が起きる前に複素ランジュバン法が破綻することがわかった。この問題に関して、ドリフト項の頻度分布の落ち方を各パラメタ毎に調べることにより、複素ランジュバン法が有効なパラメタ領域を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有限密度下における量子色力学の性質を第一原理計算により明らかにすることは、符号問題のため極めて困難であることが知られている。我々は最近進展が目覚しい複素ランジュバン法を用いて、この難問に挑戦している。この方法は一定の適用範囲があり、実際に計算が可能かどうかは、一般にパラメタの値による。 低温高密度領域に関しては、我々の摂動論的な計算により、カラー超伝導が予測されるパラメタ領域が明らかになった。これをもとに実際に数値シミュレーションを行った結果、複素ランジュバン法の適用範囲内であることが明らかになった。コード開発に多少時間がかかってしまったが、テスト計算を実行するところまで終えることができた。 また、高温低密度領域においては、温度を下げていくと複素ランジュバン法が破綻するため、閉じ込め相への転移を調べることができないことがわかったが、逆に高温側は複素ランジュバン法の適用範囲内であり、その境界を明確にできたことは大きな意義がある。 このような理由から、プロジェクト全体としておおむね順調に進展していると言ってよい。
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今後の研究の推進方策 |
複素ランジュバン法がより有効と考えられる低温高密度領域について、引き続きスタッガードフェルミオンを用いたL=16, T=128という格子サイズの計算を進める。但し、これまでのテスト計算でクーパー対の凝縮を確認できていないことを踏まえ、ゲージ群をSU(3)からSU(2)に変更した場合の計算を行うことも検討する。この場合は符号問題が存在せず、複素ランジュバン法ではなく、通常のハイブリッド・モンテカルロ法が適用可能であり、計算も容易である。また、クーパー対がゲージ不変となるため、補助場を導入する必要もない。既に多くの研究がなされている模型であるが、これまでなされてこなかった物理的な格子サイズが小さい領域の計算を新たに行い、摂動論的解析から予測される領域でクーパー対が凝縮するかどうかを検証する。 こうした研究が順調に進展した場合は、さらに次のステップとして、より現実的な2フレーバーのウィルソン・フェルミオンで同様の計算を行なうことにより、本研究をさらに発展させていく。
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