研究課題/領域番号 |
23K22498
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補助金の研究課題番号 |
22H01227 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15020:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する実験
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
生出 秀行 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (60846294)
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研究分担者 |
音野 瑛俊 九州大学, 理学研究院, 准教授 (20648034)
前田 順平 神戸大学, 理学研究科, 講師 (60467024)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 7,670千円 (直接経費: 5,900千円、間接経費: 1,770千円)
2022年度: 7,150千円 (直接経費: 5,500千円、間接経費: 1,650千円)
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キーワード | 新粒子探索 / ハドロンコライダー / トリガー / 飛跡検出 |
研究開始時の研究の概要 |
ATLAS実験では標準模型を超える新粒子のTeVスケールにおける直接探索を精力的に行ってきましたが,新粒子の兆候を得ていません.今後の発 見可能性を実験的に高めるためには,複雑な陽子衝突事象の「詳細」に最もよくアクセス可能な荷電粒子飛跡の徹底的な活用が重要であると考 えられます.本研究は,特徴的な飛跡を新粒子の痕跡として残す新粒子のシナリオに実験を先鋭化させる研究を行います.その一環として,既 存トリガー系で収集の難しかった「遅い荷電粒子」に対して専用トリガー・ストリームを開発し,ハードウェア・レベルから高輝度化時代の新粒子発見ポテンシャルを飛躍させることを狙います.
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研究実績の概要 |
再開したLHCの「Run3」の運転再開時にCERNに集中滞在し,Run3開始時のピクセル・ストリップ両検出器の再立ち上げと運用にあたった.実験開始直後ピクセル検出器の各センサのビームに対する時刻位相同期と,ストリップ検出器の読み出しボードの安定性確保に取り組み,両測定器の安定・良好なデータ取得の実現に貢献した. 遅い粒子探索のためのハードウェア・トリガーストリームの開発のために,遅い粒子用に用意したトリガーの効率を実データから算出する方法を初めて開発した.本手法によりこの遅い粒子用のトリガーを物理解析に用いることが可能となった.トリガーの性能を革新させるため,ターゲット新物理モデルとして設定しているスタウに対して,液体アルゴン・カロリーメータの信号がどれほど遅れたタイミングとして検出できるかモンテカルロ・シミュレーションを用いて調べることができるようになった. 「Wino-Bino共消滅シナリオ」の探索において,比較的長い寿命を持つ電弱ゲージーノが崩壊する際,仮想質量が数十GeV以下のためソフトなbジェット対に崩壊する確率が高く,従来の変位した「点状」飛跡交点再構成法では十分な再構成効率が得られなかった.このため従来よりも空間的な収束性が緩い飛跡群を「ぼやけた交点」として見出す新しいアルゴリズムを開発し,これを用いた事象選別を仮に見積もったところ,信号効率を40-50%に保ちつつ,背景事象を約1/1000に削減するという暫定結果を得ることができた.また,僅かに変位したソフト飛跡を活用 した「縮退したヒグシーノ」の探索は感度最適化を進め,信号領域を決定した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ピクセル・ストリップ両検出器の再立ち上げに関しては,ほぼ当初の計画通りに進展したが,加速器側の運転状況の変動やクライオスタットの故障により運転の予定外の停止期間が生じたため,2022年度と2023年度の合計で所期の積分ルミノシティよりも低い,約65 fb-1の統計量取得に留まった.一方,ストリップ検出器の新しいキャリブレーション手法の開発が行われるなどの進展もあった. 遅い粒子探索のためのハードウェア・トリガーストリームの開発では,モンテカルロ・シミュレーションを用いた信号検出効率の推定法の開発が進み,具体的に信号検出効率を見積もることができるようになったという進展があった.一方トリガーロジックのレイテンシである2.5 us以内での条件判定ができることの検証は進行中である. 「Wino-Bino共消滅シナリオ」の探索においては,新しい交点再構成法を用いた事象選別の信号領域がほぼ定まり探索感度が見込めるという進展があった一方,背景事象の推定法や誤差評価について今後取り組む必要がある.「縮退したヒグシーノ」の探索の背景事象推定について基本指針が得られたものの,タウ背景事象のより正確な見積もりなどの詳細の検討が必要であり,両解析とも,信号領域の観測までは至らなかった.
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今後の研究の推進方策 |
重心系エネルギー13.6 TeVでのLHC Run3での陽子・陽子衝突事象のデータ取得は主に加速器側の運転状況の変動やクライオスタットの故障によって中断を余儀なくされたが,ピクセル・ストリップ両検出器の運用自体は順調に進んでおり,この状態を継続することでRun3後半でのスムーズなデータ取得を担保するよう引き続き努めていく. 遅い粒子探索のためのハードウェア・トリガーストリームの開発では,モンテカルロ・シミュレーションを用いた信号検出効率の推定法によって具体的なトリガー効率の推定を行う.一方で,レイテンシ2.5 us以内での条件判定ができることの検証を進めていく. 「Wino-Bino共消滅シナリオ」の探索においては,具体的にコントロール領域や検証領域を設定し,背景事象の推定法の開発や系統誤差評価について取り組み探索感度を決定する.「縮退したヒグシーノ」の探索については,背景事象推定をさらに推し進め,系統誤差をまとめる.両解析とも当初予定よりも進捗の遅れはあるものの着実に進展しており,成果につながることが期待できる.またこれらのRun2全データセットを用いた解析に加え,Run2とRun3を統合した新しい物理解析の開拓を進めるための準備を始める.
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