研究課題/領域番号 |
23K22527
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補助金の研究課題番号 |
22H01256 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15020:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する実験
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
梅森 健成 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 教授 (60353364)
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研究分担者 |
菊池 章弘 国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究センター, グループリーダー (50343877)
長谷川 雅也 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (60435617)
道前 武 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 准教授 (70740471)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,810千円 (直接経費: 13,700千円、間接経費: 4,110千円)
2024年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2023年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
2022年度: 10,270千円 (直接経費: 7,900千円、間接経費: 2,370千円)
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キーワード | 宇宙マイクロ波背景放射 / 超伝導ミラー / ニオブ / ニオブスズ / 超伝導 / 宇宙背景放射 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、これまで超伝導空洞や超伝導電磁石などのために開発が進められてきた超伝導技術を、宇宙マイクロ波放射(CMB)観測における集光ミラーに適用することにより、宇宙空間からの電磁波の偏光分布測定における測定精度の向上を実証しようとするものである。 CMB観測においては精度の高い偏光分布の測定が要求されるが、集光ミラー表面の抵抗成分が生み出す偽偏光シグナルが測定精度を制限する要因となっている。 超伝導ミラーを採用することで、通常のアルミミラーに対して、偽偏光シグナルが劇的に削減されることを実証する。
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研究実績の概要 |
本研究は、宇宙マイクロ波背景放射観測に用いられる集光ミラーの超伝導化により、偏光分布測定における測定精度向上の実証を行うものである。偏光測定システムの確立と超伝導ミラーの開発が研究の骨子となる。 偏光測定システムの整備について、まずは通常の金属ミラーによって生成される偏光を高いS/N比で測定できるシステムの準備を進めた。GM冷凍機を用いて電波吸収体を15K程度に冷却し、吸収体から発生する信号を常温の金属ミラーを用いて反射し検出器に入射する。低温検出器は偏光に感度のあるコルゲートホーンにHEMTアンプと検波器を接続した簡易的な構成ではあるが、Low noise factory社のHEMTアンプを用いて現行のCMB実験用検出器にもひけを取らない感度を実現している。一方でデータ収集系に起因する予期せぬ過剰ノイズがデータに混入しなかなか高いS/N比を得る事が出来なかったが、PINスイッチを用いて1/fノイズを低減し、常温部にもHEMTアンプを設置するなどして、金属ミラー由来の偏光をクリアに検出し、整備を完了した。 超伝導ミラーの開発は、ニオブとニオブスズを採用する予定である。ニオブは材料を購入してある。ニオブスズは薄膜生成の研究を進める必要があり、ブロンズ法による開発を進めている。熱間圧延や熱間プレス等を活用して、薄いニオブ箔とブロンズ(Cu-Sn)板を貼り合わせたクラッド材の作製を進めた。その後、650℃~750℃の比較的低い温度で拡散熱処理し、ニオブとブロンズの界面反応で緻密な組織を呈したニオブスズ膜の生成を試みる。さらに、クラッド材表面の鏡面研磨や曲面加工等の附帯技術もあわせて検討し、Nb3Sn超伝導ミラーを塑性加工法で簡便に作製するための基盤技術の開発を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は主に、偏光分布測定のための偏光測定システムの整備、ならびにブロンズ法によるニオブスズ成膜技術の開発を進めた。 偏光測定システムとしては、偏光強度を高いS/N比で測定できるシステムの構築が重要である。GM冷凍機を用いて電波吸収体を15K程度に冷却し、吸収体から発生する信号を常温金属ミラーで反射して、検出器に入射し偏光測定を行うシステムを構築した。実際に測定を開始してみると、データ収集系に起因する予期せぬ過剰ノイズの混入により、当初想定した高いS/N比を実現することがなかなか困難な状況であった。測定システムについての理解を深め、PINスイッチを用いたり、HEMTアンプを追加したりすることでS/N比の改善を図った。現在では、常伝導ミラーによる偏光強度を高いS/N比で評価できるシステムの整備が完了し、超伝導ミラーの評価に進む準備が整った。また、超伝導ミラーとの性能の比較に用いるデータの取得も完了しており、着実に進展している。 ブロンズ法によるニオブスズ薄膜の開発は、まず始めに外径150mmの小径クラッド円板の作製を試みた。厚さ0.1mmの純ニオブ箔と厚さ3.0mmのブロンズ板を出発材とした。ブロンズの化学組成はCu-14mass%Cu-0.3Tiでブロンズ法ニオブスズ線材の量産ブロンズと同じものを使用した。両者をステンレス製パック内に真空引き及びアルゴンガス置換封入して所定の温度に加熱して、熱間プレス加工を実施した。温度とプレス加重をパラメータとして複数回の実験を経て、最適条件は、温度は720℃、圧力は2.26 ton/cm2であることを明らかにした。この最適条件をもとに、クラッド円板の外径を150mmから250mmへスケールアップを図った。直径250mmに大型化しても純ニオブとブロンズが強固に圧着されることを実証した。
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今後の研究の推進方策 |
偏光分布測定については、データ収集系に起因するノイズに苦しめられたが、ノイズ削減に成功しS/N比が向上したことから、いよいよ超伝導ミラーを用いた偏光測定の実証実験を進める。 超伝導ミラーの実証実験に向けては、ニオブ製超伝導ミラーを用いた実験からスタートさせる。超伝導状態にするためには冷却手法が重要であり、まずはクライオスタット内で回転するミラーを冷却する手法を確立させる。輻射を用いた冷却を試みつつ、必要に応じて伝熱での冷却も利用して、現実的な期間でミラーの温度がニオブの転移温度である9Kを下回る方法を確立する。また、逆に電波吸収体の温度は高く保つ必要があるため、それによって検出器へ入射する(無偏光)信号強度が増加してもノイズレベルに変化が無いことも確認する。このようにして、できるだけ早期に超伝導ミラーを用いた実証実験を進め、超伝導ミラーの優位性を確認する。優位性が確認できれば、最終的に用いられる1m級の大口径ミラーを目指して、湾曲ミラーの開発、分割ミラーの性能評価などを行う。 ニオブ製ミラーと並行して、ニオブスズ薄膜ミラーの開発も進める。今年度に試作したニオブ/ブロンズクラッド板材を様々な条件で熱処理し、界面反応ならびに生成するニオブスズの組織と基本超伝導特性について調査する。さらには、熱処理後の板材表面の凹凸や残留ニオブあるいは第2相の析出などについて研究し、必要に応じて平滑表面を得るための研磨技術を開発する。均質なニオブスズ膜の形成の見通しが得られれば、直径150mmあるいは250mmの円板全体を熱処理し、偏光分布測定による評価を実施する。
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