研究課題
基盤研究(B)
本研究は、『宇宙にどのような有機物がどこでどのように生まれ、我々の身近な有機物とどのように関連するか』という問いに答えるべく、終焉期の恒星が生み出す有機物の性質を理解し、太陽系の始原的有機物との関連を探ることを、解決すべき目標と設定する。本研究では、老朽化した模擬星間有機物の塵を合成する実験装置を新たに改良製作し、合成した有機物の分析実験を行うともに、赤外線時間軸天文学観測への展開を図る。
本研究は、『宇宙にどのような有機物がどこでどのように生まれ、我々の身近な有機物とどのように関連するか』という問いに答えるべく、終焉期の恒星によって生み出される有機物の性質を理解し、太陽系の始原的有機物との関連を探ることを、解決すべき目標と設定する。特に赤外線天文学観測によって得られる宇宙の有機物の塵の赤外線スペクトルから、その物質の化学組成と物理状態を正しく特定するためには、宇宙の有機物の塵を模擬する有機物の室内合成実験を行い、天文観測データとの比較と、模擬物質の物性分析を重ねる必要がある。本研究では、老朽化した実験装置を新たに改良し設計製作し、様々な実験条件のもとで急冷窒素含有炭素質物質を合成する際に、プラズマの組成や物理状態を特定できるようにすることを目的とする。本年度の研究では、2.45GHzのマイクロ波電源装置を用いたプラズマ生成装置の設計と制作に着手し、真空配管部分を除く装置の組み上げを完了させた。また、プラズマの発光分光分析を可能にし、また凝縮する有機物の塵の赤外線吸収分光のその場観察を可能とする測定系の設計に着手した。また、核融合研究所のLHDプラズマを利用したプラズマと炭化水素ダストの相互作用を調べる実験に新たに着手し、様々なプラズマの条件のもとで、窒素がどのような化学官能基としてダスト中に取り込まれるかの過程を理解する目的での研究を行った。さらに、宇宙暴露実験を通じて回収した実験室系有機物の暴露前後での物性変化を調べるための分析を行った。
2: おおむね順調に進展している
本研究で設計製作する『有機物の塵の合成実験装置』の鍵となるマイクロ波電源の納期がパンデミックと欧州の世界情勢の間接的な影響を受け半年以上かかったが、2022年度内に真空配管部を除く合成実験装置の主要部分の設計製作を完了することができた。また、本研究では、製作した実験装置を用いて、プラズマガスを急冷凝縮することで模擬星間有機物の塵を合成するが、アミンやイミンなどの窒素を含む化学官能基を持つ過程を、プラズマガスの紫外線・可視光発光分光分析や、凝縮する有機物の塵の赤外線吸収スペクトルの測定によって改名することを目指している。2022年度内に、プラズマガスの紫外線・可視光発光分析装置の導入を完了した(他の研究経費を充当)他、赤外線吸収スペクトルのその場測定を行うための赤外分光装置部の設計に着手した。以上を総合的に勘案して、2023年度に『有機物の塵の合成実験装置』の立ち上げを行う上で、概ね順調な進捗が得られたと判断する。
2023年度は、真空配管部分の製作を完了させ、マイクロ波電源を利用した模擬星間有機物ダストの合成実験装置を完成させる。実際に組み上げた実験装置を使って模擬星間有機物の塵の合成実験を行なう。その際、得られる有機物の塵の赤外線分光特性を調べて、旧装置での合成条件と回収物質の物性の整合性を評価する。その上で、新たに導入したプラズマの紫外ー可視光域の発光分光分析を行い、回収される有機物の塵の中に、アミンやイミンなど窒素を含む化学官能基が含有するに至る合成条件に知見を得る。さらに、本研究代表者が核融合研との共同研究のもとで実施する「LHDプラズマを利用して有機物の塵に窒素が取り込まれる過程を探る」研究課題との比較も行う。また、合成実験によって作成した有機物の塵の赤外スペクトルと、新星などの天体環境で観測される有機物の塵の赤外スペクトル、隕石物質中から抽出される不溶性有機物の物性との比較を通じてを通じて、新星周囲で作られる有機物の塵の性質と形成過程、さらにそれらが太陽系の有機物といかに関連を持つかに対する理解に寄与する実験的知見を集積する。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件)
Astrophysical Journal
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