研究課題/領域番号 |
23K22567
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補助金の研究課題番号 |
22H01296 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分17020:大気水圏科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川口 悠介 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (00554114)
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研究分担者 |
猪上 淳 国立極地研究所, 国際北極環境研究センター, 准教授 (00421884)
野村 大樹 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (70550739)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2023年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2022年度: 8,840千円 (直接経費: 6,800千円、間接経費: 2,040千円)
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キーワード | 北極海 / 地球温暖化 / 海氷減少 / 乱流 / 熱収支 / 海氷 / 海氷海洋境界層 / 熱フラックス / レイノルズ応力 / 自動観測 |
研究開始時の研究の概要 |
海氷-海洋乱流境界層理論に基づいた高精度で高コストパフォーマンスな新型の自動海氷観測システム(Cryosphere Turbulent Closure Buoy:CryoTeCブイ)を開発し、地球規模での展開を目指す。海氷変動の熱力学過程に関連する物理変数を一台の装置で効率よく取得できるシステムの開発とその観測ネットワークの構築までを行う。CryoTeCは、海洋-海氷境界面での乱流フラックスによる熱・塩輸送とその収支についての連立方程式を数値的に解くことで海氷の熱的成長・融解についての定量的な見積もりを可能とする。
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研究実績の概要 |
本年度は、研究費プロジェクトの主要な目的であった北極海の多年氷域での広域観測を、ドイツのAlfred Wegener海洋研究所が主催する北極航海(PS138およびArcWatch-I)に参加する形で実施しました。二ヶ月間の乗船中に、北極海中央海盆域(アムンゼン・ナンセン海盆を中心とした)9カ所に設置された海氷上観測ステーションで、渦相関装置(ECS)と自動観測システム(CrioTeC)を用いて、熱・運動フラックスの計測を行い、計画通りの全ての観測項目を実施することができました。
ECSによる観測データの詳細な時系列解析から、観測時期や地域に応じた熱・運動フラックスの変動が明らかになり、特に海氷と海洋間の運動量交換を決定する係数についての重要な新知見が得られました。海氷が風によって海洋上を漂流する際、海氷下面の凹凸による「形状抵抗」の効果が海水密度の安定性に依存することが示されました。この効果は、特に融解期から結氷期にかけての季節変遷と共に、海水の抵抗係数や表面応力(レイノルズストレス)が増大し、より効率的な運動量の海洋への注入が行われていることが統計的に解析されました。
CrioTeCシステムの開発においては、海氷内温度プロファイラを搭載したプロトタイプ機を北極海の多年氷域に設置し、約4ヶ月間の試験運用を実施。この期間中、海氷内部の貯熱量の季節的変動を捉えることに成功しました。さらに、日本国内の企業と連携し、海氷下の混合層内で水温・塩分を自動で計測するモジュールの開発を進めました。今後は、ECS観測から得られた知見を基に、静的安定度への依存性を考慮した新たなCrioTeCシステムを開発し、実データのリアルタイムでの応用を実現させ、北極海の海氷熱変動をより詳細にマップ化していく計画です。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、実施計画に記載された内容のほぼ全てを達成することができました。2023年の8月と9月にかけての2ヶ月間、ドイツのAlfred Wegener海洋研究所が運用する砕氷船「Polarstern」号に乗船し、北極海の多年氷域を含む広範囲を調査しました(PS138およびArcWatch-I)。この航海中、全9カ所の海氷ステーションで渦相関手法による海氷と海洋境界層の熱および運動フラックスの計測を行いました。観測データを分析することで、観測時期や地域による熱・運動フラックスの傾向が明らかになり、特に海氷と海洋間の運動量交換を決定する係数についての新たな知見が得られました。この新知見は、海氷が漂流し海洋表面をドラッグする際の形状抵抗係数が海洋表層の静的安定度の変化に強く依存することを示しています。また、融解期から結氷期への季節の変化に伴い、海水の抵抗力が増大する依存性を統計的解析によって明らかにしました。
さらに、CrioTeCブイの開発においては、PS138の航海中に海氷内温度プロファイラを搭載したプロトタイプ機を北極海の多年氷域に設置し、約4ヶ月間の試験運用を実施しました。このリモート観測を通じて、夏から秋にかけて海氷内部の貯熱量がどのように変動するかの新たな知見を得ることができました。また、日本の企業と連携して、海氷下の境界層で水温と塩分を測定する観測モジュールの開発を進め、そのプロトタイプを完成させました。今後は、直接観測に基づく安定度依存のパラメータリゼーションを考慮し、新たな北極海の海氷熱監視デバイスの設計に取り入れる計画です。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針について、以下のように展望しています。本年度は、本基盤プロジェクトの中心活動である北極海での現場観測を成功裏に遂げることができました。次年度以降、まずは境界層の渦相関観測(ECS)で得た知見を国際的に著名な学術雑誌に論文として発表する予定です。さらに、これらの成果をシンポジウムで広く公表していくことも計画しています。同時に、CrioTeCの海氷下部分のデバイス開発を進めることにも注力します。特に、海氷下の海洋混合層内の相対流速を計測する新しいユニットの搭載を次年度以降の主要なミッションとして位置付けています。このユニットの開発は、より詳細な海氷下の海洋環境データを提供することを目的としています。さらに、CrioTeCブイの機能拡張を目指し、以下の項目が一体型のデバイスで観測可能となることを開発の今後の目標として設定しています: 1. 海氷の漂流速度の計測 2. 海氷内部の温度プロファイルの詳細把握 3. 海氷直下の水温・塩分の連続観測 4. 海氷と海洋間の速度差の正確な測定 これらの開発目標を達成することにより、北極海の氷海相互作用に関する理解を深め、気候変動の研究においてより正確なデータを提供できるようになることを期待しています。今後の研究活動を通じて、北極海の複雑な動態をより詳細に解明し、その変化が全地球的な気候システムに与える影響を探るための基盤を築いていくことが、本課題の今後の目標です。
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