研究課題/領域番号 |
23K22613
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補助金の研究課題番号 |
22H01342 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分17050:地球生命科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
黒田 潤一郎 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (10435836)
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研究分担者 |
石川 晃 東京工業大学, 理学院, 准教授 (20524507)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2024年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2022年度: 8,320千円 (直接経費: 6,400千円、間接経費: 1,920千円)
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キーワード | オスミウム同位体 / 白亜紀-古第三紀境界 / 白金族元素 / 洪水玄武岩 / デカン洪水玄武岩 / 大量絶滅 / 天体衝突 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究課題は,南半球中・高緯度を中心とした世界各地の7地点の海底で掘削回収されたコアで見つかった白亜紀-古第三紀境界(K-Pg境界)の層準について,高解像度で海洋のオスミウムOs同位体分析を行う.これにより,地球史で最も若い巨大陸上洪水玄武岩である白亜紀末のデカントラップの形成開始のタイミングをより正確に特定し,そこから全球海洋への物質供給を追跡する.デカントラップから比較的近距離~中距離(4000~12000 km)の海域のOs同位体記録から洪水玄武岩の噴火開始のタイミングを制約し,遠距離サイト(>12000 km)の堆積物の記録から全海洋へのOs供給の寄与を定量的に評価する.
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研究実績の概要 |
白亜紀-古第三紀境界(K-Pg)では,ユカタン半島に小惑星が衝突したことが知られる.ほぼ同時期の後期白亜紀末から暁新世にかけて,インド大陸ではデカントラップが噴出した.この洪水玄武岩は,陸上洪水玄武岩で最も若い.デカン洪水玄武岩の噴火もまた,地球温暖化や海洋酸性化を引き起こし,白亜紀末の大量絶滅の一因を担ったと指摘されている.近年,高精度放射年代測定によりデカントラップの噴出年代が特定され,層厚3.5 kmの溶岩がK-Pg境界を挟む約70万年間に集中して噴出したことが判明しつつある. 本研究課題は,南半球中・高緯度を中心とした世界各地の7サイトで掘削回収されたコアに挟在するK-Pg境界層について,高解像度で海洋のオスミウムOs同位体組成と白金族元素(PGE)濃度を得る.これにより,地球史で最も若い巨大陸上洪水玄武岩であるデカントラップの形成開始のタイミングをより正確に特定し,そこから全球海洋への物質供給を追跡する.デカントラップから比較的近距離~中距離(4,000~12,000 km)の海域で得たOs同位体記録からは,洪水玄武岩の噴火開始のタイミングを正確に制約できる.一方,インド洋から離れた遠距離サイト(>12,000 km)の堆積物の記録を得て,近距離サイトと比較することで,洪水玄武岩から海洋への白金族を含む微量元素の供給プロセスを評価できる.前者である南インド洋~南太平洋は天体衝突地点のユカタン半島からみて地球の反対側(対蹠点)付近にあたるため,欠損のない連続記録が得られる.洪水玄武岩の明瞭な記録と,連続的な天体衝突時の記録が同時に得られるのが,この海域の特長である.この特性を利用し,デカントラップ洪水玄武岩の厳密な噴出開始のタイミング,その噴火とその後の玄武岩の風化が大気海洋の物質循環に及ぼした影響,白亜紀末~暁新世の気候変動への寄与について検証する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2022年度には,分担者の石川がオスミウムの低ブランク化を達成した.2023年度には,この手法を使って,これまでよりもはるかに作業ブランク寄与率の低い高精度・高確度のデータを得ることに成功した.2022年度には,南西オーストラリア沖メンテレー海盆のIODPサイトU1514CのOs同位体データが出揃った.その後,2023年度には南大西洋ウォルビス海嶺,北西太平洋シャツキー海台のデータが出揃った.現在,この論文化を進めている. また,日本国内のK-Pg境界の研究にも着手した.それは,北海道十勝郡浦幌町川流布地域に露出する根室層群の一部で,泥質岩を主体とする連続露頭である.このセクションのRe-Os同位体分析と,白金族元素濃度測定を行った.その結果,チクシュルブの天体衝突の痕跡と思われるオスミウム濃度の異常とオスミウム同位体比の低下が見つかった.これは,日本のセクションで最初のK-Pg天体衝突の痕跡の発見であった.この成果は,日本地質学会国内の年会でも注目され評価された.社会的注目度の高い研究に発展する可能性が高く,現在急ぎで論文化を進めている.この成果は,本研究が当初の計画以上に進んだと判断できる根拠である.
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今後の研究の推進方策 |
2024年度には,これまでの成果であるメンテレー海盆,ウォルビス海嶺,シャツキー海台の成果について,論文化を完成させる.これらについて,物質循環モデルを導入し,隕石衝突とデカン洪水玄武岩の物質供給プロセスについて検討する. また,改良した低ブランクでの分析手法を引き続き用いて,Re-Os分析を進める.2024年度は,前年度から続けているウォンバット海台のサイト761,ケルゲレン海台のサイト1138のOs同位体分析および白金族元素濃度分析に重点を置いて研究を進める.これら2サイトは,古地理配置上,とりわけデカントラップに近く,洪水玄武岩の噴出開始年代を制約するのに極めて重要なサイトとなる.さらに,デカントラップの近傍から遠方にかけて堆積物の主要・微量元素組成を測定する.これにより,洪水玄武岩由来の物質の溶出,供給,堆積についてこれまでにない解像度で定量的に評価する.
また,先述の北海道十勝郡浦幌町川流布地域の根室層群で発見されたK-Pg境界セクションの隕石衝突を示唆するRe-Os同位体記録と,白金族元素濃度記録について,論文化を完遂する.このセクションでは,他のサイトと比較して,デカン洪水玄武岩に由来すると思われるマーストリヒト階後期のOs同位体比の低下が不明瞭であった.これが,デカン洪水玄武岩の活動とどのようにリンクしているのかの議論を進める.
これらの研究と並行して,さらなる分析手法の向上を目指す.具体的な,作業ブランクの低下,煩雑な前処理工程の簡素化,使用する試薬類の低減化,分析の迅速化である.これらは,2024年度も引き続き重点課題として取り組む予定である.
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