研究課題/領域番号 |
23K22693
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補助金の研究課題番号 |
22H01422 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分19020:熱工学関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
多辺 由佳 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (50357480)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
16,900千円 (直接経費: 13,000千円、間接経費: 3,900千円)
2024年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2023年度: 7,150千円 (直接経費: 5,500千円、間接経費: 1,650千円)
2022年度: 7,670千円 (直接経費: 5,900千円、間接経費: 1,770千円)
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キーワード | カイラル液晶 / 熱輸送 / 交差相関 / カイラルクロモニック液晶 / 熱ー力交差相関 / 熱ー力の交差相関 |
研究開始時の研究の概要 |
左右非対称な物体や分子に物質やエネルギーを透過させると一方向回転する現象は,風車から1分子モーターまで様々なスケールで見られる。これらの仕組みの解明は,学術的な観点のみならずエネルギー変換の観点からも重要である。本研究では,カイラルな(左右非対称な)分子が集合してできた液晶に熱流をながすと,液晶分子が位相をそろえて一方向回転する現象を対象とし,そのメカニズムの解明とこれを利用した温度勾配センサーの作製を目指す。また環境問題に配慮し,天然色素やセルロースからなる液晶材料でも,エネルギー変換効率の高い系を探索する。
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研究実績の概要 |
カイラル液晶の回転と回転軸方向の熱輸送との関係を解明すべく,2023年度は,ライオトロピック液晶の一種であるクロモニック液晶にカイラリティを加え,熱と力の交差相関を調べた。結果として,Sun Set Yellow (SSY)とCromolyn Disodium Salt Hydrate(CDSH)の水溶液に,ドーパントとしてL-, D- Alanineそれぞれを加えた液晶滴で,熱流駆動の一方向回転を実現した。流動場解析から,これらのクロモニック液晶滴の回転は剛体的であることが判明した。サーモトロピックのコレステリック液晶の熱駆動回転と比較すると次の類似点が得られた:水中に分散させた液晶滴は温度勾配下で一方向剛体回転を示し,温度勾配の符号反転もしくはカイラリティ反転で回転方向を逆転させる,という基本性質を持つ。温度勾配から回転への変換係数は,SSYでは10^(-5) N/m/Kのオーダーで,シアノビフェニルを母液晶とするコレステリック液晶滴と同レベルの変換効率であった。一方,次の相違点がみられた:クロモニック液晶滴をシリコンオイル中に分散させると,回転速度が大きく低下した。サーモトロピック液晶では,温度勾配―回転の変換効率が周囲の溶媒によらないことと大きく異なる。我々は以前から,液晶滴が液体中で剛体回転する際,滴表面でのnon-slip条件が成り立たないこと,言い換えると,界面摩擦が極めて小さいことを指摘してきた。液晶が液体と接した時の滑り現象は複数の研究グループから報告されているが,その機構は全くわかっていない。今回得られたクロモニック液晶とサーモトロピック液晶の違いは,熱―力交差相関係数を決める因子の他に,界面滑りの機構にも情報を与えるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
クロモニック液晶にカイラリティを添加したカイラルネマチック相の滴が,サーモトロピック液晶と同程度の大きさの熱―力交差相関係数を示したことは,大きな情報である。これにより,本研究の計画の一つである「交差相関係数の決定因子が何か」という問いに対し,構成要素の形状は決定的ではない,と言える。詳細には,SSY色素の水溶液が示すネマチック液晶相にカイラリティを付与した滴を水中に分散させ,温度勾配を印加したときの熱流駆動回転は,シアノビフェニルを母体とするコレステリック滴と同レベルの効率を示す一方,同じクロモニック液晶でもCDSH滴の水中での熱駆動回転はSSYよりはるかに遅く,構成要素の形状の違いは交差相関係数と直接の関係を示さないことがわかった。SSYとCDSHの違いの理由として,両者の配向弾性の違いが示唆される。SSY水溶液のネマチック相もシアノビフェニルのネマチック相も,CDSH水溶液のネマチック相より配向弾性が大きく,カイラリティを付与しても滴内部の配向捩じれが小さい。配向捩じれが小さいにもかかわらず,熱流によって大きなトルクが発生する,という結果は,配向弾性がトルクの要因となっている可能性を示唆する。本研究の課題の一つは,熱流から力(トルク)への変換機構の解明であり,今年度の結果は,変換を担うのは液晶の配向弾性であることを裏付けるものである。 温度勾配センサーについては,前年度の修正計画に基づき,画像解析によるリアルタイムの回転速度検出を進めた。プログラムはほぼ完成しており,顕微鏡像の空間分解能限界まで光学系の改良を継続している。 外場で液晶滴を一方向回転させた際に発生する熱流の測定は,まだ十分な精度が得られていない。このため,進捗状況をやや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
温度勾配センサーはほぼ完成したので,最終年度は,(1)カイラル液晶滴の回転による熱輸送を精度よく測定すること,(2) 熱流による回転と配向弾性に関係を系統的に調べ,回転のメカニズムに対するモデルを構築すること,を並行して進める。(1)については,液晶滴の回転による熱輸送の測定に,コレステリック液晶の選択反射を用いる計画である。当初予定していた2層共存界面の変位による温度検出は,界面が不安定で長時間の測定が難しい。これに対し,コレステリック相のピッチによる温度測定は安定した手法であり,また十分な精度が期待できる。(2)については,配向弾性と熱-力変換効率の関係を複数の化合物で実験的に調べ,現象論と数値計算から,配向弾性がトルクを生み出すという仮説を検証する。これらの結果を合わせることで,熱流による回転の機構の解明と,回転による熱輸送の定量評価を遂行する。
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