研究課題/領域番号 |
23K22803
|
補助金の研究課題番号 |
22H01533 (2022-2023)
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分21050:電気電子材料工学関連
|
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
磯上 慎二 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究センター, 主任研究員 (10586853)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2024年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2023年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2022年度: 9,490千円 (直接経費: 7,300千円、間接経費: 2,190千円)
|
キーワード | 電流誘起磁化反転 / 遷移金属窒化物 / ノンコリニア磁気構造 / 軽元素 / 磁気記録 / 磁気構造制御 / 磁化反転 |
研究開始時の研究の概要 |
Society5.0といった将来の社会構造では想像をはるかに超えるビッグデータを取り扱う必要性が増してくる.これらのデータを記憶する大容量ストレージデバイスとして,不揮発性磁気メモリの高集積化や,新しく量子ストレージ技術の実現が求められている.これらの電力消費の削減を目指すため,本研究では磁化反転の超高効率化に貢献できるスピントロニクス薄膜材料創成を目的とする.具体的には,逆ペロブスカイトA4X構造(A=遷移金属元素,X=軽元素(B, C, N))中に含まれる軽元素種(X)および組成比の操作によって磁化反転に好ましい磁気構造を形成し,磁化反転時の電流密度の大幅な低減を実現する道筋を開拓する.
|
研究実績の概要 |
従来磁気メモリの大規模化のみならず新しく量子ストレージ技術の実現に向けて本研究では,軽元素(B, C, N)を含む逆ペロブスカイト型遷移金属化合物(以下「軽元素化合物」と記載)の開発と磁気構造制御を目的としている.本年度は2つのアプローチを通して軽元素化合物の磁気構造制御手法を確立した. 1.軽元素化合物の典型例である窒化マンガン(Mn4N)薄膜の低保磁力化に成功. 電流誘起磁化反転の反転電流密度は磁性層の保磁力値に比例している.代表的なMn4N薄膜の面直方向に対する保磁力は最大で1テスラという高い値を有している.成長温度を僅か50℃上昇させることで最大約30%の低減化に成功した.この要因として考えられる結晶粒径や表面ラフネスからの影響は支配的でないことを明らかとした.さらに薄膜全体でランダムに形成された格子転移が,低保磁力化Mn4N薄膜中に多く認められた.従って成長温度の上昇で意図的に格子転移を形成させることで,蓄積された格子歪みが緩和し,保磁力の低減が実現したものと考えられる.この結論は軽元素化合物の微細組織が成膜プロセスに敏感であるという特徴に基づくものであり,反転電流密度低減に必要な材料設計を容易化するものである. 2.磁気特性および異常ホール効果に対する炭素の効果を解明. 面心立方CoMn化合の格子中に炭素を侵入させたときの磁気特性と異常ホール効果の変化を測定することで遷移金属中での炭素の効果を検証した.その結果,炭素原子はCoMn単位胞の体心位置に規則化し,マルテンサイト構造転移によってCo2Mn2Cの安定相が形成されることがX線構造解析で明らかとなった.磁気特性は反強磁性から強磁性へと明確に変化し,異常ホール伝導率は約10倍の増大を示した.この増大率は磁化量だけで説明ができないことから,炭素の存在に起因するフェルミエネルギー付近の電子状態によるものと推察された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
軽元素と遷移金属元素の軌道混成効果は,軽元素種のホウ素,炭素,窒素の順に少しずつ連続的に変化するため制御しやすい利点がある.これに着目することで所望の磁気構造制御を容易にし,更なる効率的な電流誘起磁化反転を実現することが本研究の大きな計画である.本年度は既述のとおり,磁気構造制御手法を2点確立することに成功したため,おおむね順調に進展しているものと評価される. 1点目は窒化マンガンの組成比は一定としながら,結晶膜微細組織の磁気特性への敏感性を反映したもので,従来の合金系では得られにくいものである.現時点ではコリニア磁気構造の範疇であるが,窒素を炭素やホウ素で部分置換あるいは,窒素欠損効果を利用することでノンコリニア系への拡張も期待されるため,今後の推進方策として挑戦する価値は十分にある.このように今後につながる成果という観点から順調と評価される. 2点目は軽元素種の拡張可能性を実証したものである.研究代表者これまでの材料開発は窒化物を中心に行われてきた経緯を有する.しかし必ずしも窒化物が最安定相とならない金属元素も多数存在する.この問題を打破し,軽元素化合物の選択肢を増やせれば新たな磁気構造の創成が実現する.CoMn化合物の高品質単結晶窒化膜を作製するのは容易ではないが,既述のように炭化膜の作製を実証した.このことで遷移金属炭化膜は窒化膜の代替手法となり得ることが判った.反強磁性から強磁性へと磁気特性の劇的な変化をもたらす炭素との軌道構成効果は絶大であることが示唆される.実際の電流誘起磁化反転のデモンストレーションに移行する価値が見出されたことにより,現時点で順調に進展していると自己評価するのが妥当である.
|
今後の研究の推進方策 |
二年目となる本年度は,軽元素化合物を含む電流誘起磁化反転デバイスを実際に作製し,反転電流密度低減のデモンストレーションに挑戦する.具体的な候補材料は,軽元素を含む逆ペロブスカイト型マンガン基磁性体(Mn3AX:A=遷移金属元素,X=軽元素(B, C, N))のエピタキシャル薄膜とする.遷移金属元素Aの候補には,安定相であるIr,Pt,Gaから着手する.軽元素XはこれまでNが主流であったが,CやBへの拡張可能性を探索する.例えば相安定性の観点からNが相応しくない場合の代替としてCやBの可能性があるため実現性がある.本年度の基礎実験においては遷移金属炭化物への展開が実証されているところである.CやBのN代替で必要となるプロセスは,従来の反応性スパッタリング成膜のみならず,活性な炭化水素ガスによる浸炭や化学気相堆積を想定している.電流誘起磁化反転デバイスは多層膜で構成されるため,界面清浄性,結晶成長様式などの最適化が必要と予想されるが,大気暴露することなく超高真空中にて積層可能なマルチスパッタリング装置を用いることで解決する.電流密度への寄与を磁気構造(ノンコリニア/コリニア反強磁性,その他)の観点から理解するため,原子分解組成分析と第一原理計算の両面から考察を行う.軽元素と遷移金属との軌道結合状態はX線光電子分光法と,第一原理計算で得られる軌道分解状態密度の両面から理解し,スピンホール角の軽元素による変調起源を明らかとする.
|