研究課題/領域番号 |
23K22871
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補助金の研究課題番号 |
22H01601 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分22040:水工学関連
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中山 恵介 神戸大学, 工学研究科, 教授 (60271649)
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研究分担者 |
宇野 宏司 神戸市立工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (00435439)
矢野 真一郎 九州大学, 工学研究院, 教授 (80274489)
新谷 哲也 東京都立大学, 都市環境科学研究科, 准教授 (80281244)
駒井 克昭 北見工業大学, 工学部, 教授 (90314731)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2025年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2023年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2022年度: 8,450千円 (直接経費: 6,500千円、間接経費: 1,950千円)
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キーワード | Freshwater Carbon / ブルーカーボン / 成層 / 水草 / 炭素フラックス / 淡水カーボン / 淡水湖沼 / 植物プランクトン |
研究開始時の研究の概要 |
SDGs目標13「Climate action:気候変動に具体的な対策を」では,カーボンニュートラルの推進を目指し,沿岸域の海洋生態系の光合成等を利用する「ブルーカーボン研究」が世界的に成されている.加えて,湖沼でも炭素吸収が期待できるが,炭素吸収ポテンシャルを正確に見積もるためには,小面積湖沼も含めた水生生物・植物による正味の炭素貯留速度を明らかにしなくてはならない.そこで本研究では,亜寒帯,温帯,亜熱帯の沿岸域から小面積湖沼までの9箇所の現場を対象とし,流れの影響を考慮した植物プランクトンや水草による呼吸・光合成,および溶存有機炭素の無機化による炭素の吸収・放出機構を解明する.
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研究実績の概要 |
地球温暖化ガスの削減だけでは2050年カーボンニュートラルを達成することは困難であり,ネガティブエミッションを強化する必要がある.そこで世界的に,沿岸域の海洋生態系の光合成等を利用する「ブルーカーボン研究」が成されている.過去の研究において,森林等からの炭素の大量の流入により,多くの湖沼は二酸化炭素の排出源だと考えられていた.しかし,近年の研究で栄養レベルに応じて二酸化炭素の吸収源になっていることが示された.その炭素吸収ポテンシャルを正確に見積もるためには,小面積湖沼も含めた,水生生物・植物による正味の炭素貯留速度を明らかにしなくてはならない.本研究では,亜寒帯,温帯,亜熱帯の沿岸域から小面積湖沼までの9箇所の現場を対象とし,流れの影響を考慮した植物プランクトンや水草による呼吸・光合成,および溶存有機炭素の無機化による炭素の吸収・放出機構を解明する. 神戸市に位置する烏原貯水池において,1時間間隔で水中二酸化炭素分圧を計測可能な計測器を設置し,水温チェーンによる成層場の発達も考慮しつつ採水も行った.烏原貯水池はアオコが発生することで知られており,その濃度は国内でもかなり高い.そのため,ケイ素機器の膜の悪化により,水中二酸化炭素分圧の計測は3日程度に限られる.しかし,天気が良く光合成が活発な期間に計測を行うことができ,水中二酸化炭素分圧を決定づけている溶存無機炭素の大きな日変動を捉えることができた.関連して,光合成によりpHが大きく増加し,その結果,水中二酸化炭素分圧を推定するための化学平衡式を使用することができない理由について調査し,植物プランクトンが直接もしくは間接的だが瞬時に大気から二酸化炭素を吸収している可能性がわかった.今年度中に,国際雑誌であるScience of the Total Environmentに投稿予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
炭素フラックスに与える水質や流入出の影響を明らかにするため,烏原貯水池,阿寒湖,琵琶湖,ため池,八代海を対象として研究を進めた.特に烏原貯水池において水中二酸化炭素分圧の直接計測を実施した.採水および水温チェーン,さらに多項目水質計による鉛直分布を計測することで,夏季の強い日射により成層が発達し,その結果,上下層の二酸化炭素分圧の鉛直交換が抑制され,その結果,光合成により表水層に低い二酸化炭素分圧の層が形成されることがわかった.さらに,その値は大きく日変動しており,一般的に日中の採水1回のみで大気と水中の二酸化炭素フラックスを評価しているが,その方法であれば大きな誤差を有することが示された. 烏原貯水池を対象として,3次元数値計算シミュレーションによる再現および解析も実施した.夏季の1ヶ月間を対象とし,水温および溶存無機炭素について,良好な再現結果を得ることができた.この結果を利用し,現地観測で示された採水による二酸化炭素フラックスの推定誤差について評価し,採水時間帯により,朝であれば真値の4倍,夕方であれば真値の0.5倍と大きなばらつきが与えられることがわかった. 琵琶湖にて,採水による水中二酸化炭素分圧の計測を行った.その結果,日射が強い夏季において水中二酸化炭素分圧が大気の二酸化炭素分圧より小さくなり,二酸化炭素の吸収源となっていることがわかった.そこで本研究では,水草が吸収した二酸化炭素をどの程度貯留しているかを計測するために,リターバッグ実験を開始した.琵琶湖において卓越するササバモとヨシの2種類を対象とし,2023年12月に南湖に設置した.2024年1月および3月にサンプルを回収し,現在,炭素含有量などの計測を行っている.2024年11月まで2ヶ月間隔で回収し,最終的に難分解性の物質がどの程度の割合で含まれているかを計測する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
3年目である2024年度は,琵琶湖の南湖において実施しているリターバッグ実験の結果のまとめを行う.その際,炭素や窒素の含有量の1年間における現象割合を計測するだけでなく,燃焼実験を利用した難分解性物質の含有割合についても評価する.そうすることで,減衰割合および燃焼実験の両者から難分解性物質の最終的な含有割合を推定することが可能となり,両者が一致すれば,互いの値を利用した検証結果としてより高い信頼性を持って結果を公表することが可能となる. 昨年度までの計測により,海域では報告されていないpHの異常な上昇が,淡水域では発生することが示された.pHの上昇は,植物プランクトンによる光合成に起因していることもわかり,淡水域において二酸化炭素の貯留を評価する上で解明すべき重要な現象である.現在,そのpHの上昇は,植物プランクトンが急激に光合成を行い,その結果,間接的なものも含めて大気から直接二酸化炭素を吸収している可能性が示された.海域での研究成果であるが,アマモが水面に達することで,直接,大気から二酸化炭素を吸収していることが報告されている.淡水域における植物プランクトンの場合に問題となるのは,光合成によりpHが大きく上昇することから,海域と異なり化学平衡式を利用できないことである.つまり,採水により全アルカリ度と溶存無機炭素を計測するだけでは水中二酸化炭素分圧を推定することは不可能であり,直接,水中二酸化炭素分圧を計測しなくてはならない.そこで本研究では,pHの上昇が大気からの二酸化炭素の吸収に与える影響を定式化し,不可能であると思われていた化学平衡式を適用できる手法の開発を試みる.
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