研究課題/領域番号 |
23K22957
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補助金の研究課題番号 |
22H01688 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分24010:航空宇宙工学関連
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
村中 崇信 中京大学, 工学部, 教授 (60423597)
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研究分担者 |
西山 和孝 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 教授 (60342622)
中山 宜典 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群), システム工学群, 教授 (80532770)
上野 一磨 東京工芸大学, 工学部, 准教授 (80609181)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,160千円 (直接経費: 13,200千円、間接経費: 3,960千円)
2024年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2023年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 8,060千円 (直接経費: 6,200千円、間接経費: 1,860千円)
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キーワード | 宇宙用電気推進 / 宇宙機のプラズマ干渉 / スパッタリング損耗 / 宇宙機帯電 / イオンスラスタ / 宇宙機と電気推進プルームの干渉現象解明 / 宇宙機と電気推進プルームの干渉現象の再現実験 / イオンスラスタプルームのパラメータ計測 / イオンスラスタの逆流イオンのエネルギー分布計測 / イオンスラスタの逆流イオンによる損耗量評価 / 宇宙探査機の帯電予測 / Hybrid-PICプラズマシミュレーション / 地上実験 / プラズマ数値シミュレーション |
研究開始時の研究の概要 |
宇宙用電気推進の運用において,推進器から放出されるプラズマは宇宙機近傍に拡散するが,そのうち一部のイオンは宇宙機表面に逆流して宇宙機表面の機能性薄膜などを損耗するおそれがある.小惑星探査機「はやぶさ2」の運用では,世界に先駆けて宇宙空間でこの損耗現象を実測している.本研究では,地上実験と数値計算で「はやぶさ2」の電気推進器が放出するプラズマ諸量解析をすすめ,宇宙空間で実測された損耗現象の解明を目指す.また,推進器運転中の探査機電位の変動に着目し,探査機電位の変動が損耗現象におよぼす影響を評価する.研究成果は,電気推進搭載宇宙機の信頼性向上を実現する機体設計に貢献することが期待される.
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研究実績の概要 |
軌道上のイオンスラスタ(以後スラスタ)搭載宇宙機において,スラスタ放出プラズマプルーム(以後プルーム)と太陽電池等との電気的干渉に起因する宇宙機電位の変動は,スラスタの逆流イオンのエネルギー分布(IEDF)に影響を及ぼす可能性がある.そこで,地上実験系構築の端緒として,この宇宙機電位の変動を再現する次の手法を考案した.すなわち,スラスタ電位基準を浮遊電位とした上で,これに接続する電極板をプルーム中に設置する.この電極板に電圧を印加することで,スラスタ基準電位(ここでは宇宙機電位と同等)を可変とする.本研究では,スラスタ基準電位を電極板に対して負電位として宇宙機の負帯電を再現した. 次に,地上実験におけるプラズマ諸量計測では,スラスタ取付け面におけるスラスタの逆流イオンのIEDF計測を実施した.スラスタ中心からの距離およびスラスタ外周部に配置された電子源からの位相角を計測の位置変数とし,開発した逆電位アナライザーを最大6個使用した多地点同時計測を行なった.その結果,宇宙機負帯電を再現した実験では,各地点のIEDFが宇宙機電位の絶対値に依存して一定量高エネルギー側に推移することを確認した.また,おなじ実験条件においても,各計測地点のIEDFは同一でないことを確認した.この原因は,スラスタ近傍では電子源配置に起因するイオンビーム放出面内電位が異方性を持つことに起因すると考えている.スラスタ近傍における電位構造の詳細を解明するために,スラスタ放出中心軸を含む特定面内で2次元プルーム電位分布計測,および,プルーム電位を決定する主要量である電子温度分布計測も合わせて実施し,IEDFを裏付ける物理的情報を得た.その後,計測点の増加等さらなる情報収集に向けた準備を進めている.また,実験研究と並行して,数値計算によるスラスタ放出プラズマ解析に向けて計算コードの機能拡充に着手した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,後述する3項目について研究をすすめている.それぞれで,当初R4年度に計画した実施項目をほぼ予定通り達成し,一部項目では当初R5年度に計画した実施項目まで前倒しで達成することができた.各項目の進捗詳細を次に記す. 1)宇宙機帯電を模擬したイオンスラスタ(以後スラスタ)周辺のプラズマ諸量取得:本項目では,軌道上宇宙機の帯電を模擬したスラスタ運転を行い,スラスタ放出プラズマプルーム(以後プルーム)諸量の測定を行う.R4年度は本実験系の構築をすすめ,スラスタの基準電位を決定する電極板をプルーム中に設置することで,スラスタ基準電位を可変(ここでは負電位)とする実験系の構築に成功した.その後,構築した実験系において, a)スラスタ取付けプレート上の最大6地点における逆流イオンエネルギー分布(IEDF)計測,b)スラスタ放出軸中心を含む固定面内(R-Z面)におけるプルーム電位分布計測,c)同プラズマ中の電子温度予備計測,を実施した.計測器の開発においては,特に逆電位アナライザーの改良を進めており,イオンエネルギー分布とフラックスの同時評価の高精度化を目指した内部構造の改良を実施した. 2) 地上実験・損耗理論による「はやぶさ2」の宇宙機電位予測:本項目は,地上実験で得られたIEDFから逆流イオンによる宇宙機損耗量を算出し,「はやぶさ2」の軌道上実測データとの比較から,探査機電位を予測する手法を確立する.R4年度は,軌道上実測値のうち,金の損耗評価式に加えて,数値計算ツールSLIMを使用し,ポリイミドの同評価式を算出した. 3) 宇宙機帯電・表面損耗の定量評価手法の開発と「はやぶさ2」損耗現象の解明:本項目は,既存の数値計算コードを拡充し,スラスタプルーム解析から宇宙機表面損耗の定量解析を行う.R4年度は既存の数値計算コードに「はやぶさ2」の機体モデルを実装した.
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今後の研究の推進方策 |
研究の3項目について,R5年度の研究計画をそれぞれ示す. 1)宇宙機帯電を模擬したイオンスラスタ周辺のプラズマ諸量取得:スラスタ放出プラズマ諸量計測について,次に示す計測をすすめる.a)IEDFの角度分布測の予備実験を実施.逆流イオンの損耗に対する入射イオンの角度分布特性を評価するため,RPAに回転機構を導入し,これを使用したスラスタ取付け面上におけるIEDFの予備計測を行う.b) スラスタプルーム電位分布の3次元計測を行う.R4年度の実験で,IEDFはスラスタの電子源に対する相対位置の差異により異なることがわかった.この要因を解明するため,プルーム放出軸中心の複数点においてこれに直交する面内で電位分布計測を行い,電位の3次元計測を行う.c)プルーム電子温度計測の高精度化と空間分布計測を行う.R4年度の結果から,プルームパラメータに適する電圧掃印レンジを決定し,イオン飽和電流算出を高精度化する.また,空間分布計測に向けた1点あたりの計測時間短縮法を検討する.d)損耗における多価イオンの影響評価のため,E×Bプローブによる多価イオン計測を準備する. 2) 地上実験・損耗理論による「はやぶさ2」の宇宙機電位予測:「はやぶさ2」ではスラスタ取付け面の表面材料であるITOコーティングの損耗が予想されている.この影響評価のため,ITOを主とした化合物の損耗評価式の算出手法を検討する. 3) 宇宙機帯電・表面損耗の定量評価手法の開発と「はやぶさ2」損耗現象の解明:既存の3次元プルーム解析コードの電子モデルを改良する.現在は1温度かつMaxwell-Boltzmann分布を仮定している.IEDFへの影響評価のため,a)物体近傍におけるシースモデルの導入,b)電子温度の空間分布を定義,この2点を順に行う.
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