研究課題/領域番号 |
23K22998
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補助金の研究課題番号 |
22H01730 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分25020:安全工学関連
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
住 隆博 佐賀大学, 理工学部, 准教授 (30358668)
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研究分担者 |
橋本 時忠 佐賀大学, 理工学部, 准教授 (90392860)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,460千円 (直接経費: 14,200千円、間接経費: 4,260千円)
2024年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 16,770千円 (直接経費: 12,900千円、間接経費: 3,870千円)
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キーワード | 爆傷 / 爆風 / 粘弾性 / 圧縮性 / 数値解析 / ブラスト波 |
研究開始時の研究の概要 |
爆発による生体損傷のうち1次爆傷は、爆発によって空気中に生じた強力な爆風が生体内に伝播し組織と干渉することで引き起こされる。本現象はエネルギー密度の高い火薬等の点爆発で観察されるため、実験的研究に対する制約が極めて大きい。そのため、数値的研究が有望な選択肢となるが、爆風の照射対象となる生体組織は工学的な分類では粘弾性体であり、その学問領域は流体力学と固体力学の境界領域に位置するため、解析方法が十分に検討されていない。 本研究課題では、粘弾性体を含む流体および固体間の波動伝播が解析可能な統一解法を構築し、爆風による生体損傷の機序について数値的側面から解明に迫る。
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研究実績の概要 |
爆発による生体損傷のうち一次爆傷は、爆発によって空気中に生じた強力なブラスト波が生体内に伝播し、脳をはじめとする器官内の組織と干渉することで引き起こされる。本現象は一般にエネルギー密度の高い火薬等の点爆発で観察されるため、設備面や安全性から実験的研究に対する制約が極めて大きく、現象の学術的理解を阻む大きな要因となっている。そのため、数値的研究が有望な選択肢となるが、ブラスト波の照射対象となる生体組織は工学的な分類では粘弾性体であり、その学問領域は流体力学と固体力学の境界領域に位置するため、解析方法が十分に検討されていない。本研究課題では、流体力学で一般的なリーマン解法をベースに粘弾性構成則を導入して数値解法の理論的な拡張を行い、粘弾性体を含む流体および固体間の波動伝播が解析可能な統一解法を構築する。さらに、本数値解法を用いて、ブラスト波と生体組織の干渉を定量的かつ視覚的に評価し、一次爆傷の機序について工学的観点から考察を行う。 研究計画の一年目となる本年度は、その中心となる数値解法について重点的に検討を行い、圧縮性混相流体計算で一般的な拡散界面モデルの線形粘弾性体への理論的拡張、ならびにそれを基にしたリーマン解法のテストコード(非定常空間1次元)の構築を行った。また、次年度以降の検証実験の準備として、ポリビニルアルコール・ハイドロゲルを主体とした模擬生体サンプルの作成と物性変化の小さい長期保存方法の検討、レーザー誘起による慣性マイクロキャビテーションレオメトリーの理論面の改良、ならびにそれを用いた高ひずみ速度領域での粘弾性物性評価を実施した。さらに、波動伝播可視化撮影用のハイスピードカメラの機種選定と導入を行い、検証実験系の整備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体の研究計画では、第1段階で必要な数値解法の構築、第2段階で模擬生体の作成と物性評価、ならびに第3段階で数値解法の実験的検証を実施し、第4段階で数値解析による一次爆傷機序の解明を予定している。本年度は、上記の計画のうち、第1段階と第2段階の全部、ならびに第3段階の一部について研究を実施した。 まず、第1段階の数値解法の構築では、圧縮性混相流体計算で一般的な拡散界面モデルの線形粘弾性体への理論的拡張を行った。流体の支配方程式(質量、運動量、エネルギーの各保存方程式)に対して、線形粘弾性体ではせん断応力の輸送方程式が新たに追加される。このせん断応力の輸送は一般に保存方程式の形をとらないため、そのままではリーマン解法を構築できないことが問題となる。そこで、相似変数を導入した新たな定式化を導入してこれを解決した。一部、流体・弾性体間の界面における速度条件の取り扱いに課題が残るものの、第1段階の大部分が完了できたものと考えている。 次に、第2段階の模擬生体の作成と物性評価について、これまでサンプルの均質性、ならびに保存性に関して課題を抱えており、物性評価試験における結果の再現性に問題があった。そこで、サンプルの作成方法と保存管理の見直しによって、これらの問題を改善した。慣性マイクロキャビテーションレオメトリーによる物性評価については、熱輸送モデル等の理論面の再検討を行い、物性予測精度の向上を図った。依然として理論面に課題は残るものの、高ひずみ速度領域における物性評価は実現できており、第2段階の大部分が完了できたものと考えている。 さらに、第3段階の実験的検証について、可視化実験系で必要となるハイスピードカメラの機種選定と導入を行った。爆傷現象の速度に基づいて、毎秒数十万コマ程度のフレームレートの確保を選定条件とした。これによって、検証実験に向けた準備が大きく前進した。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の二年目となる次年度は、第3段階の内容を中心に数値解析と実験の両面から研究を行う。 まず、本年度に構築したテストコード(非定常空間1次元)を用いて、理論ならびにモデルの検証と改良を行う。ここでは、一部の理想的な条件下(例えば、非粘性流体あるいは完全弾性体)において知られている非定常空間1次元ベンチマーク問題の理論解、あるいは他者によって公開されている数値解との比較検討を行う。また、実用コードの構築に向けて、空間多次元化、数値解法の高解像度化、ならびにコードの並列化による処理速度の高速化を図る。 次に、検証実験について、現所属機関の実験室環境では火薬等の点爆発によるブラスト波の生成が困難であるため、その代替として衝撃波管による空中衝撃波と模擬生体の干渉実験、あるいはパルスレーザーによる水中衝撃波と模擬生体の干渉実験のいずれかを実施する。前者は、大気中に模擬生体サンプルを設置し、衝撃波管出口を開放して衝撃波を照射することで、同サンプル内における波動伝播状況を観察する。後者は、水槽内に設置した模擬生体サンプルの近傍にパルスレーザーを収束照射することで、水中気泡の生成時もしくは崩壊時に発生する水中衝撃波を利用して、同サンプル内における波動伝播状況を観察する。いずれの場合も、シャドーグラフ法による高速度可視化撮影を実施する。さらに、これらに対応する数値解析を前述の実用コードで実施し、両者の結果の比較検討を行う。 以上、得られた成果について取りまとめ、学会での講演発表ならびに専門誌への論文投稿を行う。
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