研究課題/領域番号 |
23K23033
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補助金の研究課題番号 |
22H01765 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26020:無機材料および物性関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
枝川 圭一 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (20223654)
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研究分担者 |
徳本 有紀 東京大学, 生産技術研究所, 講師 (20546866)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2025年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2024年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2023年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2022年度: 8,840千円 (直接経費: 6,800千円、間接経費: 2,040千円)
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キーワード | トポロジカル絶縁体 / 転位 / 電気伝導 / バルク絶縁体化 |
研究開始時の研究の概要 |
トポロジカル絶縁体(TI)の研究で喫緊の課題の一つにバルク絶縁体化がある。一般にTIは狭ギャップ半導体である上に、格子欠陥由来のキャリアが多いためバルクの絶縁性が低く、特徴的な表面伝導の基礎的研究やそれを応用した新奇デバイス開発の障害となっている。 本研究ではPb系TIのバルク絶縁体化を第1の目的とする。この系は従来のTIと異なり、転位上に1次元金属状態が実現し得ることが理論的に予測されている。これを実験的に検証することを第2の目的とする。この目的が達成されれば新しいタイプの1次元スピン偏極ディラック電子系が実現することになり、広く物性物理分野や材料科学分野にインパクトを与えることとなる。
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研究実績の概要 |
トポロジカル絶縁体(TI)の表面状態の移動度は、同様の線形分散を持つグラフェンの移動度ほど高くない。移動度が低い理由の一つとして、トポロジカル表面状態とバルク状態との混成が知られているが、混成の詳細は実験的に検証されていなかった。 そこで、Pb(Bi0.20Sb0.80)2Te4のトポロジカル表面状態を走査型トンネル顕微鏡(STM)で調べた。Pb(Bi0.20Sb0.80)2Te4は表面だけでなく結晶内部の一次元欠陥(転位)においても特殊な伝導状態が発現し得るトポロジカル指数をもつPb-(Bi,Sb)-Te系TIの一種である。STMで観測された準粒子干渉パターンを解析した結果、表面状態のディラック点がこの物質のバルクバンドギャップ中に現れることがわかった。また、ディラック点からエネルギーが離れると、表面状態の等エネルギー線は、バルク電子状態との混成により、大きく変形したり、分断されたりすることがわかった。 この表面状態とバルク状態の混成に関する知見は、TIの表面電子物性に関する基礎的な知見だけでなく、本研究の目的の一つであるTI中の転位伝導の実験的検証のためにも有用な知見を提供するものである。また、スピントロニクスデバイスへの応用の観点からも重要なものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は当初、Pb-(Bi,Sb)-Te系トポロジカル絶縁体(TI)について、1)バルク絶縁体化、2)転位の導入、3)転位伝導の実証、を順に行う計画であり、令和4年度は主に1)の実験を進めた。 令和5年度は、表面だけでなく結晶内部の一次元欠陥(転位)においても特殊な伝導状態が発現し得るトポロジカル指数をもつPb-(Bi,Sb)-Te系TIの表面状態に関する研究を進めた。走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて準粒子干渉パターンを観測し、密度汎関数計算およびFuのモデルにより得られる表面電子状態密度を用いた数値計算により解析した。その結果、表面状態のディラック点がこの物質のバルクバンドギャップ中に現れることがわかった。また、ディラック点からエネルギーが離れると、表面状態の等エネルギー線は、バルク電子状態との混成により、大きく変形したり、分断されたりすることを明らかにした。 TIの物性は、一般にFuの表面状態モデルに基づいて議論されるが、バルク状態近傍のエネルギーでは、トポロジカルな表面状態は単純に歪んだディラックコーンでは記述できないことを示した。 当初の計画とは異なるものの、本研究の目的の一つであるTI中の転位伝導の実験的検証のためにも有用な知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は、当初計画の2)転位の導入、3)転位伝導の実証に取り組む。 1)バルク絶縁体化で作製した試料からミリメートルサイズの直方体を切り出し、高温塑性変形により転位を導入する。このとき理論的に転位伝導が生ずるタイプの転位を制御して導入する必要がある。続いて、転位伝導の測定を行う。 2)転位の導入 材料試験機(当研究室現有)で降温圧縮変形し、転位を導入する。本系は、[111]方向に原子層が積層した三方晶構造をもつ。理論的に金属伝導が発現すると予想される転位はバーガースベクトルb=[100]の転位であり、この系の主すべり面である(111)面のすべりでは生成しない。 そこで、主すべり系の働きを抑える方位、つまり(111)面すべりのシュミット因子が0に近くなる圧縮方位を幾つか選んで種々の温度、変形速度で変形を行う。導入された転位の型と転位組織を透過電子顕微鏡を用いて明らかにする。特に十分な長さの転位が十分な密度で導入されているかを確認する。 3)転位伝導の実証 転位導入後の結晶からまずワイヤーソー(当研究室現有)を用いて数ミリメートルサイズの試料を切り出し、さらに集束イオン/電子ビーム加工装置(FIB-SEM)(所属研究所共用装置)を用いてマイクロサンプルを長手方向が転位線方向となる方位で切り出す。FIB内の蒸着機能を用いてPt電極を付け、直流4端子法により電気伝導測定を行う。マイクロサンプルを用いる理由は、試料を貫通した転位の本数を十分に確保するためである。以前行ったBi-Sb系TIを用いた実験において、転位伝導の明確な証拠を得るために、このことが重要であることがわかっている。得られた結果から転位が理論的に予測されるような金属状態となっているかどうかを定量的検証する。
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