研究課題/領域番号 |
23K23050
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補助金の研究課題番号 |
22H01782 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26020:無機材料および物性関連
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
山田 直臣 中部大学, 工学部, 教授 (50398575)
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研究分担者 |
村田 秀信 一般財団法人ファインセラミックスセンター, その他部局等, 上級研究員 (30726287)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,680千円 (直接経費: 13,600千円、間接経費: 4,080千円)
2025年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2024年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2022年度: 7,670千円 (直接経費: 5,900千円、間接経費: 1,770千円)
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キーワード | 欠陥耐性半導体 / ヨウ化物 / 価電子帯上端 / 反結合性軌道 / ハロゲン化物 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,未開拓の三元系銅ハライド(Cu-M-X)の中から反結合性軌道が価電子帯上端(VBM)を形成する,欠陥耐性半導体を網羅的に探索し,新たな欠陥耐性半導体群の開拓を行う.その際,「優れたハライド半導体はペロブスカイト構造」という固定観念を捨て,他の構造を中心に探索する.反結合VBMに着目した第一原理計算によるスクリーニングとベイズ最適化を用いた合成実験の組み合わせで広範囲をハイスループット探索し,欠陥耐性半導体群の飛躍的な拡張と,実験・計算結果を統合したデータベースの構築を行う.
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研究実績の概要 |
銅ハライドは反結合性軌道が価電子帯上端(VBM)を構成する特異な電子構造を有する傾向がある。反結合VBMの化合物は、格子欠陥が生成しても優良な半導体特性を維持する傾向(欠陥耐性)にあることが知られている。欠陥耐性半導体は,低温成長が不可欠なフレキシブルエレクトロニクス等の分野で待ち望まれているが,限定的にしか開拓されていない.本研究は,未開拓の三元系銅ハライド(Cu-M-X)の中から反結合VBMを有する欠陥耐性半導体を理論計算・実験の両面から探索し,新たな欠陥耐性半導体群の開拓を行うことを目的としている. 2022年度は直感的な考察から欠陥耐性半導体であると予想したCu2ZnI4(CZI)の薄膜合成ルートの開拓と電子状態の計算に取り組んだ.本化合物は構造については明らかになっているが,物性や電子状態については未知であるといってよい.この化合物の合成と電子状態計算は,次年度以降の研究基盤を構築するための第一ステップである. CZIの薄膜合成ルートとしては、2つのルートを検討した.具体的には,CZI粉体を合成し,それを蒸着法にて薄膜化するルートAと,CuIとZnI2の共蒸着で薄膜化するルートBである.ルートAにより,CZI多結晶薄膜を形成することができた.実験的に電子構造や発光特性について調査したところ,欠陥耐性を有することが示唆された.並行してCZIの電子状態計算を行ったところ,予想通り反結合VBMが実現されることが明らかとなった.計算した電子構造は実験結果(X線光電子分光による価電子帯スペクトル等)の特徴を十分に再現できており,十分な確度で計算できていると考えられる.加えて,Cu-M-I系についての網羅的な安定性の検討にも着手し,次年度以降の基盤ができつつある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
先述の通り,実験による合成ルートの開拓については、CZI粉体を合成し,それを蒸着源として用いることでCZI多結晶薄膜を得ることができた.カチオン組成を意図的にずらした原料粉末を用いて薄膜を形成し,各種物性測定を行った.CZI薄膜のフォトルミネッセンス測定を行ったところ,室温下で明瞭な青紫色発光を示した.この発光は励起子遷移によるものと考えられる.特筆すべきは,室温形成した格子欠陥を多量に含む薄膜であるにも関わらず,励起子発光以外の格子欠陥に由来する発光は観察されなかったことである.この結果は,CZIが反結合VBMに由来する欠陥耐性を有していることを示唆するものと思われる.欠陥耐性を詳細に調べるには,組成ずれを任意に制御したCZI薄膜が必要であるので,多元蒸着装置を構築しCuIとZnI2の共蒸着でCZI薄膜を形成することにも取り組んだが,ZnI2の蒸気圧がCuIよりも圧倒的に大きく制御が難しいという課題に直面し,合成ルート開拓には至らなかった. 第一原理計算によって,CZIの価電子はCu-3dとI-5pの反結合性軌道,伝導帯はZn-4sとI-5pの反結合性軌道から構成されていることが明らかとなった.つまり,予想通りCZIでは反結合VBMが実現されており,実験的に示唆された欠陥耐性を裏付ける計算結果が得られた.加えて,価電子帯上端と伝導帯下端の両方が反結合性軌道からなる特異的な電子構造を有していることがわかった.第一原理計算から予測したX線光電子スペクトルによる価電子帯構造は,実験スペクトルの特徴をよく再現しており,十分な確度で計算出来ていることも確認された.さらに,Cu-M-I系についての網羅的な検討も開始しており,Mが遷移金属元素のときには,CuGaI4と同じ構造が安定である傾向があることも掴めつつある.
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今後の研究の推進方策 |
薄膜合成に関する研究では,Cu-M-I系の共蒸着法による薄膜形成が今後の課題である.共蒸着法はカチオン組成を任意にずらし、欠陥耐性を詳細に調べるために不可欠な方法である.今年度の取り組みから,共蒸着法によってCu-M-I系薄膜を成長させるとき,CuIともう片方のヨウ化物(今年度の場合であればZnI2)の蒸気圧が桁違いに異なる場合に薄膜形成が難しいことがわかっている.そこで,多元蒸着装置へ成膜レートモニターを新規に導入し,CuIと金属元素Mのヨウ化物の蒸発レートをその場観察でモニターし,組成制御の精度を高めることにする.すでに薄膜合成用のベイズ最適化プログラムを開発しているので,蒸発レートのその場観察と組み合わせることで,薄膜合成の高効率化をはかり研究を加速する.理論計算については,結晶へ欠陥を導入した場合の欠陥状態の計算が未着手である.欠陥状態の計算は定量的に欠陥耐性を判別するためには不可欠である.化合物の網羅的な探索に加え,反結合VBMを有することが判明したCZIの欠陥状態の計算を行い,欠陥耐性の理論的な裏付けを得る.
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