研究課題
基盤研究(B)
本研究は,強相関電子系が示す異常な熱電特性の起源を特定し,これを制御することで新しい高性能熱電材料を開発することを目的としている.強相関電子系においては,優れた熱電特性を示す物質が存在するものの,その起源が不明なために合理的な材料探索につながっていない.本研究ではこの問題を解決するために,これまでにほとんど例のない角度分解光電子分光を用いた方法論を確立する.この結果に基づいて強相関電子系材料の熱電特性を最適化することで,従来の性能を凌駕する材料の創製につなげる.
本研究は,強相関電子系が示す異常な熱電特性の起源を特定し,これを制御することで新しい高性能熱電材料を開発することを目的としている.強相関系においては優れた熱電特性を示す物質が存在するものの,その起源が不明であるために合理的な材料探索につながっていない.その主な原因は強相関系におけるゼーベック係数が一般的な材料のように状態密度のエネルギー微分だけでは理解できない点にある.この問題を解決するためには角度分解光電子分光(ARPES)を用いた方法論を確立する必要がある.この方法論を用いて強相関材料に対して状態密度だけでなく伝導電子の緩和時間も含めた総合的な電子構造の情報から熱電特性の支配因子を特定し,その結果に基づいて熱電特性を最適化することで従来の性能を凌駕する材料を創製する.本年度は,昨年度,単体金属Cu (110) 表面を用いて確立した方法論を,典型的な重い電子系化合物であるYbCu2Si2に適用することを試みた.その準備段階としてフラックス法を用いて比較的大きなサイズの単結晶試料を作製することに成功した.この試料を用いたARPES測定を分子科学研究所のシンクロトロン放射光施設UVSORのBL5Uにて行った.その結果として伝導電子とYbの4f電子の混成バンドの分散を明瞭に観測することに成功した.得られたデータを詳しく解析したころ単純金属Cuではまったく見られなかったフェルミ準位付近でエネルギーに強く依存した緩和時間を抽出することに成功した.この結果はこれまでにない画期的な結果であり,熱電材料の研究分野に全く新しい方法論を提案できると考えられる.
2: おおむね順調に進展している
当初の計画に沿って,昨年度まずは最初に単純な電子構造をもちARPES測定に有利な大きな表面が得られる単体Cu金属を試料に選択し,伝導電子の緩和時間のエネルギー依存性を決定するための方法論を確立した.本年度はこれを強相関系であるYb化合物に適用し,その準粒子の緩和時間の有意なエネルギー依存性を観測することに成功した.これは予想通りの結果ではあるが,今までに全くない新しい知見であり極めて画期的な結果であると考えている. したがって現段階までは研究計画通りに進行していると考えてよい.
今後は上記の方法論をさらにCe系へと拡張し、特に昨年度から単結晶の作製を進めてきたCeTIn5(T=Co, Rh, Ir)について,ARPES測定を進める. Ce系においてはYb系とは異なり価電子帯にわずかしか状態のない4f電子を観測するために共鳴光電子分光という方法を用いる必要があり,難易度は高くなる.以上の研究を進めつつこれまでに得られた総合的な知見をまとめて学会や論文で報告していく. ARPES測定自体は実験室とシンクロトロン放射光施設の両方で行う.そのためのビームタイムは既に確保できている.
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Applied Physics Letters
巻: 123 号: 20
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