研究課題/領域番号 |
23K23052
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補助金の研究課題番号 |
22H01784 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26020:無機材料および物性関連
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
上原 雅人 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (10304742)
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研究分担者 |
瀬戸山 寛之 公益財団法人佐賀県産業振興機構(佐賀県産業イノベーションセンター産業振興部研究開発振興課、九州シンク, ビームライングループ, 副主任研究員 (30450951)
大曲 新矢 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (40712211)
平田 研二 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (40828282)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
2025年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2024年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2023年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
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キーワード | X線吸収分光 / 窒素化合物 / 薄膜 / 圧電体 / 強誘電体 |
研究開始時の研究の概要 |
ウルツ鉱型窒素化合物材料の圧電性能は、多元素化(元素添加)によって増大する。この多元素化効果の原理を明らかにするためには、圧電性能の本質である、原子の振舞いを直接調査する必要がある。本研究では、X線吸収分光法(XAFS)を用いて元素ごとに配位構造や結合特性を実測評価し、窒化物材料の多元素化効果の実態を明らかにする。第一原理計算による調査結果と比較・検証することで、計算による予測値に未だ至っていない実際の圧電性能の一層の向上や、新しい知見及び学理の深化が期待できる。学理を追求し、多元素化による結合特性の制御を通した、窒化物材料の設計指針の構築を目指す。
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研究実績の概要 |
令和4年度は、種々のSc濃度のScGaNについて加熱および冷却下でのX線吸収分光(XAFS)スペクトルの測定を行った。試料はスパッタリング法で作製した。すべてc軸配向した膜であり、X線回折によって評価した格子定数比c/aはSc濃度が高くなると小さくなることを確認し、配位構造の変化がうかがえた。 XAFS測定は九州シンクロトロン光研究センターのBL11で行った。種々のSc濃度のScGaNにおける、GaおよびScのK端のXANESとEXAFSスペクトルを10K~900Kの広い温度範囲で測定した。まず、室温測定において、GaのK端のXANESスペクトルでは、Sc濃度による変化は小さく、構造の差異は見られなかった。EXAFSではSc濃度が高くなると振幅が小さくなり、結晶性の低下が示唆された。動径分布関数で第二近接原子間距離がSc濃度とともにわずかに大きくなる傾向があり、X線回折による格子定数解析の傾向と一致した。一方、ScのK端では、XANESスペクトルにおいて明瞭なpre-edge peakが観察された。その強度はSc濃度が高くなるほど減少する傾向にあり、配位構造の変化が示唆された。EXAFS振動の振幅はGaに比べて小さく、特に高いSc濃度では解析が難しかった。温度10K~900Kで測定した結果、振動は高温ではより散漫に、冷温では明瞭になることが確認でき、詳細な配位構造解析には、冷却での測定が必要であることが分かった。電界印可オペランド計測の測定セルも、当初計画していた加熱用からクライオスタット用に変更し試作した。 また、第一原理計算によるXANESスペクトルシミュレーションにも取り組んだ。計算によるスペクトルは実測したものとおおむね一致し、計算手法は妥当と考えている。解析により、Sc濃度によるスペクトル形状の変化は配位構造変化であることを示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度の計画はScGaNの評価と加熱用セルの開発であった。スパッタリング法で作製した種々のSc濃度のScGaNについて、種々の温度(10K~900K)でScとGa両方の吸収端で実測し、詳細な配位構造を評価するといったもので、測定は順調に進んだ。配位構造の温度依存性を明らかにする予定であったが、ScのK端のEXAFS振動が想定より小さく、特にSc濃度が高い試料の室温以上で測定したスペクトルでは解析に十分な振幅が得にくいことが分かった。この結果により、配位構造の詳細な評価は冷却下での測定が有効であることが分かった。したがって、今後の実験は室温以下で行う方針にした。オペランド測定用セルの開発も、加熱用は中止し冷却用のみのセル開発に変更した。より感度の取れるよう、セルや試料ホルダ等を設計し、試作品を作ることができた。予定とは異なるが、むしろ、本来の研究目的である配位構造評価に必要な測定システムの構築に向かっていると考えている。 また、XANESでも配位構造変化に由来する、興味深いスペクトル変化が得られた。これを詳細に解析するために第一原理計算によるスペクトルシミュレーションにも取り組み、実験結果に近いスペクトルが得られるようになり、配位構造の詳細な解析ができるようになった。また、EXAFSスペクトルの解析にも計算科学を取り入れた解析に挑んでいる。以上のことから、本研究はおおむね順調に進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、ウルツ鉱型窒化物圧電材料における多元素化による圧電性能向上効果の解明である。X線吸収分光法(XAFS)を用いて、元素ごとに配位構造や結合特性を実測評価し、圧電性能の本質である、原子の振舞いを捉え、窒化物材料の多元素化効果の実態を明らかにする。令和5年度は、その一環であるオペランド計測に挑む。電界を印可して圧電効果によって結晶を歪ませることで、原子間の結合特性の評価に挑む。配位構造解析に十分なスペクトルを得るには、冷却する必要があることが令和4年度に明らかになった。そこで、令和5年度は試作したクライオセルを用いて、冷却しながらの電界印可オペランド計測を行う。試料はScGaNを用いる。 電界効果によるひずみはSc濃度が高いほど大きくなると期待されるが、その一方で結晶性の低下に起因してEXAFS振動の振幅は小さくなり、解析が困難になることが考えられる。令和4年度から取り組んでいる第一原理計算によるXANESのスペクトルシミュレーションによる解析での知見などを駆使して、配位構造変化の詳細な解析に取り組む。
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