研究課題/領域番号 |
23K23086
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補助金の研究課題番号 |
22H01818 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26040:構造材料および機能材料関連
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
芹澤 愛 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (90509374)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2024年度: 5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
2023年度: 6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2022年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
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キーワード | 水蒸気プロセス / アルミニウム合金 / カーボン膜 / 異種界面 / 燃料電池 / ヘテロ構造皮膜 |
研究開始時の研究の概要 |
燃料電池車に搭載される燃料電池セルスタックは、一層の軽量化・小型化が期待されており、スタック重量の約8割を占めるセパレータへの軽金属材料の適用は悲願である。セパレータには、強酸環境下にも耐え得る極めて高い耐食性、発生した電流を隣接したセルに効率よく流すための高導電性が求められるが、これらを両立させる表面処理技術はない。本研究では、アルミニウム合金基材上に高耐食性と高導電性を兼ね備えた皮膜を形成するための技術開発を行う。具体的には、カーボン膜の形成およびポーラス化技術、水蒸気プロセス技術を駆使することで、水酸化物とカーボンの異相界面を制御したヘテロ構造皮膜を創製することを目指す。
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研究実績の概要 |
燃料電池セルスタック重量の約8割を占めるセパレータへのアルミニウム合金の適用を実現させるため、セパレータに要求される特性である高耐食性、高導電性を兼ね備えた多機能性皮膜をアルミニウム合金上に形成することを目的とした。耐食性と導電性という両立しない特性を同時に付与する必要があるため、我々が独自に開発した新規プロセスである水蒸気プロセスを活用し、それぞれの特性に有利な材料を組み合わせたヘテロ構造皮膜を作製することを発想した。ヘテロ構造皮膜の作製を実現するため、水蒸気プロセスをいかに活用して異種界面形成を促進させるか検討することで、多機能性ヘテロ構造皮膜をアルミニウム合金上に形成するユニークな手法を確立することを目指した。 本年度は、導電性に加えて熱伝導性の向上を目指して、高熱伝導性セラミックスであるAlNを導入し皮膜内に熱伝導パスを形成させることでヘテロ構造皮膜を設計した。AlNは水との接触によりAlO(OH)へ加水分解することを利用し、事前に熱処理を施して粒子表面にAl2O3皮膜を被覆する耐水処理を施すことで、反応後のAlNの残存量およびAlO(OH)の形成量を制御できることが期待される。純Al合金基材に対して、耐水処理を行ったAlN粒子を添加して水蒸気プロセスを施すことにより、AlN/AlO(OH)複合皮膜を作製できることを確認した。複合皮膜は、表面にAlO(OH)結晶が形成した耐水処理後のAlN粒子が堆積した構造を有し、皮膜/粒子界面は緻密に結合していた。複合皮膜を形成したAl基材は同じ膜厚のAlO(OH)皮膜と比較して有効熱伝導率の低下が抑制されたことから、ヘテロ構造皮膜の新規設計法の開発に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Al基材に水蒸気プロセスを施して作製したAlN/AlO(OH)複合皮膜の試料断面のSEM像から、耐水処理したAlN粒子に対して水蒸気プロセスを施すことで、AlO(OH)が結晶として粒子表面の細孔を充填するように形成している様子が観察された。AlNは熱酸化によりN2を放出するため、耐水処理によりAlN 表面に形成されるAl2O3皮膜に細孔が形成されることが知られている。この細孔に水蒸気プロセス環境下で亜臨界水が侵入し、Al2O3/AlN界面からAlO(OH)への転化によって体積が1.6倍に増加したため、細孔を封孔しながら粒子表面から結晶として成長したと考えられる。ここで、AlO(OH)皮膜は緻密層と結晶層の2層構造であることを明らかにしているが、AlO(OH)皮膜/AlN粒子界面近傍にて添加された粒子は緻密層と密着していることから、AlN粒子を取り込みながらAlO(OH)皮膜が形成することでヘテロ構造皮膜が作製できることを明らかにした。 AlO(OH)皮膜および複合皮膜を形成したAl基材全体の有効熱伝導率の膜厚に伴う変化から、水蒸気プロセスを施すことによってAlO(OH)皮膜の形成および膜厚の増加に伴い試料の有効熱伝導率はAl基材と比べて低下した。複合皮膜の膜厚は19.5 μmであり、同等の膜厚で比較すると、AlO(OH)皮膜はAl基材より11.1%の有効熱伝導率低下に対し複合皮膜では8.1%であったことから、複合皮膜においては有効熱伝導率の低下が抑制された。したがって、複合皮膜を形成したAl基材は同じ膜厚のAlO(OH)皮膜と比較して有効熱伝導率の低下が抑制されたことから、ヘテロ構造皮膜の新規設計法の開発に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、導電性に加えて熱伝導性の向上を目指して、高熱伝導性セラミックスであるAlNを導入し皮膜内に熱伝導パスを形成させることでヘテロ構造皮膜を設計した。その結果、純Al合金基材に対して、耐水処理を行ったAlN粒子を添加して水蒸気プロセスを施すことにより、AlN/AlO(OH)複合皮膜を作製できることを確認した。複合皮膜は、表面にAlO(OH)結晶が形成した耐水処理後のAlN粒子が堆積した構造を有し、皮膜/粒子界面は緻密に結合していた。複合皮膜を形成したAl基材は同じ膜厚のAlO(OH)皮膜と比較して有効熱伝導率の低下が抑制されたことから、ヘテロ構造皮膜の新規設計法の開発に成功した。一方、AlO(OH)皮膜/粒子界面近傍において、AlN粒子同士では結合が不十分な箇所が存在することを見出しており、積層なく配列した粒子が添加されることで緻密な複合皮膜が作製できれば、さらなる熱伝導性低下の抑制が見込める。したがって、来年度は適切な界面活性剤の使用による異種界面形成の促進、AlN粒子の添加量ならびに水蒸気プロセス条件の最適化を行う。 さらに、作製したヘテロ構造皮膜の構造材料への適用可能性を検討するため、引張試験や平面曲げ疲労試験等によってこれまで作製した各種ヘテロ構造皮膜の力学特性の評価も行う。
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