研究課題/領域番号 |
23K23158
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補助金の研究課題番号 |
22H01890 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分28010:ナノ構造化学関連
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
八尾 浩史 三重大学, 工学研究科, 教授 (20261282)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,940千円 (直接経費: 13,800千円、間接経費: 4,140千円)
2025年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2022年度: 11,830千円 (直接経費: 9,100千円、間接経費: 2,730千円)
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キーワード | 半導体ナノ構造 / 局在表面プラズモン共鳴 / 非化学量論性 / 磁気円色性 / 磁気円二色性 / 表面プラズモン / キャリアドープ / 非化学量論組成 / 半導体 / ナノ構造 / 化学合成 / プラズモン |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は「キャリアドープ半導体」のナノ構造が発現しうるプラズモン特性に着目し、そのナノ構造体を化学的に作製する事、ナノ構造体に特徴的な磁気円二色性(MCD)応答とその起源や特異性を明らかにする事、更には、高性能なプラズモン性ナノ構造を得るための指針を明らかにする事を目的とする。本研究は以下の方法を以て遂行する:(1) 非化学量論組成に基づくキャリアドープ型半導体を選択してナノ構造体を化学的に作製し、光学特性・MCD応答を評価する、(2) スペクトル解析や形態・組成・表面解析等による構造的評価を通して高品質試料を得る指針を蓄積する、(3) 構造のハイブリッド化によってMCD応答を精密制御する。
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研究実績の概要 |
本研究は主に、非化学量論組成に基づくキャリアドープ半導体のナノ構造が発現しうる表面プラズモン特性に着目し、そのナノ構造を化学的に作製すると共に、光学及び磁気円二色性(MCD)応答とその起源や特異性を明らかして、高性能なプラズモン性半導体ナノ材料を得るための指針を得る事を目的として実施された。その半導体の代表例として、酸素欠損型の金属酸化物が注目を集めている。本研究代表者は非化学量論性の酸化タングステンWO3-xナノ構造体が磁気光学材料として非常に有望である事をMCD研究を通して世界に先駆けて提案した。しかしながらその本質的起源については不明であり、これを解明しなければ半導体ナノ材料を利用してのプラズモニクス研究に大きな進展は期待できない。とりわけ、性能の良いプラズモン性半導体ナノ構造を得るための指針を獲得し、作製パラメータを精密にコントロールして、そのMCD応答を変調・制御する事が必須であると考える。本年度は更に酸化物系材料を拡張し、酸素欠損型の酸化モリブデン(MoO3-x)及び異種金属元素ドープ酸化タングステン(MWO3-x)等を中心とするナノ粒子の作製とその機能性評価に実績を上げる事ができた。 酸素欠損型の酸化モリブデンナノ粒子作製については、近年開発されたチオールによる室温合成法を適用した。しかし得られたナノ粒子は凝集が著しいために単離できない点に困っていたものの、水熱処理を行う事で分散性の良い試料を得る事に成功、MCDを始めとする分光特性や構造評価を行う事ができ、その特徴を明らかにした。また、酸化タングステンではセシウム(Cs)ドーピングを試み、高温反応を利用してのナノ粒子作製と光学・MCD評価を行った 。首尾良くCsのドーピングに成功し、その光学特性、MCD応答を検討したところ、近赤外領域におけるプラズモン及びポーラロンを各々高感度に検出できる事を実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非化学量論組成を持った酸化物半導体として、酸化モリブデン及び酸化タングステンナノ粒子の作製を目標とし、その欠損度の制御、更にはそれに依存した光学特性の制御を目指して研究を行った。酸素欠損型の酸化モリブデン(MoO3-x)ナノ粒子の作製に、近年開発された室温チオール合成法を適用し、その低温下での作製に成功した。チオール分子の選択は重要であり、ペニシラミンを用いた時に極めてサイズが小さく、劣化が殆ど無いナノ粒子の作製が可能となった。作製当初は粒子の凝集が著しく、光学・MCD特性の評価までには至らなかったが、作製後の90℃での水熱処理により、粒子の凝集が防止される事を見出した。これにより、MCD応答が種々の溶媒中で可能となり、近赤外領域の光学応答とMCD応答の相関を調べる事に成功した。その結果、多くの論文でプラズモンと同定している分光特性が確実ではなく、ポーラロン遷移に基づいている可能性が極めて高い事を明らかにした。一方、酸化タングステンにおいては、異種金属元素であるセシウム(Cs)のドーピングによって非化学量論性の導入を試みた。Csドープには300℃程度の高温が必要であったが、高沸点性の有機溶媒をベースとする手法により作製する事に成功した。得られたCsドープ酸化タングステン(CsWO3-x)を分光評価したところ、近赤外領域に2つの吸収極大を示し、特に、MCD応答の利用によって、高エネルギー側はポーラロン、低エネルギー側はプラズモン由来である事を感度良く同定する事に成功した。更に、酸化物系材料の対象を広げるために、酸素欠損型TiO2-xの作製にも取りかかり、予備的実験を行っている。TiO2-xは有色に着色する事が多く、光触媒への応用の観点からも近年注目を集めている。残念ながらサイズの小さな、分散性の良いナノ粒子は殆ど見あたらないため、一から作製法の開発に乗り出した状況である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により得た非化学量論性の酸化物半導体ナノ構造の作製や分光特性の知見を活用すべく、引き続き酸化物半導体をターゲットとして材料作製に関わる様々な条件の検討・最適化、作製された材料のクオリティ評価とその品質に依存したMCD応答発現のメカニズム解明に関わる研究を推進する。更には、硫化物(カルコゲナイド)系の半導体ナノ構造体への展開も試みる予定である。 具体例としては、タングステン酸化物(WO3-x)のチオールによる低温合成や二酸化チタン(TiO2-x)のナノ粒子作製を試みる。チオールによる低温合成の手法はMoO3-xに適用された簡便な方法ではあるが、再分散可能な固体として取り出す事が困難であった。本研究では、WO3-x作製に好ましいチオール分子の探索と手法を詳しく検討する。酸素欠損型二酸化チタンナノ粒子の作製については、本研究代表者の知る限りその報告例は殆ど無く、新たに手法を開発する。現在の所、Ti(III)を利用したソルボサーマル法を応用し、作製を試みる予定である。一方、カルコゲナイド系としてはCu2Sや3元系半導体のCuFeS2があるが、これらは金属イオン欠損がキャリアドープの源となる。その結果、WO3-x等とは異なってキャリアは正孔となり、そのMCD応答は極性が全く反対となる事が予想される。その応答強度についてはこれまでの所知見は殆ど無く、研究の進めがいを感じる。 作製したナノ粒子の構造的評価は、これまで通り結晶相、サイズ、形態表面、内部組成や非化学量論性と密接に関わる金属元素の価数の同定、不対電子や自由電子の存在の有無を詳しく調べる。得られる光学・磁気光学応答としては、キャリア濃度が充分である時は表面プラズモンが発現するが、濃度が低い場合は、例えばポーラロンとなって光学的応答をする。この現象について、MCDはどの様に威力を発揮できるかを詳しく検討する。
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