研究課題/領域番号 |
23K23185
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補助金の研究課題番号 |
22H01917 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分28030:ナノ材料科学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
石井 智 国立研究開発法人物質・材料研究機構, ナノアーキテクトニクス材料研究センター, チームリーダー (80704725)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,680千円 (直接経費: 13,600千円、間接経費: 4,080千円)
2024年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2022年度: 9,750千円 (直接経費: 7,500千円、間接経費: 2,250千円)
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キーワード | 熱ふく射 / 光冷却 / 微細構造 / 放射冷却 / 熱輸送 / 発行 / 熱放射 / アンチストークス蛍光 / 発光 / ナノ構造制御 / ナノ光学 / 熱制御 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、熱ふく射による放射冷却と、アンチストークス蛍光のふく射による光冷却を対象とする。どちらもふく射することによって冷える現象であり、前者は主に中赤外域、後者は主に近赤外域でのふく射である。これら2つの現象の冷却能力はふく射する材料に固有であるが、本研究では微細構造によってふく射を増大し、2つの冷却能力をそれぞれ高めることを実験と計算の両面から取り組む。
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研究実績の概要 |
光の状態密度の大きな環境では、光がより多く存在できるため、ふく射量の増大が見込める。本研究では光の状態密度を大きくすることで、ふく射量を増大させ、光による冷却能力を向上させることを狙う。近赤外域の冷却ではアンチストークス蛍光による光冷却を、赤外では放射冷却を、それぞれ対象とした。 光冷却に関しては、アンチストークス蛍光を示すイットリウムフッ化リチウム(YLF)を水熱合成法により合成した。実際には微量のエルビウムを添加し、傾向による温度モニタリングができるようした。主に水熱合成時の加熱温度や加熱時間を最適化することで、単相ではないものの主要な相としてYLF相を得ることに成功した。得られたYLF粉体の蛍光スペクトルの温度依存性を調べると、冷却を示す依存性が得られた。このことから、YLF粉体自体の試料合成は計画通りできたと考える。 放射冷却に関しては、熱ふく射取り出し構造として高屈折率であるシリコンを用い、アルカリエッチングによりミクロンスケールのピラミッド構造を作製した。所望の大きさである10 um程度のものができつつあるが、再現性が高くないため、作製手順を丁寧に見直す必要がある。作製した構造の熱放射の評価は継続中である。 放射冷却の応用として想定している日中放射冷却では、多層膜を用いることで極めて高い性能指数を持つ試料の作製に成功した。屋外で行った測定でも実際に日中の冷却効果が確認できており、試料の有効性が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光冷却に関しては、まずイットリウムフッ化リチウム(YLF)の水熱合成に取り組んだ。オートクレーブを用いて混同したスラリーを加熱したが、加熱温度220℃、加熱時間約3日の時主成分がYLFである粉体の合成に成功した。YLF粉体は、波長1030nmのCWレーザーの励起によってアンチストークス蛍光が確認された。また、試料の温度をモニターするためにドープしているエルビウムの励起光強度に依存したピークシフトを観測することで、YLF粉体が1020nm励起により数K冷えることが確認できた。その後、次年度に向けてYLFの薄膜作成に取り組んでいるが、抵抗加熱によって蒸着した膜はアンチストークス蛍光が弱くなってしまい、まだ改善できていない。 熱放射に関しては、高屈折率材料としてシリコンを選択し、シリコンの光取り出し効率を上げることで大気中への熱放射量が増大させることを目指した。シリコン表面をピラミッド構造にすることを目指したが、水酸化ナトリウム水溶液に少量のアルコールを加えるとミクロンスケールのピラミッド構造が作製できるようになってきた。ただ、小さな作製条件の許容幅が小さく、歩留まりを下げるためにはより細かく条件を詰める必要がある。 大気中への熱放射の増大ができた場合の応用として、日中放射冷却がある。熱放射量を増大できる構造は研究中のため、ここでは平面基板を用いたが、多層構造とすることで先行研究より高い性能指数を持ち、実際に屋外で日中の放射冷却特性を示すことを確認した。加えて、放射冷却によって得られる温度差を用いた熱電発電素子の開発も進めている。
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今後の研究の推進方策 |
光冷却について、微細加工のためにYLF結晶の薄膜作製に取り組む。2023年度は抵抗加熱に用いる原料の合成条件を見直し、成膜後もアンチストークス蛍光が下がらないようにする。製膜した薄膜の発光効率が下がることを皆瀬できない場合は、次善の策として遊星ボールミルで微結晶を粉砕し、それを基板上に塗布して乾燥させることで薄膜とする。 発光効率の高い薄膜が得られたら、光の状態密度の高い微細構造と組合せる。想定している構造は2つあり、一つはプラズモン共鳴を示す金のナノアイランド構造で、もう一つはポリスチレン球が最密充填した構造である。これらの構造を作製していて、強い共鳴を示すように作製条件を詰める。これらの微細構造が完成したら、2022年度に改造した顕微蛍光分光装置を用いてアンチストークス発光とそれによる温度低下を評価し、光の状態密度が与える温度低下への寄与を明らかにする。 放射冷却では、高屈折率の微細構造中から大気への熱放射量を見積もるためのモデルの改良を行う。2022年度は、2次元構造や2周期分程度の領域を仮定した計算までしかできなかったため、今年度はより大きな構造を計算できるようにモデルを拡張する。加えて、これまでのモデルは微細構造中の熱放射の吸収を考慮していなかった。しかし、実際の材料では特定の波長帯において吸収がある場合があるので、媒質中の吸収も考慮できるようにする。実験では、主にシリコンのピラミッド型構造の作製を継続する。これまでの構造は大きさが不揃いで不規則に配列したものだったが、大きさのそろった周期的な構造の作製を目指す。そのような構造作製のために、リソグラフィとウェットエッチングを組合せた方法を開発していく。試料の形状評価を走査型電子顕微鏡やレーザー顕微鏡で行った後、熱流束やスペクトル測定から熱放射の増加量を見積もり、ふく射量増大に与える微細構造の影響を明らかにする。
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