研究課題/領域番号 |
23K23202
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補助金の研究課題番号 |
22H01934 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29010:応用物性関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
澤 博 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (50215901)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,160千円 (直接経費: 13,200千円、間接経費: 3,960千円)
2026年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2025年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2024年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2023年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2022年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
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キーワード | 価電子密度解析 / 放射光X線回折 / 磁性 / 強力磁石 / スピン-軌道相互作用 / 価電子密度分布解析 / スピン-軌道相互作用 / 電子密度解析 / 精密構造解析 / 超強力磁石 |
研究開始時の研究の概要 |
我々が独自開発した価電子密度の直接観測法を活用して、スピン-軌道-結晶格子の相互作用の解明、及び強力永久磁石 Nd2Fe14Bにおける4f 電子軌道と磁性状態との関連の解明を目的とする。SPring-8における精密解析のための測定条件の精査と改良を行い、目的とする量子状態の観測を可能とする。また、Ln2Fe14BのLnサイトをY及びNd以外のランタノイドに変更した場合の価電子密度解析も行う。特に、価電子密度解析においては原子散乱因子の信頼度が重要となるため、第一原理計算との直接比較などを行い、この解析手法が様々な物質・材料群に適用可能であることも示す。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、我々が独自開発した価電子密度の直接観測法を適用し、スピン-軌道-構造の関係の解明、及び強力永久磁石 Ln2Fe14Bにおける4f 電子軌道と磁性状態の関連の解明である。初年度は、精密解析を行っているSPring-8のビームラインに設置してある検出器の系統誤差等が解析に及ぼす影響を精査することと、Ln2Fe14BのLnサイトをY及びNd以外のランタノイドに変更した場合の価電子密度解析を行う計画である。 本課題で得られた研究結果を検討したところ、前年度までに測定結果が安定しないという問題があった。これを確認したのは、本課題申請の源流である3d遷移金属である三価のTiイオンの3d1軌道の価電子分布が測定条件などによって、結果が安定して再現されないことであった。これを解決するために、主に検出器の規格とSpring-8の放射光X線の特性を十分活かすような観測手法と画像解析のプロセスの条件を洗い出すことに本年度は特化した。この結果、強磁性磁石のFe 3d軌道の電子状態がランタノイドの種類によって変化することが本質であることを実験的に明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
価電子密度解析を行う上で、放射光の安定度とエネルギー分解能、及び入射ビームの均一性が大きな影響を及ぼす。これらについて、SPring-8のスタッフとも相談して光学系の改良を行って頂き光の質は安定して向上した。この光の質に合わせた形での検出器のパラメータについても検討を行い、2023年度はこれらの検証を系統的に行った。現在のところ、測定時間(正確には測定上の自動準備時間)がかなりかかってしまっているため、これらについて検討・調整を繰り返している。 一方で、適切な条件での測定を行うことで、価電子密度解析が再現性良く行えることが分かってきた。そこで、本研究の目的物質であるいくつかのランタノイドを置き換えたLn2Fe14Bの単結晶試料の測定を順次行い始めた。一回のビームタイムで温度依存性や精密測定のための条件出しなどを行うため、半期に2回程度のビームタイムで順次測定を行う計画であった。しかし、試料準備のために利用していた大学の既設のX線回折装置に不具合が生じたため、測定が後半にずれ込んだ。 一方で、本課題における対象物質以外について、測定条件および回折データの解析手法について多角的な検討を行った。特に、検出器の特性について本研究の要求するような安定度を有しているわけではないことを突き止めて、この困難さを補完するような測定条件を模索して、系統誤差をある程度回避した測定が可能となってきた。この結果、強力磁石中の価電子密度分布がランタノイドの持つ4f電子数に応じて系統的に変化していることが実験的に明らかになった。これはきわめて多くの論文報告があるにもかかわらず、殆ど触れられていない。今後はこれらを系統的に理解できる実験データを蓄積する。
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今後の研究の推進方策 |
強力磁石において4f電子の軌道状態がFeの3d軌道状態に与える影響がわかってきた。特に過去に強力磁石として注目されていたSmCoや現在開発が進められているSmFeNなどと同様なFeのハニカムネットワークが、強力磁石の性質に大きく影響することが示唆されている。今後はランタノイドの種類を順次かえた場合の結晶場の影響がどのように解釈されるかを理論的に評価することも行っていく。さらに、温度などの条件を変えた場合にどのような変化が見込めるかを、実際の測定に先立ってシミュレーションを行うことも含めて、順次実験していく計画である。これは、強力磁石に要求される性質の電子状態の解明に直結する。 一方で、スピン-軌道相互作用を明らかにするためのスピネル構造を有するFeV2O4及び同型物質の精密測定については、ドメイン解析の手法を模索していく。いくつかの測定条件と解析手法の組み合わせで、相転移前後の軌道状態の変化が明らかに得られるかどうかを検証する。常磁性状態を保っている高温相は結晶の高対称性を維持している。しかし、特に軌道の自由度を失う場合には、局所対称性の低下に伴う構造変化が往々にして生じる。このため、構造相転移に伴うドメイン形成が生じるために、単結晶構造解析を精密に行うことが困難である。この系における軌道と磁性の関係を解き明かすことは、将来的にドメイン解析を含めた精密解析の新しい手法の確立につながると期待している。
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