研究課題/領域番号 |
23K23203
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補助金の研究課題番号 |
22H01935 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29010:応用物性関連
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研究機関 | 公立千歳科学技術大学 (2024) 名古屋大学 (2022-2023) |
研究代表者 |
田中 久暁 公立千歳科学技術大学, 理工学部, 准教授 (50362273)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,680千円 (直接経費: 13,600千円、間接経費: 4,080千円)
2024年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2023年度: 5,980千円 (直接経費: 4,600千円、間接経費: 1,380千円)
2022年度: 9,230千円 (直接経費: 7,100千円、間接経費: 2,130千円)
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キーワード | 導電性高分子 / キャリアドーピング / 電解質ゲート法 / マイクロ波伝導 / 熱電変換 / デュアルゲート法 / 絶縁体ー金属転移 / 絶縁体-金属転移 / 電荷輸送 / 電子スピン共鳴 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、導電性高分子薄膜において電荷キャリアが非局在化するための方法論を確立し、高い電荷輸送・熱電変換特性を実現させることを目標とする。そのため、材料設計、製膜手法、並びにキャリアドーピングの観点からキャリア非局在化をもたらす要因を探索し、高特性の発現につなげる。具体的には、マイクロ波を用いた微視的な電荷輸送評価法により高い輸送性能が潜在する材料を効率的に選別しつつ、高分子の主鎖配向化や精密なキャリア濃度制御を行い、高分子素子の高特性化を実現する。さらに、多様な物性測定を組み合わせ、薄膜の電荷輸送・熱電変換メカニズムを明らかにし、キャリア非局在化をもたらす指針解明を行う。
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研究実績の概要 |
本年度は化学ドーピングや電気化学ドーピング、さらには電界効果ドーピングを組み合わせた多角的なドーピング手法により、導電性高分子ドープ膜の物性制御と電荷輸送特性評価をすすめた。 結晶性の高い導電性高分子PBTTTにおいては、高濃度のドーピングに伴い金属的な電子状態・電荷輸送が実現することが前年度までの電気化学ドーピング実験で明らかになっていた。一方で、従来の電気化学ドーピングではドープ濃度の制御は精密に行えるものの、ドーピングには外部電圧(ゲート電圧)印加が不可欠であった。そこで本年度は、FeCl4をアニオンとするイオン液体(EMIM-FeCl4)を用いてドーピング及びその濃度制御を行った。実際に、本イオン液体を滴下したPBTTT薄膜は瞬時に500 S/cmを超える高い室温伝導率を示し、本イオン液体が優れた化学ドーパントとして働くことが分かった。さらに、ドープ膜に対して正のゲート電圧を印加することで電気伝導率を可逆的に制御できることがわかった。この結果は、本イオン液体を用いて高い伝導性を示す”normally-on”型電気化学トランジスタを作製できることを示している。 また、本年度は前年度に開発着手した「デュアルゲート」型トランジスタ構造を用いた研究をすすめた。この手法は電気化学ドーピングと電界効果ドーピングを電解質ゲートと固体ゲートを組み合わせて同時に行うことで、移動度やキャリア濃度の直接評価を可能とする。実際に、PBTTTでは電気伝導率が絶縁体的な挙動を示す温度領域(60 K)においても、固体絶縁膜界面における電界効果移動度はバンド伝導を意味する負の温度依存性を示すことが明らかになった。一方で、アモルファス的な構造を示す高分子材料では高ドープ膜においても移動度の温度依存依存性は絶縁体的であったことから、PBTTTの高い構造秩序がキャリア非局在化をもたらすことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は現在のところ順調に進展している。PBTTTに代表される高結晶性の高分子薄膜では、高濃度のキャリア注入によりドープ手法によらず高い電気伝導性やキャリア非局在化が実現し、それらがドープ膜においても維持される緻密なπスタック構造に由来することが電荷輸送測定やX線構造解析などのデータ蓄積により明らかになってきている。これらの知見をベースとすることで、より多様な分子構造を持つ高分子材料において膜構造と電子状態、電荷輸送の相関を解明し、キャリア非局在化を実現するための下地が整ったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
高結晶性高分子PBTTTにおいては、高濃度のドーピングによりキャリア非局在化が実現することがこれまでに明らかになった。一方で、巨視的な非局在化が起きる例は高分子では稀である。例えば、PBTTTと同様なedge-on配向を示すにもかかわらず、ドナー・アクセプタ(D-A)型構造を持つ導電性高分子DPPT-TTでは、高分子の主鎖骨格内ではキャリア非局在化が可能であるものの、鎖間方向の非局在化はほぼ起こらないことが磁気伝導度測定から明らかになった。この材料はπスタック方向の結晶性が低いことが斜入射X線回折から明らかになっており、鎖間方向の伝導がホッピング的になることが電気伝導率の低下につながると考えられる。従って、πスタック方向の結晶性向上がキャリアの非局在化と、それに伴う高い伝導性や熱電変換性能の実現のため必要であると予想される。 これらを踏まえ、今後はより緻密なπスタック構造を形成できる高分子材料と化学ドーピング・電気化学ドーピングを組み合わせ、キャリア非局在化をもたらすための条件をより詳細に明らかにする。具体的には、すでに研究着手しつつある高結晶性を示すD-A型高分子DPP-TVT、並びに、PTzBT-14HDを対象に電荷輸送評価を進める。これらの材料の薄膜は、斜入射X線回折測定により明確なπスタックピークを示したことから、主鎖方向とπスタック方向を含めた2次元的なキャリア非局在化と、それに伴う高い導電性の実現が期待できる。そこで、これらの材料を対象として、ESR法を用いた微視的なキャリア非局在性の評価、気伝導率や磁気伝導度、並びにデュアルゲート構造を用いた移動度評価法を用い、ドープ膜の電気伝導特性を低温まで明らかにする。高い伝導性が実現できる材料ではゼーベック係数を測定し、高特性の熱電変換素子の実現を目指す。
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