研究課題/領域番号 |
23K23210
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補助金の研究課題番号 |
22H01942 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29010:応用物性関連
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
池田 直 岡山大学, 環境生命自然科学学域, 教授 (00222894)
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研究分担者 |
藤井 達生 岡山大学, 環境生命自然科学学域, 教授 (10222259)
沖本 洋一 東京工業大学, 理学院, 准教授 (50356705)
藤原 孝将 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光量子科学研究所 放射光科学研究センター, 研究員 (50847150)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2024年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2023年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2022年度: 7,280千円 (直接経費: 5,600千円、間接経費: 1,680千円)
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キーワード | 電子強誘電体 / YFe2O4 / RFE2O4 / RFe2O4 / LuFe2O4 / 電荷秩序 / フラストレーション / マルチフェロイック / 電子強誘電性 / 電荷秩序相 / 逐次相転移 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は電子強誘電体の常温の存在を解明してきた。そして超高速応答、省電力分極反転、THz発生源動作,マルチフェロイック機能などの魅力的な新機能を持つことも明らかにしてきた。この新しい物性は、極めて柔らかな電気分極の超高速応答があることを解明してきた。その起源は鉄d電子間の相互作用にある。本研究は、電子強誘電体の低温の逐次相転移近傍に注目し、極性電荷秩序(強誘電)相と非極性電荷秩序相の境界領域、さらにそれに重なる磁気相転移点での、誘電応答、磁気応答、光応答解析技術を開発しながら、最終的にFeイオン間相互作用に役割を持つと示唆されるスピン揺らぎ効果の役割を、世界に先駆け総合的に解明する。
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研究実績の概要 |
我々は電子集団が自発的に極性な配置を形成する電子強誘電体が常温に存在することを解明してきた。さらにこの物性が、超高速応答、省電力分極反転、THz発生源動作,マルチフェロイック機能などの魅力的な新機能を持つことも明らかにしつつある。一方でこの物性の起源に対する理論的解釈では、鉄d電子間の電荷間クーロン相互作用、Fe2+に存在するホール軌道による超交換相互作用の量子縮退と競合、さらにそれらの熱ゆらぎ効果にあるとされているが、その実験的証拠はまだ十分に得られていない。 本研究は、電子強誘電体の低温の逐次相転移近傍に注目し、極性電荷秩序(強誘電)相と非極性電荷秩序相の境界領域、さらにそれに重なる磁気相転移点付近での誘電・磁気応答や電子構造を解析することを目標としている。最終的にFeイオン間相互作用の光制御手法を完成し、この相境界付近での光―誘電―磁 気応答を精密に評価することで、電子強誘電体の起源 であるd電子間相互作用とスピン揺らぎ効果の役割を、世界に先駆け総合的に解明することである。 本年度は特に、YFE2O4の示す磁気転移発生に伴った3倍電荷秩序相と7倍電荷秩序相の相境界の存在について、詳細な構造がを明らかにしている。また合わせて非磁性の3倍秩序相において、異常な磁歪効果があることを新たに発見した。特に後者について理論研究者も交えた解析が行われている。この現象は本材料が示す、極性な電荷秩序の安定性とスピンゆらぎ効果の顕著な相関(ないし強い因果関係)を示す露頭ではないかと認識され、24年度から集中的な実験が行われることとなった。 また強誘電分極を示す3倍電荷秩序相のパルス電場応答の異方性を利用すると、メモリー効果を再現できることが判明した。これを応用する研究を、グループを構築して開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
3倍極性電荷秩序相の特徴的な分極応答を確認するために、電場印加に伴う3倍電荷秩序超格子の応答観測を試みた。直流電場印加では電流により電荷秩序が崩壊するため、パルス電場を印加する技法の開発を行った。10ms以下のパルス電場を用いることで、電気分極だけに作用し、通電に伴うジュール加熱効果を抑えられることを見出した。またパルス電場印加後の「休止時間」も分極応答の制御に有効に作用する。3倍電荷秩序相では、結晶対称性との整合から、6種類の分極ドメインが同時に発生しているが、適切なパルス電場を印加することで、特定のドメインだけを大きくすることが可能であることを見出した。これは3倍電荷秩序相が、電場に共役に応答する電気分極を持つことに整合する。同様に、磁場を加えるときのこの分極ドメインの存在比の確認を行ったところ、磁場印加においても、6種類の分極ドメインのうち特定のドメインだけを大きくなることが見出された。さらに驚くべきことに、このときに格子定数も大きく変化した。この格子定数の変化量と加えた磁場の強さから見積もられる磁歪定数は、0.1%/Tを超えており、超磁歪現象と分類されうる。 このパルス電場や磁場印加に伴う強誘電ドメインの応答は、SHG測定でも同様に確かめることができた。 既知の超磁歪効果は強磁性相に見出されている。しかしこの電子強誘電体においては、非磁性相で観測される。本現象の解釈について、物性理論研究者も交えたオンライン研究会を開催した。その結果本効果の本質に、磁気転移温度以上から300Kまでの間に存在するスピンゆらぎ効果にあるのではないか、と仮説を得た。 現在も多様な解析を続けているが、300K付近では今まで説明のできないエントロピーの不連続が比熱異常で観測されていること、さらに新たに電気伝導度の異常を見出したことから新種の相転移があることも想定されている。
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今後の研究の推進方策 |
300Kという非磁性相での 0.1%/T を超える超磁歪効果は、基礎物性研究の発見としてインパクトを持つが、実用においても重要な新原理を提供できる可能性がありこの現象の精密な理解は重要である。このため早速24年度は、高エネルギー加速器研究機構の放射光施設(PF)において、BL-3の磁場中回折装置を用い、格子定数と超格子発達に関する磁場温度相図を観測する利用研究課題を進める。同様に230Kから300Kにおいて、スピンのゆらぎと短距離秩序にともなう磁気散漫散乱の存在も明らかにしてきたが、この存在も格子定数と超格子発達に関連した磁場温度相図と重ねて理解することが必要である。このため東海村の研究原子炉JRR3にて、磁気散漫散乱の磁場温度相図を観測する共同利用課題も推進する。この実験も24年度から取り組む。 またパルス電場により電荷秩序が発達する現象の詳細では、電荷秩序が発達した結晶の電気抵抗が高くなり、また電荷秩序を融解させる方位のパルス電場を加えると、電気抵抗が低くなることも見出した。これは400Kまで安定に動作するため、新しいメモリー材料になることも注目を得ている。これは本基盤研究から見出された応用研究シーズであり、東京大学、東京工業大学、東北大学、産業総合技術研究所と共同して、応用展開も視野に入れた詳細な解析を実施する。
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