研究課題/領域番号 |
23K23229
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補助金の研究課題番号 |
22H01961 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29020:薄膜および表面界面物性関連
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
内橋 隆 国立研究開発法人物質・材料研究機構, ナノアーキテクトニクス材料研究センター, グループリーダー (90354331)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
2024年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 8,970千円 (直接経費: 6,900千円、間接経費: 2,070千円)
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キーワード | 超伝導 / 原子層物質 / ラシュバ効果 / 原子層 / 表面 / ボルテックス / 表面原子層結晶 / 量子干渉効果 / ヘリカル状態 / 電気磁気効果 / 表面原子層 / 微細加工 / トランスポート測定 / STM測定 |
研究開始時の研究の概要 |
ラシュバ型スピン軌道相互作用(SOC)は磁場下においてエーデルシュタイン効果などの電気磁気効果をもたらすことが知られている。特に超伝導体においては、「常磁性超伝導電流」の誘起や磁場による超伝導転移温度(Tc)の上昇などの目覚ましい現象を引き起こすことが予想されているが、これまで確固たる実験的証拠は存在しなかった。本研究では、磁場下で超伝導位相が空間変調された状態(ヘリカル状態)を検出することで、ラシュバ型SOCがもたらす電気磁気効果の決定的な証拠を得ることを目的とする。このために、理想的な2次元性を有する超伝導原子層結晶に着目し、原子ステップでのジョセフソン接合において量子干渉効果を観測する。
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研究実績の概要 |
本研究課題では、表面原子層結晶を超高真空環境で微細加工して微細伝導チャンネルを作製し、磁場中で量子干渉効果を観測することを目標としている。これまでに、10ミクロン幅と2ミクロン幅のチャンネルをもつ試料を作製し、その伝導特性を低温で観測した。前者では転移温度Tcがやや下がったが、明瞭な超伝導転移が観測された。一方で、後者では、超伝導転移が大きく抑制され、400 mKまでゼロ抵抗を得ることができなかった。これは、シャドーマスクを介したアルゴンスパッタにより伝導チャンネルがエッジから汚染されたためであると考えられる。スパッタイオンのエネルギーや種類などの条件を変更してみたが、本質的な改善には至らなかった。 そこで、微細加工チャンネルを用いた実験は中断し、従来型の大きなマスク構造(伝導チャンネル300ミクロン)を用いた実験に変更した。表面原子層結晶の超伝導は基板の原子ステップに大きな影響を受けることが、研究代表者の研究で明らかになっている。特に原子ステップに捕捉されたボルテックスはジョセフソンボルテックスとして振る舞い、ステップに平行方向と垂直方向の運動が大きく異なるために、伝導特性に大きな異方性が現れることが予想される。原子ステップの向きを揃えるために0.5°微斜面Si(111)基板上にインジウム原子層超伝導体を成長させ、面直方向に磁場を印加して、抵抗値の温度依存性を調べた。予想通り、ステップに平行方向と垂直方向にバイアス電流を流したときの伝導特性は大きく異なり、ジョセフソンボルテックスの熱的ホッピング運動の活性化エネルギーは、ステップ垂直方向で非常に大きくなることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超高真空環境におけるミクロン程度の微細加工が予想以上に困難であることがわかった。インジウムなどの原子層超伝導は欠陥によって特性が劣化するので、このような扱いは容易ではない。一方で、この研究の過程で、微細チャンネルの形成のためにNaClのインジウム原子層上への低温成長を試みたが、意外にもNaClに埋め込まれた場合は超伝導特性がほぼ完全に保持されることがわかった。この現象を利用することで、将来的にインジウムのような破壊されやすい原子層を絶縁層下に埋め込むことが可能になると考えられる。 一方向に原子ステップが揃った微斜面基板上での原子層超伝導体の輸送特性は、これまでには詳しい報告例がない。ステップによるボルテックス輸送特性の異方性とその制御は、2次元超伝導体研究における新しい方向性を示すものであり、今後の発展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
微斜面基板を利用したジョセフソンボルテックスのダイナミクスに関する研究を発展させる。ステップ平行方向および垂直方向のボルテックスの活性化エネルギーと磁場依存性の詳細なデータをとり、モデル計算と比較することで物理的な描像の確立を目指す。また、絶対ゼロ度近傍における、いわゆる2次元超伝導体の異常金属相についても、ジョセフソンボルテックスがもたらすと予想される異方性について調査する。2次元超伝導体では、極低温における臨界磁場近傍で量子グリフィス状態が発現することが近年報告されており、この現象においてジョセフソンボルテックスが果たす役割について調べる。異方的な系における量子グリフィス状態は興味深い問題であり、とりわけ動的臨界指数の発散の振る舞いがユニバーサルかどうかに着目して研究を進める。 低温成長したNaCl層によるインジウム原子層の埋め込み技術を発展させる。NaCl絶縁層の上にゲート電極を成長させ、ゲート電極による超伝導特性の変調を行う。これまでの研究代表者の研究では、有機分子からの電荷移動によりTcが上昇すると考えられていたが、最新の成果では電荷移動以外の原因が示唆されている。ゲート電極によるキャリア密度の変調を実現し、この系におけるTc上昇のメカニズムを明らかにする。
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