研究課題/領域番号 |
23K23239
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補助金の研究課題番号 |
22H01971 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分30010:結晶工学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
丸山 美帆子 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (20623903)
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研究分担者 |
高野 和文 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (40346185)
中嶋 誠 大阪大学, レーザー科学研究所, 准教授 (40361662)
吉川 洋史 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (50551173)
岡田 淳志 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 准教授 (70444966)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
2024年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2023年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
2022年度: 7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
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キーワード | バイオミネラリゼーション / 結晶成長 / 結晶多形 / 相転移 / 尿路結石 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では結石そのものの詳細分析と患者の尿環境の関連付けに重点を置く。結石分析には物質の凝集・固化の過程をたどる隕石研究の手法を導入し、 結石内部の結晶相、結晶組織、タンパク質の分布状況を可視化する(in vivo情報)。 研究代表者が着眼する結石内の結晶相転移が結石成長および 固化を加速させるという仮説に基づき、高分解光学的手法を用いて結晶相転移のリアルタイム観察(in vitro実験)を実施する。in vitro実験 の主要パラメータは結石観察により決定したものを用いる。
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研究実績の概要 |
尿路結石の巨大化および固化を加速するキラー反応が、シュウ酸カルシウム(CaOx)の準安定相(シュウ酸カルシウム二水和物:COD)から安定相(シュウ酸カルシウム一水和物:COM)への相転移であるという仮説を証明することを目的としている。 2022年度から2023年度にかけて、人由来の尿路結石を用いた相転移実験を実施した。本実験はリアルタイムでの表面観察(In-situ)ではなく、尿を模擬した溶液にCODを主成分とする結石を浸漬し、1週間ごとに溶液から取り出して結石の内部をマイクロCTで観察するという実験(Ex-situ)であった。その結果、COD結晶が経時と共にCOMのモザイク状構造に変化する様子を世界で初めて観察することに成功した。さらに、COM結晶とCOD結晶どちらも含んでいるCaOx結石を、結石手術で用いられる体外衝撃波結石破砕装置で破砕し、固さの評価を行ったところ、COMの層状構造とCOMのモザイク構造が固くて割れにくいことを示すことができた。この2つの結果より、相転移が結石を固くするという仮説は実証できた。 また、この相転移速度を制御している“候補タンパク質”を見出すために引き続き結石内部のタンパク質局在状態の可視化を進めた。その結果、COMの結晶成長を加速すると報告されているリゾチームは、結晶の内部に取り込まれていないことが分かった。また、相転移でできたモザイクCOMの周辺にはカルグラニュリンAが濃集しているという状況も見えてきた。 候補タンパク質がCOD結晶の相転移速度に及ぼす影響を評価するために、CODの大型結晶育成を試みた。安定相(COM)、準安定相 (COD)共に従来報告よりも大型(百マイクロメートル角程度)の結晶は得られるようになったが、表面観察に適した数百マイクロメートル角の結晶を得るには至っておらず、次年度の課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
人尿路結石サンプルの分析およびこれを用いたEx-situ相転移実験などは順調に進んだが、本研究で実施する「水溶液中におけるシュウ酸カルシウム(CaOx)結晶の相転移のリアルタイム観察系」を構築するための顕微鏡および微分干渉ユニットの選定と購入が難航した。その理由として、水溶液中で反射率が低い結晶の表面を見ようとした時、収差を補正仕切れずに微分干渉の効果が低くなってしまったことがある。そのため、改めて顕微鏡の選定を行い、2023年度に顕微鏡本体の購入が完了した。この理由から装置の改造等が遅れている。 また、CaOx相転移実験を実施するための大型結晶育成を試みたが、CaOx結晶は安定相(COM)、準安定相 (COD)共に表面観察に適した数百マイクロメートル角の結晶を得るには至っていない。結晶大型化にこだわり続けると研究が止まると判断し、代替案として人由来の尿路結石から比較的大きなCOD単結晶を得て、この結晶表面のin-situ観察を試みた。その結果、同じ結石から得られた複数のCOD単結晶間で、結晶の溶解の様子が大きく異なることが分かってきた。これは、生体内で作られたCOD結晶が、その成長環境に応じて多用な特徴を有することを示しており、極めて重要な知見である。一方で、候補タンパク質がCOD結晶の相転移に及ぼす効果を評価する場合、やはり無機合成したCOD単結晶の方が結果のばらつきが小さく、解釈もしやすいと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、 (1)環境を制御しやすい無機合成COD結晶を用いた相転移in-situ観察 (2)人体内での反応に近づけた人尿路結石由来COD結晶を用いた相転移in-situ観察 をそれぞれに進めることで、相転移現象の理解を深めていく。最終年度になるため、これまでに見出された相転移速度に影響を及ぼすと考えられる“候補タンパク質”の効果も評価していく。現時点での候補タンパク質は、リゾチーム、カルグラニュリンAである。また、人体内には存在していないが、COD結晶表面によく吸着するタンパク質として、大豆トリプシンインヒビター(STI)も見出している。これらのタンパク質が相転移速度に及ぼす影響を評価し、それぞれのタンパク質の特徴(分子量、等電点、カルシウムイオン結合サイトの数など)と合わせて整理する。また、(1)を実現するために、引き続き合成CODの大型化も継続する。数百マイクロメートル角の単結晶が得られれば、結晶表面の分子ステップとタンパク質の相互作用をより詳細に観察できることが期待できる。相転移の時空間制御に関しては、昨年度までにモデル物質のグリシン結晶にフェムト秒レーザーを照射することで相転移制御に成功しているため、これをCOD結晶に適用する。
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