研究課題/領域番号 |
23K23252
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補助金の研究課題番号 |
22H01984 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分30020:光工学および光量子科学関連
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中村 一隆 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (20302979)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
13,520千円 (直接経費: 10,400千円、間接経費: 3,120千円)
2024年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2023年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2022年度: 8,060千円 (直接経費: 6,200千円、間接経費: 1,860千円)
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キーワード | 量子コヒーレンス / 超高速現象 / フェムト秒 / コヒーレントフォノン / コヒーレンス |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,アト秒時間スケールの精度で相対光位相を制御したフェムト秒パルス列を用いた過渡反射率計測実験と,量子理論モデル計算をあわせることで,固体物質内の電子過程を経由した量子結合系(フォノン、プラズモン、エキシトンなどの結合系)の量子コヒーレンスの保持時間や量子もつれ(エンタングルメント)を評価を行う。また,相対光位相を制御したフェムト秒パルス列を照射することで,固体中の量子系およびその結合系のコヒーレント制御を行う。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は,アト秒の時間精度で相対光位相を制御したフェムト秒パルス列を用いることで,固体物質内の電子過程を経由した量子結合系(フォノン,プラズモン,エキシトンなどの結合系)の量子コヒーレンスの保持時間や量子もつれを評価,制御することである。 2022年度には,パルス幅50fsのレーザーを用いたn-type GaAs結晶の量子経路干渉の研究を進めた。ここで,ポンプパルス対の相対偏光角度を45度に設定して,300アト秒のステップで計測を行なった結果から,LOフォノン強度のポンプパルス間遅延時間依存性に,電子状態の干渉とフォノンの干渉による干渉縞が観測さる。特に,電子状態の干渉縞の破壊的干渉には,理論予想通り分裂が観測され,その大きさと理論計算との比較から,電子コヒーレンス保持時間を定量的に評価できた。また,電子コヒーレンス保持時間の温度依存性も測定できた。この結果は,国際会議で学会発表するとともに,学術誌に投稿している。また,電子コヒーレンスが失われる過程を,注目する系と環境との量子もつれから説明するデコヒーレンスを用いた理論的な解析も進めている。また,同時に測定されるLOフォノンとプラズモンの結合したモード(LOPC)の干渉形状についての解析も進めている。 GaAs/AlGaAs多重量子井戸の過渡反射率計測では,試料温度10Kにおいて,約50fsのレーザーを用いたダブルパルスを用いた量子経路干渉測定を行い,量子ビート強度の干渉縞の形状が光吸収型形状で説明できることを示した。この結果は,論文掲載された。また,サブ10fsレーザーを用いた実験では,室温で測定を行うことでコヒーレント光学フォノンの計測ができている。また,2022年度に購入した極低温冷凍機をサブ10fsレーザー計測システムに導入し,光学系の設計等に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主要目的は,固体物質内の電子過程を経由した量子結合系(フォノン,プラズモン,エキシトンなどの結合系)も量子コヒーレンスの保持時間や量子もつれを評価,制御することである。2022年度には,n-type GaAs単結晶において,45度相対偏光を持った位相制御フェムト秒パルス列を使った量子経路干渉測定により,電子コヒーレンスとフォノンコヒーレンスによる特異な干渉形状を観測した。また,これを量子モデル計算と合わせることにより,電子フォノン結合量子系において,これまで測定が非常に困難だった,電子コヒーレンス持続時間の定量的な評価を行うことができ,当初の計画通りに順調に進んでいる。また,半導体多重量子井戸試料を用いた,量子ビートの量子経路干渉測定では,理論から予測される光吸収型の干渉形状を観測し,これまでの理論モデルの確かさの確認もできている。また,2022年度に購入した極低温冷凍機の設置を行い,光学経路の設計も始めている。得られた結果は,国際会議での発表および,論文投稿している。理論研究においても,これまでの摂動法を超えた計算に取り組んで成果をあげている。 こうしたことから「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度に引き続き,約50fsのレーザーを用いたGaAs中の電子コヒーレンス保持時間の定量評価についての実験研究を進める。フェムト秒レーザーシステムを用いた過渡反射率計測実験以外に,光の相関計測のための光学系の準備と予備的な実験を行う。GaAs中の量子コヒーレンスに対する理論研究としては,2022年度の研究から電子コヒーレンス保持時間が光励起された電子と周りの熱的電子との衝突で説明できることが分かってきた。2023年度は,この過程を演算子表示し,量子力学的な理論モデルに組み込むことに取り組む。また,LOフォノンと同時に観測されるLOPCの解析を引き続き行い,結合した調和振動子モデルを用いて量子モデル計算に組み込むことを計画している。 GaAs多重量子井戸を用いたエキシトンーLOフォノン相互作用に関しては,光学系を整備して,サブ10fsレーザーを用いた実験を低温冷凍機を用いて90K以下の温度で計測する計画である。 量子経路干渉法を用いた量子コヒーレンス保持時間計測をGaAs以外の物質にも適用する研究を行う。具体的には,バンドギャップエネルギーがGaAsと同じく1.5eV近傍にあるWSe2(積層遷移金属カルコゲナイド物質)を対象にし,コヒーレント光学フォノンの計測と制御を通して電子コヒーレンスとフォノンコヒーレンス保持時間を調べることを計画している。 理論研究としては,量子コヒーレンスの消失過程の基本的な物理モデルを,環境との量子もつれによるとするデコヒーレンスの観点から再構築することにも取り組む。その際に,リンドブラッド型の量子マスター方程式を用いた理論計算を行う。 研究を進めるとともに,2022年度の成果である,電子コヒーレンス保持時間の定量評価の成果について,積極的に国際会議等を通して発信するとともに,その有用性についての議論を行う。
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