研究課題/領域番号 |
23K23273
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補助金の研究課題番号 |
22H02005 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分31010:原子力工学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
木野村 淳 京都大学, 複合原子力科学研究所, 教授 (90225011)
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研究分担者 |
徐 ぎゅう 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (90273531)
薮内 敦 京都大学, 複合原子力科学研究所, 助教 (90551367)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,940千円 (直接経費: 13,800千円、間接経費: 4,140千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2022年度: 13,000千円 (直接経費: 10,000千円、間接経費: 3,000千円)
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キーワード | 照射効果 / 陽電子消滅分光 / 過渡挙動 / 格子欠陥 / 動的挙動 / ポンププローブ / 点欠陥 / 過渡変化 |
研究開始時の研究の概要 |
耐照射材料の設計には照射下の点欠陥挙動のモデリングが欠かせないが、照射中に起きる短時間領域(ミリ秒からピコ秒)の現象は、現在のところ、計算科学的手法でしか調べることができない。計算結果の検証と計算過程へのフィードバックを行い、耐照射材料の開発を促進するため、本研究では、短時間領域の点欠陥挙動を直接調べることが可能なパルスイオン照射と陽電子ビームによる過渡変化測定を組み合わせたポンププローブ式の測定手法を開発する。電子直線加速器で発生するパルス状低速陽電子ビームをパルスイオン照射による損傷導入と併せることにより、計算でしか調べることができなかった短時間領域の空孔型欠陥挙動の測定を可能にする。
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研究実績の概要 |
材料中での放射線挙動を模擬するためのモンテカルロ計算コードPHITSを用いて、電子ビームによる陽電子発生過程に関する計算を行った。Wをコンバータ材料として用いて、12 MeV(低エネルギーモード)と30 MeV(高エネルギーモード)の電子線を入射したときに最も陽電子の発生量が多くなるコンバータ厚さを調べたところ、それぞれ1 mmと4 mmが最適値であった。この時モデレータ位置でのモデレータに入射する高速陽電子量はそれぞれ1.6E11、8E9 e+/sであった。モデレータ効率4.5E-5を仮定すると、30 MeVに対する低速陽電子ビーム発生量を推定すると約7E6 e+/sが得られた。モデレータ電極の多段化や高効率化により1E7 e+/s程度の低速陽電子ビームが期待される。さらに、電磁界中の荷電粒子軌道計算を行うためのSIMIONコードを用いて、リニアストレージ部での陽電子の挙動を評価した。そして、陽電子閉じ込めを行うための電極として、メッシュ電極と円筒電極を比較し、陽電子の損失を考慮すると円筒電極が優れていることが示された。 組み立てたビームラインの先端に位置する線源部に12 MeVと30 MeVのビームを用いて2回に分けて陽電子発生実験を行った。発生した陽電子はリニアストレージ終端部に設置したシンチレーション検出器を用いて検出し、オシロスコープ上で検出器の信号を観測する方法とした。12 MeVビーム照射実験では、装置の調整の不備もあり、陽電子発生を検出することができなかった。30 MeVビーム照射実験では、陽電子の発生に起因するガンマ線検出信号が検出された。さらに、LINACの駆動パルス信号と同期したストレージ信号を印加することにより、陽電子の蓄積が可能なことを確認した。実際に駆動パルスを起点として1 msまでの範囲で陽電子を放出できることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で開発する装置の要素技術については、実績のある技術であり問題はないが、時間を必要とする要素として、実験室側の準備(遮蔽壁を貫通するパイプの終端処理)、他研究機関から譲渡を受けるビームライン部品の移設があった。どちらも放射線管理に関わる手続きがあるために時間を要したが、十分準備を行った後に実施した。これらの準備を行った後は設計に従い順番に組み立てを進めた。最終的に線源部から試料室までのビームライン配管の組み立てと真空引きが可能なことを確認できた。ビームライン全体では3台のイオンポンプと1台のターボ分子ポンプを配置して真空引きする設計であったが、電子ビーム入射中は線源部の真空度が悪化するため、線源部に近い位置にターボ分子ポンプを使用する必要があることが分かった。低速陽電子ビームを発生しビームライン終端の試料室に導くこと、試料室手前に設置したパルス化電極を駆動して陽電子寿命測定が可能なことを示すことを目指したが、限られたマシンタイムの中ではこの目標には到達できなかった。 モデレータテスト装置の製作を行い、約0.5 MBqのNa-22線源から出る陽電子を用いてモデレータの性能比較ができることを示した。モデレータ材料としてGaN、SiCを用いて、試験的な測定を行った結果、先行研究に近い傾向が示された。さらにPtをモデレータ材料として調べたところ、アニールの有無で大きな変化が見られず、アニール中の真空度の影響を調べる必要があることが分かった。また、陽電子寿命測定の性能確認用に試料として、ポリイミドフィルムに加えて、イオン照射Siの準備を行った。単結晶Siに200 keVのSiイオン照射を行った。照射後の試料はKUR低速陽電子ビームシステムで陽電子寿命測定を行い、複空孔の寿命値0.30 nsにほぼ一致する測定値が得られ、標準試料として用いることが可能なことが示された。
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今後の研究の推進方策 |
ビームライン終端の試料ホルダ上に低速陽電子ビームを導いた状態でパルス化装置を作動させて陽電子寿命測定が可能なことを確認する。その際には、リニアストレージを調整して、LINAC運転時に生じる空間線量の影響を十分低減できることを確認する。またモデレータテスト装置を用いて、モデレータの熱処理条件の最適化を進める。さらに、イオンガンを試料室に取り付け、まず単独のイオン照射実験を行う。その後にイオン照射中に陽電子寿命測定を行うその場測定実験を実施する。さらに、イオンガンから出るイオンビームをLINAC及びリニアストレージと同期させ、ポンププローブ測定を可能とする。これを用いて先行研究で行った石英試料のその場測定を行い、実験結果の再現性確認と、より短時間現象の測定を行う。
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