研究課題/領域番号 |
23K23292
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補助金の研究課題番号 |
22H02024 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分32010:基礎物理化学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
若林 裕助 東北大学, 理学研究科, 教授 (40334205)
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研究分担者 |
宮崎 晃平 京都大学, 工学研究科, 准教授 (10512783)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
2025年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2024年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2022年度: 8,190千円 (直接経費: 6,300千円、間接経費: 1,890千円)
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キーワード | 酸化物触媒 / 界面構造 / 放射光 / 酸化物薄膜 |
研究開始時の研究の概要 |
触媒機能を持つ酸化物に注目し,固液界面で生じる化学反応の原子スケールでの可視化を実現する。不均一触媒の固液界面での働きはエネルギーの視点で通常は語られるが,機能が発現する段階の構造を知る事で具体的な反応機構を物理の視点で解明する。近年我々が成功した時分割界面構造計測や,世界的に進展のあるコヒーレントX線回折法を組み合わせ,物理的な議論に足る構造揺らぎの情報までを計測し,酸化物触媒の物理的・微視的理解を推進する。
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研究実績の概要 |
酸素発生触媒として高い活性が報告されている2種の酸化物,(La,Sr)CoO3とRuO2の薄膜に対する物性評価と放射光による実験を行った。RuO2に関しては,従来報告の少ない(100)表面が出た薄膜に対する計測を試みた。しかし,この試料は表面X線回折を行うには表面の平滑度が不足しており,実質的に検出可能な信号強度が得られなかった。一方(La,Sr)CoO3薄膜については,(1)物性評価の結果として,電気化学的な活性を持つ試料の厚さの条件を明らかにし,(2)表面X線回折実験の結果として,固液界面で表面X線回折信号が得られる実験条件を見出した。一方で,想定を超えて厚い試料でないと電気化学的な活性が得られないこともわかったため,過去にない解析法が要求されることもわかった。そこで,まずは(La,Sr)CoO3の厚膜に対する平均構造解析が必要であり,それをもとに膜の表面構造を解析で求める方針に転換した。 厚い膜の構造解析は,高エネルギー加速器研究機構の放射光実験施設(PF)の四軸回折計を用いた測定で実施できることを,Ni酸化物薄膜に対して今年度確認した。ただしこの手法では想定していない構造的な特徴を見落とす可能性があるため,PF BL-8Bに新たに整備された大型二次元検出器を備えた回折計で薄膜の計測ができるよう,ソフトウェア的な対応を進めている。現在,計測して得た強度分布を逆空間で可視化するところまでできており,強度の計測を従来法と同様にできるかどうか,Ni酸化物の標準試料を測定することで確認を進めている段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定では,化学反応の様子を表面X線回折の手法で計測できる試料を選定するのが初年度の予定であった。RuO2とCo酸化物の2つについて実際に放射光実験を行い,Co酸化物で充分な平滑度を持った試料が得られることが確認できた。また,Co酸化物について触媒活性の評価も行い,どの程度の厚さに試料を作る必要があるかも明らかになった。試料側の準備はここまでで充分に目標を達成している。 一方,計測側であるが,当初予定では静的な構造観測を完了する予定であったが,予想外に厚い試料を相手にする必要が出てしまったため,別の測定法・解析法が必要になることが判明した。手持ちのNi酸化物薄膜を用いてそちらの測定・解析手法開発を行い,厚い膜に対する平均構造解析手法が確立した。 また,液体中にあるCo酸化物表面からの回折信号がきちんと計測できる測定条件を確立し,23年度以降の計測で実質的な計測ができる状態になった。これは元の予定では23年度以降に行う予定であったが,水につけた段階で試料が劣化する可能性を排除するために前倒しで実施した。膜厚を増やさざるをえないという想定外の状況にあって,対策を立てて解決の見通しまで立っており,一部前倒しで進行しているため,概ね順調と判断した。 なお,前述のNi酸化物は水素吸蔵素材であり,水素の出し入れに関する動的な構造観測は本課題でターゲットとしている化学反応の動的構造観測と極めて近い測定対象である。動きの時間スケールなどの都合でこちらのほうが観測しやすい可能性もあるため,Co酸化物と並行してNi酸化物についても今後研究を継続する。
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今後の研究の推進方策 |
まずは電気化学的に活性のある,厚めの(La,Sr)CoO3膜の平均構造を解析する。それと並行して,(La,Sr)CoO3超薄膜の表面/界面構造解析を行い,厚膜の表面構造解析の初期モデルを作る。 厚膜の平均構造の測定には高エネルギー加速器研究機構の放射光施設を主に用い,膜のブラッグ反射強度を収集して構造解析を行う。ペロブスカイト酸化物膜の構造解析はあまり一般的に行われているわけではなく,面内・面直方向の格子定数の測定程度しか通常は行われないが,ここではより詳細な,CoO6八面体の傾きや,Aサイトイオンの変位なども解析に取り入れる。これを初期値として表面構造の解析を行うことになるため,膜のバルク構造解析は重要なステップである。 厚膜については固液界面での電位を制御した状況で表面回折信号を計測できている。ある散乱ベクトルQで信号を見ている状況で回折計を固定したまま,電位を変化させることで表面構造の時間発展を計測する。どのQでこの測定を行うかが問題であり,その条件を決めるため,いくつかの典型的な電位での表面回折信号測定を,広いQの範囲で計測する必要がある。 並行してNi酸化物に水素を吸蔵させた際のX線回折測定も行い,こちらの時分割測定に向けた予備測定を進める。水素を吸蔵させることで膜のブラッグ反射の強度が大幅に広がることが既に報告されており,散漫散乱の解析の要領で情報を取り出す必要がある。これは広い逆空間に対する定量的な計測と,適切なモデリングが要求されるが,まずは散乱強度分布の計測を目指す。
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