研究課題/領域番号 |
23K23293
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補助金の研究課題番号 |
22H02025 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分32010:基礎物理化学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大谷 優介 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (70618777)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
12,090千円 (直接経費: 9,300千円、間接経費: 2,790千円)
2024年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2023年度: 7,150千円 (直接経費: 5,500千円、間接経費: 1,650千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 分子結晶 / 分子動力学法 / 密度汎関数強束縛法 / 深層学習分子動力学法 / 電子励起状態 / 深層学習分子動力学手法 / 電子励起状態ダイナミクス |
研究開始時の研究の概要 |
分子結晶がもつ力学作用と光の相互変換機能は、分子の電子励起状態ダイナミクスが駆動源となり、結晶の秩序高い構造を通して発現し、複雑な多結晶構造の影響を受けながら発現するとされているが、機能発現機構の解明は手付かずの課題であった。本研究では、電子励起状態ダイナミクスのための深層学習分子動力学手法を開発し、変形・破壊の電子励起状態分子ダイナミクスがもたらす力学作用と光の相互変換機構を解明することを目的とする。光に応答して力学機能を発現(変形・破壊)するフォトメカニクスと、力学作用(変形・破壊)に応答して発光するメカノルミネッセンスを対象とし、力学作用と光の相互変換メカニズムを明らかにする。
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研究実績の概要 |
分子結晶がもつ力学作用(変形・破壊)と光の相互変換機能が新たなセンサー材料のシーズとして注目されている。この機能は、分子の電子励起状態ダイナミクスが駆動源となり、結晶の秩序高い構造を通して発現する。本研究では、電子励起状態ダイナミクスのための深層学習分子動力学(深層学習MD)手法を開発し、変形・破壊の電子励起状態分子ダイナミクスがもたらす力学作用と光の相互変換機構を解明することを目的とする。具体的には光に応答して力学機能(変形・破壊)を発現するフォトメカニクスと、力学作用(変形・破壊)に応答して発光するメカノルミネッセンスを対象とし、機能発現メカニズムを明らかにする。 本年度はまず、大規模な電子励起状態ダイナミクスを解析するための深層学習MDソフトウェアの開発に取り組んだ。深層学習MDは、深層学習を用いて分子構造から系のエネルギーを予測することで、高い精度を保ちつつ、大規模な分子動力学(MD)シミュレーションを実現する手法であり、大規模解析が必要な分子結晶の変形・破壊の解析に適した手法である。Allegroモデルに基づく深層学習ポテンシャルを実装したソフトウェアを開発し、データの作成、学習、精度の検証といった深層学習MDに必要な機能の実証を完了した。 続いて、深層学習ポテンシャルの学習に必要な電子励起状態のデータを大量に作成するための密度汎関数強束縛分子動力学(DFTB-MD)ソフトウェアの開発を行なった。第一原理分子動力学法による電子励起状態のデータ作成には膨大な計算コストを要する。そのため、本研究は第一原理分子動力学法よりも高速に計算が可能なDFTB-MD法を採用した。本年度は、独自に開発したDFTB-MDソフトウェアに電子励起状態のエネルギー勾配の計算機能を実装した。これにより電子励起状態MDシミュレーションを通して電子励起状態データの大量生成が可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は以下の計画に沿って研究を行った。(1)電子励起状態のMDシミュレーションが可能なDFTB-MDソフトウェアの開発。(2)開発するDFTB-MDを活用した電子励起状態ダイナミクスの解析。(3)大規模電子励起状態ダイナミクスのための深層学習MD法の開発。以下、それぞれの進捗について述べる。 (1)電子励起状態の解析的エネルギー勾配の計算機能を、独自に開発したDFTB-MDプログラムに実装した。また、スーパーコンピュータ上での高速な計算を実現するために、Message Passing Interface (MPI)による並列化を実施した。これにより、電子励起状態ダイナミクスのシミュレーションが可能になり、電子励起状態のデータを大量に生成することが可能になった。一方で、当初の計画以上に開発に時間を要し、後述の項目(2)、(3)の進行に遅れが生じた。 (2) 当初、項目(1)で開発するDFTB-MDソフトウェアを活用し、フォトメカニクス機構に関わる電子励起状態MD解析を行う計画であったが、項目(1)の遅れにより未着手となった。 (3) 電子基底状態に対応した深層学習MDソフトウェアの開発を完了した。深層学習MDソフトウェアは、Musaelianらによって提案された、Allegroモデルに基づく深層学習ポテンシャルを採用した。Allegroは系内の大域的な構造の情報ではなく、原子の周りの局所的な特徴のみから原子のエネルギーを予測できるため、スケーリングに優れた手法である。また、開発したソフトウェアを力学作用によって誘起される化学反応に応用し、高精度な第一原理分子動力学法と同様の結果が得られることを確認した。一方、項目(1)の進展の遅れにより、電子励起状態への拡張は未着手となった。 以上のことから、ソフトウェアの開発は確実に進展しているものの、当初の計画よりやや遅れていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は以下の方策で研究を推進する。 (1)【電子励起状態深層学習MDの開発】2023年度までに開発したDFTB-MDソフトウェアと深層学習MDソフトウェアを連携させることで、電子励起状態の深層学習MD手法を開発し、電子励起状態の大規模MDシミュレーションを実現する。基底状態と電子励起状態の双方のデータを学習・予測する最適な手法を検討し、電子励起状態ダイナミクスの鍵となる電子状態間の遷移を解析可能にする。 (2) 【フォトメカニクス機能発現メカニズムの解析】フォトメカニクスは光に応答して分子結晶が変形する現象であり、光から力学作用への変換を可能にする機能である。ここでは、同じ光源に対して、異なる変形挙動を示す分子結晶に着目する。変形挙動が異なる分子結晶に対して、電子励起状態シミュレーションを行い、電子励起状態分子ダイナミクスがどのように結晶内の応力変化に寄与するのかを明らかにし、変形挙動が異なる原因を明らかにする。これにより、フォトメカニクス材料の設計指針を明らかにする。 (3) 【メカノルミネッセンス機能発現メカニズムの解析】メカノルミネッセンスは力学作用(変形・破壊)に応答して発光する現象であり、力学作用から光への変換を可能にする機能である。ここでは、同じ分子からなる分子結晶でも結晶構造によって発光の有無が変化する分子に着目する。メカノルミネッセンスを示さない原因としては、電子励起状態と基底状態のエネルギー交差点を経由して失活する無輻射失活が考えられる。分子結晶の変形・破壊シミュレーションを行い、無輻射失活過程が起こる過程を解析し、メカノルミネッセンス材料の設計指針を明らかにする。
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