研究課題/領域番号 |
23K23304
|
補助金の研究課題番号 |
22H02036 (2022-2023)
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分32010:基礎物理化学関連
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
堀尾 琢哉 九州大学, 理学研究院, 准教授 (40443022)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
17,680千円 (直接経費: 13,600千円、間接経費: 4,080千円)
2024年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2023年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2022年度: 9,230千円 (直接経費: 7,100千円、間接経費: 2,130千円)
|
キーワード | 超原子軌道 / 金属クラスター / 光電子イメージング / 光電子放出角度分布 / 量子サイズ効果 / 光電子放出角度運否 / 化学反応動力学 |
研究開始時の研究の概要 |
バルク金属とは異なり,金属ナノクラスター(原子数100 個以下の極微小粒子)では,量子サイズ効果が顕在化します。金属クラスター中の価電子は原子軌道と類似の超原子軌道という特殊な分子軌道を形成することが理論的に示されますが,その実証例が極めて限られています。本研究では,研究代表者が独自に発案した超高効率光電子画像観測法を駆使して,この超原子軌道の可視化計測(超原子軌道イメージング)に挑戦します。サブナノメートルスケールの量子井戸に束縛された電子の振る舞いを明らかにすることは,量子論を深化させるのみならず,今後益々発展が期待される量子材料研究に資する学術的知見を創出します。
|
研究実績の概要 |
超原子金属クラスターの化学反応性や光学応答性の本質的理解へ向け,独自開発した超高効率光電子イメージング法(Horio et al., Rev. Sci. Instrum. 93, 083302 (2022))により,超原子軌道の可視化計測を行う。研究計画に従い,銀三量体負イオン(Ag3-)の光電子異方性パラメータを光電子脱離しきい値から約1.6 eVの範囲で注意深く測定した。同負イオンのHOMO(超原子1P様軌道)とHOMO-1(超原子1S様軌道)の軌道角運動量の違いが光電子異方性パラメータの運動エネルギー依存性の違いとなって明瞭に観測された。ezDysonによる異方性パラメータのシミュレーションを行い,実験結果を定性的に再現することを確認した。現在同結果を取り纏め王立化学会のPhys. Chem. Chem. Phys.に投稿を予定している。さらに異元素添加銀クラスター負イオンにも系を拡張した。銀超原子負イオンAg18-と等価電子系のAg15Sc-の光電子放出角度分布が極めて強い正の依存性を示すことを見出し,それが最外殻の超原子2S軌道からの光電子放出であることを明らかにした(Minamikawa & Nishizato et al., J. Phys. Chem. Lett. 14, 4011-4018)。続いて金属クラスターで象徴的な13原子系に焦点を当て,Ag12M-(M = V,Nb, Ta)の光電子イメージングを行い,三種とも弱い正の異方性を有する光電子リングが一つだけ観測された。これは5重縮重した超原子1D軌道からの光電子放出に他ならず,三種とも正二十面体構造を形成することを突き止めた。直ぐさま同結果を取り纏め,2024年3月13日に米国化学会のJ. Phys. Chem. Lett.に投稿し,同年4月9日掲載が受理された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
銀3量体負イオンについての結果は概ね計画通りであるが,異元素添加系金属クラスターにおいても超原子軌道が形成されたことに加え,正二十面体(Ih)構造を有する高対称性超原子金属クラスターの選択的合成に成功した。これらは当初の実施計画になかったものの,当該分野を先導する成果であることに疑いない。以上より,当初の計画以上に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き,波長可変100kHz光源を用いて銀超原子負イオンの光電子異方性パラメータの測定を行う。波長310 nm (光子エネルギー4.00 eV)まで測定可能な計測システムを既に構築しているため,後はひたすらサイズを変えて測定するのみである。光電子異方性パラメータの理論解析手法として,当初はKrylovらによって開発されたezDysonを利用する計画であった。これに加えSanovらによって提案された理論解析手法(J. Chem. Phys. 141, 124312 (2014))を新たに導入することで実験結果を多角的に評価する。後者は,Cooper-Zare公式を分子・クラスター系に拡張したものである。上記計画と並行し,光源の更なる短波長化を行う。これまでに,Yb:KGWレーザーの第四高波長257 nm(光子エネルギー = 4.82 eV)の発生を確認し,同波長による銀三量体負イオンからの光電子脱離信号の観測にも成功している。しかし,短波長化に伴い光電子加速電極から低速電子(光電効果による)が大量に発生し,良質な画像測定の障害となっている。メッシュ付きの光電子加速電極やライトバッフルの改良を行うことで低速電子の発生を抑制する。これが成功した暁には,光電子異方性パラメータの測定範囲が大幅に拡張される。さらに同光源を用いてAg12M-(M = V,Nb, Ta)の光電子イメージングを行う。既述の通り,三つのクラスター全てが正二十面体構造を形成することを見出しているが,その決め手となったのは5重縮重した超原子1D軌道からの光電子信号を捉えたことであった。次はこの257nm光源を用いて,より電子束縛エネルギーの大きな3重縮重超原子1P軌道からの光電子信号の観測に挑戦する。以上で得られた成果を専門学術誌に投稿する。
|