研究課題/領域番号 |
23K23314
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補助金の研究課題番号 |
22H02046 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分32020:機能物性化学関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
所 裕子 筑波大学, 数理物質系, 教授 (50500534)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,680千円 (直接経費: 13,600千円、間接経費: 4,080千円)
2025年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2023年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2022年度: 7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
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キーワード | 分子磁性体 / 強磁性 / 磁区 / 自発磁化 / 磁気力顕微鏡 / 磁気ドメイン |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、分子磁性体のなかでも自発磁化を示す強磁性金属錯体に着目し、その磁区に関する研究を推進する。具体的には、分子磁性体の磁区状態を磁気力顕微鏡等を用いて観察し、分子磁性体における強磁性秩序のスケールや磁壁などに関する知見を得る。また、光などの外部刺激に対する磁区の変化を観測することも計画している。例えば、光誘起磁化を発現させ、光磁気ドメインを観察することで、光磁化の発達過程の解明を行うことを予定している。これらの研究を推進し、分子磁性体における磁区エンジニアリングという新たな研究領域を先導することを目的とする。
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研究実績の概要 |
本研究では、次世代の軽量型磁性材料の候補として注目されている分子磁性体を舞台とし、そのなかでも自発磁化を示す強磁性体の磁区に着目した研究を展開している。まずは分子磁性体の磁区状態の観察を通して強磁性秩序のスケールや磁壁などの知見を得る研究を行い、次ステップでは、光磁性体において光誘起磁化を発現させ、光磁気ドメインを観察し、光磁化の発達過程の解明を行うことを目的としている。 当該年度は、分子磁性体の磁区状態の観察を行い、強磁性秩序のスケールや磁壁などの知見を得た。研究対象物質としては、電気化学的手法で合成したプルシアンブルー類似体・磁性錯体薄膜であるCrCrヘキサシアノ系金属磁性錯体(1)とFeCrCrヘキサシアノ系金属磁性錯体(2)を用いた。磁気特性を調べたところ、試料1は、分子磁性体として非常に高い磁気相転移温度(TC)=244 Kを示した。この試料においてMFMを用いて磁区観察を行ったところ、Tc以下の温度領域にて磁気ドメインを観察した。ドメインは数マイクロメートルからなるメイズパターンと呼ばれる形状であった。試料2はTc = 222 Kで自発磁化を生じ、さらなる冷却により134 Kで補償点を示し、補償点以下の温度では負の磁化を示した。この試料において磁区観察を行ったところ、試料1と同様、数マイクロメートルからなるメイズパターンと呼ばれる形状を示し、さらに、磁気ドメインの形状を保ったまま磁化の強弱が変化することで、正磁化から負磁化に磁化状態が変化する様子が観測された。観測された現象に対しモンテカルロ理論計算を行い、計算結果と実験結果を比較することで、試料の表面磁化および磁区の温度依存性について理解を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、次世代の軽量型磁性材料の候補として注目されている分子磁性体を舞台とし、そのなかでも自発磁化を示す強磁性体の磁区に着目した研究を推進している。計画では、まずは分子磁性体の磁区状態の観察を通して強磁性秩序のスケールや磁壁などの知見を得る研究を行う。次のステップとして、光誘起磁化における光磁気ドメインの観察および光磁化発達過程の解明を目的としている。 当該年度は、当初の計画通り、分子磁性体の磁区状態の観察を通して、強磁性秩序のスケールや磁壁などの知見を得る研究を進めた。実験では、磁気力顕微鏡(MFM)を用いて、電気化学的手法で合成した分子磁性薄膜材料、CrCrヘキサシアノ系金属磁性錯体(1)およびFeCrCrヘキサシアノ系金属磁性錯体(2)の表面磁化状態を観察した。その結果、磁気相転移温度以下で自発磁化を検出し、さらに、磁区状態のイメージ像を得た。磁気ドメインは数マイクロメートルからなるメイズパターンと呼ばれる形状であった。さらに試料1においては、無磁場下ではメイズパターンを示していた磁区が、磁場印加下ではストライプパターンに変化することを確認した。また、試料2におけるMFM観察でもメイズパターンと呼ばれる形状を観察するとともに、磁気ドメインの形状を保ったまま磁化の強弱が変化することで、正磁化から負磁化に磁化状態が変化する様子を観測した。また、適切な理論モデルをたててモンテカルロ計算を行い、計算結果と実験結果を比較することで、試料の表面磁化および磁区の温度依存性の理解を深めた。得られた知見を論文としてまとめ、高いレベルの国際論文誌にて公表した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針としては、光磁気ドメインの観察に注力する。110 Kまでの低温実験が可能で、かつ光照射が可能なMFM装置を使用して実験を行う。光磁性を示す分子磁性体としてこれまでに報告されている最も高い磁気相転移温度は90 Kであるが、本研究では、磁気相転移温度110 K以上の光磁化を示す新規物質を用いる(物質および現象ともに未発表)。この物質を研究対象とし、薄膜化や単結晶化を行い、MFM観察が可能な高い平滑性の表面をもつ試料を合成する。光磁化の直接観察は誰も行ったことがなく、光磁化を観測するための各種測定パラメーターなど、一つ一つ手探りで進めていくことになるが、着実に検討を進め、光磁気ドメインの観察をめざす。
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