研究課題/領域番号 |
23K23323
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補助金の研究課題番号 |
22H02055 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分32020:機能物性化学関連
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
中山 泰生 東京理科大学, 創域理工学部先端化学科, 准教授 (30451751)
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研究分担者 |
細貝 拓也 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (90613513)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,330千円 (直接経費: 14,100千円、間接経費: 4,230千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 13,910千円 (直接経費: 10,700千円、間接経費: 3,210千円)
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キーワード | エキシトン / エピタキシャル界面 / 光電子分光法 / 時間分解分光法 / 電子エネルギー損失分光法 / 有機半導体単結晶 / 角度分解光電子分光法 / 赤外吸収分光法 |
研究開始時の研究の概要 |
バンド伝導性を示す有機半導体結晶では,電子状態が個々の分子軌道の枠を超えて非局在化し,単分子への局在状態を示す一般の有機半導体に比べてキャリア輸送効率が劇的に向上する。電子状態の非局在化により,電子・正孔対からなる励起子の拡散・解離効率も局在した励起単分子より改善することが予想される。本研究では,バンド伝導性有機半導体単結晶およびヘテロエピタキシャルp-n接合の電子バンド分散・励起子エネルギー分散・励起子時間発展計測を統合的に推進し,従来型フレンケル/ワニエのいずれとも異なる『非局在フレンケル励起子』の物性究明および高秩序分子配列を活用した革新的な有機半導体光エレクトロニクス応用展開を目指す。
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研究実績の概要 |
電子状態の非局在化は半導体光エレクトロニクスの駆動効率を最大化するための必要条件である。これに対し,分子固体である有機半導体では荷電キャリアおよび励起子は個々の分子に束縛されて局在化し,有機半導体の光エレクトロニクスデバイスにおいて動作効率を制約する要因となっている。一方で,分子を高秩序に整列させた単結晶試料では複数の分子に非局在化した電子状態(電子バンド)を生じる有機半導体も存在する。しかし,こうしたバンド伝導性有機半導体結晶における励起子の性質は十分に検討されていない。本研究は,エピタキシャル成長によるバンド伝導性有機p-n接合の自発形成と,そこに非局在化するキャリア・励起子の統一的な物性解明を目的とするものである。 2023年度には,窒素置換グローブボックス内に真空蒸着装置が組み入れられた専用装置の立ち上げが完了し,不純物生成の抑制された高純度界面の調製が可能となった。作製した試料に対し,シンクロトロン放射光施設(SPring-8)において高分解能表面X線回折法による精密な構造決定を行うことで,多様な有機半導体材料の組み合わせにおいて高秩序な分子配列を有するエピタキシャルp-n接合が形成されることを実際に見出している[論文3,4など]。並行して,結晶有機半導体材料やエピタキシャル接合試料を対象とした角度分解光電子分光実験による電子バンド分散の測定実験も,別のシンクロトロン放射光施設(分子科学研究所UVSOR)において実施した。さらに,励起子の非輻射失活の要因となる分子振動を結晶有機半導体材料において検証する試みにおいても成果が得られている[論文1]。一方,研究分担者(細貝)機関においては,開発した高感度迅速時間分解発光分光装置により新たな熱活性化遅延蛍光材料の発光特性評価を進めるほか[論文2],機械学習の活用により材料の励起子物性を解明する研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度には,予定していた窒素置換グローブボックス内に組み入れられた真空蒸着装置の立ち上げが完了し,試料への大気曝露に起因する酸化不純物の生成を抑制した高純度な界面試料を調製することが可能となった。その結果として,当該年度中に有機半導体のエピタキシャルp-n接合界面の生成に関する2報の原著論文を発表し,さらにその内の1報は出版社側から”Spotlight Article”に選定されるなど,順調に成果が蓄積されている。高秩序接合試料に関する電子バンド分散計測には現時点ではまだ成功に至っていないが,結晶有機半導体試料に関する振動分光実験の結果については原著論文1報を報告し,また海外共同研究先(ドイツ ユーリヒ研究所)との角度分解電子エネルギー損失分光法の共同研究成果についても原著論文1報を投稿予定である。研究分担者機関においては,分子結晶材料の励起子特性計測に適した角度分解吸収分光計測装置の開発が完了し,現時点では溶液中の有機半導体分子を対象としたものではあるが,励起子時間発展に関する研究成果も得られている。以上を総合的に考慮し,現在までの進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題に対して理想的な試料は,目的の有機半導体分子のみが乱れなく整列している単結晶あるいはヘテロエピタキシャルp-n接合試料であり,結晶化条件の最適化による構造欠陥の最小化が求められる。不純物生成の抑制された高純度界面の調製を可能にする専用装置の立ち上げが完了したため,これを用いて結晶性を最大化した高秩序p-n接合試料の作製を進める。これらの結晶性を定量的に精密評価できる高分解能表面X線回折実験課題がSPring-8にて2024年度前期に採択されており,年度後期以降も引き続き実験課題申請を行っていく。有機半導体単結晶およびヘテロエピタキシャルp-n接合における電子状態の非局在化の実証についても,シンクロトロン放射光施設(高エネルギー加速器研究機構フォトンファクトリー・分子科学研究所UVSOR)へ課題申請を行っている。海外共同研究先(ドイツ ユーリヒ研究所)との角度分解電子エネルギー損失分光法の共同研究により励起状態の非局在化の実証実験についても,2024年度後期以降に実施する方向で準備を進めている。 一方,非局在フレンケル励起子の生成から電荷移動励起子の形成と解離あるいは再結合に至る時間発展の追跡も重要な課題である。研究分担者機関で開発した高感度迅速時間分解発光分光の単結晶有機半導体p-n接合試料への適用も試みたい。これにより,接合構造がよく規定された有機半導体分子間での励起子生成からp-n接合での電荷移動,さらに正負キャリアへと解離する時間発展の追跡が可能となる。非局在フレンケル励起子と通常の局在励起子とで遷移エネルギーや時定数にどのような差が生じるのか,ひいては励起子の非局在化がどのプロセスでどの程度キャリア生成効率を向上させるのか,実測結果に基づいて解明することを引き続き目指していく。
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