研究課題/領域番号 |
23K23338
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補助金の研究課題番号 |
22H02070 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分33020:有機合成化学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
浦口 大輔 北海道大学, 触媒科学研究所, 教授 (70426328)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
2024年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2023年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2022年度: 7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
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キーワード | 有機触媒 / イオン対 / ラジカル / 反応制御 / 光反応 / 有機分子触媒 / 光触媒 / イオン |
研究開始時の研究の概要 |
電荷をもたないラジカル種の制御は合成化学における未解決の課題である。実際、既存の立体選択的ラジカル反応の多くはラジカル受容体側の認識・活性化に基づくものに分類され、ラジカルそのものを制御した例は極めて限られている。本研究では、光励起可能な置換基をもつ配位飽和典型元素カチオンを創製しその構造に内在する触媒機能を引き出すことで、ラジカル-ラジカル相互作用を活用した新たなラジカル種制御法の開発を基盤として高選択的分子変換プロセスを実現する。
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研究実績の概要 |
昨年度までに、中心元素としてケイ素およびホウ素をもつ分子を複数合成し、それぞれの基本的な物性情報の収集を完了したことを踏まえ、①触媒構造ライブラリの拡充と②合成済みの分子を触媒とする分子変換の開発を進めた。 ①シリリウムイオンに構造堅牢性を付与するために必要な配位子構造を明らかにし、一価二座型配位子を基盤とした一連のシリリウム塩を合成した。また、対イオンの構造によってカチオン部の光物性が変化することを発見し、本研究で想定するイオン対形成をトリガーとする分子変換の実現可能性に裏付けを与える基礎的知見を得た。一方、ボレニウム塩に関しては、メチレンビピリジル類縁体を配位子とした分子群を合成し、それらの光物性を整理すると共に反応開発へと展開した。また、分子認識部位をもつボレニウムイオンを設計し、実際に合成に取り組んだ。さらに、非対称型の配位子を用いることでキラルなボレニウムイオンを得ることに成功したが、本分子は高速液体クロマトグラフィーによる光学分割に適さないことが判明したため、別法によるエナンチオマーの分離を検討した。 ②上記で合成したボレニウム塩を光触媒とする反応の探索において、既存反応系とは位置選択性の異なる新たな反応系を見出した。反応機構の詳細は未だ明らかではないが、イオン型の反応系や一般的な光酸化還元機構では説明し難い経路で反応が進んでいると見られるため、実験化学的機構解析に先立って計算科学的なアプローチから解析を開始した。シリリウム塩の触媒利用に関しては、アニオンの構造による光物性を変化を利用した反応系の構築を検討した。過去の知見が全くない試みであるため、非可逆的に有機アニオンと塩形成する条件下での検証が必要となったが、実際に触媒機能を評価する基盤は構築できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記研究実績の概要でも述べたように、想定通りにシリリウム塩およびボレニウム塩の構造ライブラリを着実に充実させてきたことに加え、これらを触媒とする反応開発を進めることができている。初年度に課題となっていた、カチオンに構造堅牢性を付与するために必要な配位子構造への理解が進んだことは今後の研究を速やかに進めるために重要である。また、合成したシリリウム塩の物性評価の過程で、イオン間相互作用に起因する光物性の変化を示唆する知見を得たことは、本研究が目指すラジカル種の制御の実現可能性を担保するものとして特筆できる。今後、アニオンの物性とカチオンの光物性の相関について学理を構築できれば、合成化学の枠を超えた成果へとつながり得ると期待される。 反応開発への試みにおいては、特に本触媒が特異的に促進する光反応系を見出したことが、研究の着実な進展状況を明確に表す成果といえる。現状では反応機構は不明ではあるが、これはすなわち、想定を超える触媒機能が発現したことを示唆する結果と言い換えることもできる。一方で、立体選択的な反応への展開はやや遅れており、キラルな触媒の光学分割を検討する段階にとどまっている。カチオン性分子の構造安定性への配慮が必要なため、これまでは配位子としてキラルなものを利用することが難しかった点に問題があったが、今年度得られたカチオンの安定性と配位子構造の関係についての情報を利用することで、次年度はキラルなカチオンの創出が可能になると想定している。
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今後の研究の推進方策 |
現状の研究の進捗がおおむね想定通りであることから、基本的にこれまでと同様の体制で進める。 既に構築したシリリウム塩およびボレニウム塩の構造ライブラリに基づき、①新たな骨格をもつカチオンならびにキラルな触媒群の創出、②合成済みの分子を触媒とする分子変換の開発を進める。なお、それぞれモデル反応系での触媒挙動が思わしくない場合は、分子構造の設計に知見をフィードバックすることで、新たな置換基の導入による抜本的な解決につなげることを想定している。 ①光物性とキラリティを別の配位子が担う、非対称型のカチオン分子の設計・合成に着手する。例えば、ビピリジンと一電子供与体となるキラル置換基をもつスピロ型ボレニウムイオンを創製する。また、これまでの検討過程で明らかになった知見に基づき、三座配位子をもつシリリウムイオンの合成を達成する。これらに並行して、配位子外周部への置換基導入を試み、カチオンの励起寿命および酸化還元電位の調節、基質認識能の付与を実現する。ここで合成した分子についてはそれぞれ、置換基の導入に伴う物性の変化について系統的に情報収集する。 ②合成した光活性なカチオンと様々な有機アニオンとの塩を調製し、分光学的に解析することで、励起状態におけるイオン対の振る舞いについての理解を深める。また、電荷移動錯体やエキシマ―・エキシプレックスの形成など光物性に影響を与える挙動を示したイオン対を系内で触媒的に発生させ得る反応系を設計し、新規反応の開発および選択性の触媒制御の実現へとつなげる。
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