研究課題/領域番号 |
23K23398
|
補助金の研究課題番号 |
22H02130 (2022-2023)
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分35010:高分子化学関連
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
権 正行 京都大学, 地球環境学堂, 助教 (90776618)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2024年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2023年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2022年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
|
キーワード | 高分子合成 / 超原子価 / 共役系高分子 / 動的結合 / ヘテロ元素 |
研究開始時の研究の概要 |
申請者は最近、超原子価結合とπ電子系が共役し、最高占有軌道エネルギーの上昇と最低空軌道エネルギーの下降を同時に起こす新しい電子物性制御機構を発見した。本研究では、超原子価結合における配位数の可逆的変化(動的超原子価結合)がπ共役系の光学物性とリアルタイムに連動することに着目し、共役系高分子の主鎖共役に組み込むことで得られる刺激応答性材料の理論的設計手法を確立する。具体的には、安定性の高い超原子価Sn・Ge・Bi錯体を基軸に、配位分子の導入による光・電子物性変化を調査し、発光への情報変換を図る。さらに、動的超原子価結合に関連する結合力や光物性を理論的に予測可能であることを証明する。
|
研究実績の概要 |
本年度の研究では、まず結合力を理論的に予測する手法の確立を行った。超原子価ビスマス化合物の合成に新たに成功したため、以前から合成されていた超原子価スズ化合物とルイス酸性を比較した。その結果、超原子価ビスマス化合物の方がルイス酸性が強いという実験結果を得たため、理論的考察を行うことで定量的に評価かつ予測可能なパラメータの算出を行った。加えて、加えて超原子価ゲルマニウム化合物の合成にも成功した。ビスマス化合物やスズ化合物と異なり、ゲルマニウム化合物は水に対して感度が良く、分解挙動を示すことが分かった。一方で、共役系高分子化することで化合物の水に対する安定性が増し、高効率近赤外発光材料として応用可能であることを明らかにした。 超原子価スズ化合物を含む共役系高分子を合成し、薄膜を作製し求核剤に曝露することで5配位→6配位化に起因する刺激応答性を確認した。その結果、高分子においてもジメチルスルホキシドなどの求核剤で色変化を示す傾向を確認した。薄膜では、スズ上の置換基がメチル基では応答せず、フェニル基では応答する挙動を確認できた。スズ上の置換基がフェニル基の方がスズ原子の結合力が高く、置換基の選択が重要であるという結果を得た。これらの結果は、共役系高分子を用いた刺激応答性の薄膜を設計・作製する際に重要な知見であり、ヘテロ元素を起点とした様々な化学物質への応答性が期待できる。 以上、本年度の研究では元素に依存した動的超原子価結合の評価を行い、その中でも最も高分子への応用が容易であったスズ化合物について、刺激応答性薄膜を得る際に重要な基本的情報を収集することに努めた。本結果が、元素の性質を利用した新材料の開発につながることを期待する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1.配位力・結合力の理論予測方法の確立 超原子価スズ化合物と超原子価ビスマス化合物を合成し、ルイス酸性を評価した。その結果、ジメチルスルホキシドの配位について超原子価ビスマス化合物の方が結合力が強い(ルイス酸性が強い)という結果を得た。この実験結果を理論的に検証するために、立体障害を無視できるフッ素イオン親和性というパラメータを計算した。その結果、フッ素イオン親和性はスズとビスマスでそれほど大きく変化がないものの、ビスマス周りの空間が広いため、実効的なルイス酸性が高まっているという結果を得た。このルイス酸性の評価方法は実験的な配位力・結合力を予測する方法として役立つと期待できる。 2. 材料にかかる負荷の高感度可視化 超原子価スズ化合物を主鎖に有するポリウレタンを合成し、力学的刺激による光吸収・発光色の変化を検証した。配位性溶媒を加えた場合に色変化は観測されるが、二官能性の基質を加えてもネットワーク化が進行せず、材料化が困難であるという結果を得た。これは、そもそもの超原子価スズ化合物と配位性基質の結合力が弱いためであると考えられる。一方、ジアミンやフェナントロリンといった窒素含有二座配位子を用いたキレート効果を利用することで、結合力を100~10000倍に向上させられるという結果が見られたため、今後、ネットワーク材料の合成に取り組む予定である。 以上、課題は見られるが解決策につながる新しい発見も多く、全体的に予想以上の進捗が得られていると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
1.配位力・結合力の理論予測方法の確立 キレート効果を利用することで結合力を100~10000倍に高められるという結果について、理論的検証をさらに進める。理論計算から最適化されて得られる分子モデルについて、各種結合距離を数値化し、相関関係にあるパラメータの算出を試みる。以前の方法では、スズと配位子間の結合距離が有効なパラメータであったが、これは配位子を変えた場合にその相関関係が見られなくなっていた。本年度では配位子を変えても相関関係が得られるパラメータとして、主にアゾベンゼンの窒素とスズ間の結合距離に着目し、実験結果と照らし合わる予定である。 2.材料にかかる負荷の高感度可視化 ネットワーク化を進行させるためには結合力を高める必要があることが示唆される。キレート効果を利用した結合力の強化によってこの問題を解決できると期待している。そのため、二座配位子を分子内に二か所有するリンカーを新たに合成し、超原子価スズ化合物を含む高分子との相互作用について検証を行う。ネットワーク化の進行に有効な結合力やリンカーの長さやリンカー分子の柔らかさについて知見を集める。 3.材質の認識と表面修飾 金属酸化物に対して超原子価化合物を添加することで表面修飾を行う。活性アルミナを用いた際に最も吸着性が良いという結果が得られているが、その原因の解明がまだ行えていない。活性アルミナへの超原子価スズ化合物の吸着に対して、X線光電子分光法(XPS)を用いてスズが実際に反応しているかどうかを確認する。その後、色変化や吸着量を経時的に追跡し、溶媒洗浄による不可逆性も確認する。動的超原子価結合を用いたマイルドな吸着方法がもたらす優位性を明確にする。
|