研究課題/領域番号 |
23K23412
|
補助金の研究課題番号 |
22H02144 (2022-2023)
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分35020:高分子材料関連
|
研究機関 | 一般財団法人生産開発科学研究所 |
研究代表者 |
池田 裕子 一般財団法人生産開発科学研究所, その他部局等, 研究員 (10202904)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
17,290千円 (直接経費: 13,300千円、間接経費: 3,990千円)
2026年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2025年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2024年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2023年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
|
キーワード | ゴム科学 / 加硫 / 網目構造 / 力学物性 / 新学理 / 均一網目 / 不均一網目 / 伸長結晶化 / 自由体積 / 網目制御 / 物性制御 |
研究開始時の研究の概要 |
ゴム材料にとって最も重要な「加硫」に関して新たなゴム科学の学理を構築する。つまり、加硫試薬が三次網目形成だけでなく、ゴム網目の不均一構造を制御する働きがあることに基づいて「加硫による網目制御と物性制御の確立」に挑戦する。そして、1970年代に成熟して技術のプラトー領域に入り、その後大きな技術革新が生まれなかった加硫技術のパラダイムシフトに有用な知見を得る。成果は地球環境維持に役立つ材料科学の進歩につながると期待される。
|
研究実績の概要 |
硫黄で架橋した均一性の高いゴム網目を試料としてその配向ダイナミクスと力学物性の支配因子を明らかにするために、シンクロトロン放射光による時分割広角X線回折/引張試験同時測定で得られたデータ解析を行った。具体的には、ステアリン酸亜鉛を活性化剤として作製した網目均一性の高い硫黄架橋イソプレンゴムに関して、結晶指標と配向したアモルファス指標と相対的結晶サイズ、結晶の数、配向度を定量分析し、配向挙動と伸長結晶化ダイナミクスを網目構造と相関させて探究した。次に、伸長結晶化と同時に測定した一軸引張試験の結果を解析して引張物性の評価を行い、さらに、ヒステリシス試験とマリンス効果測定と動的粘弾性試験を行って、網目均一性の高い硫黄架橋イソプレンゴムの力学物性を総合的に評価した。網目構造についてはナノメカニカルマッピング測定による原子間力顕微鏡観察と二重量子核磁気共鳴法時間領域核磁気共鳴測定の結果を詳細に解析した。各々の解析データを総合的に考察し、ナノスケールの構造変化からマクロな力学特性の支配因子の解明に向けて研究を進めた。 なお、本研究に必須の「加硫の均一網目形成機構」に関して実験と理論計算により詳細に探究を行い、酸化亜鉛とステアリン酸から生成する新規反応中間体である複核ブリッジ型二配座亜鉛/ステアレート錯体へのジエン系ゴムからの電子移動効果と分散効果が、見事に加硫の反応機構を活性化していることを突き止めた。そして、これまで発信してきた加硫の二相不均一網目構造形成で網目ドメインの連続相形成が高性能ゴム材料製造に極めて重要であることも発表した。また、硫黄架橋イソプレンゴムの不均一網目構造評価のために元素識別電子顕微鏡観察も行った。さらに、本加硫ゴムの比較試料パーオキサイド架橋イソプレンゴムの自由体積に関する新知見や、バイオマスフィラー添加系架橋ゴムの伸長結晶化挙動についても論文発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度計画にそって、ステアリン酸亜鉛を活性化剤として硫黄架橋したイソプレンゴムに関して、均一性の高いゴム網目の配向ダイナミクスと力学物性の相関を探究するための測定データ分析が終了し、結論に向けて考察を深化している段階にあるから。つまり、ナノオーダの構造変化の評価に必要な伸長に伴う結晶指標、配向したアモルファス指標、相対的結晶サイズや結晶の数、配向度の変化を明らかにしたこと、かつ、伸長結晶化挙動と同時にin situ測定した一軸引張物性とヒステリシス特性とマリンス効果、動的粘弾性特性などマクロな力学物性の評価が終了したこと、そして、それらの結果を原子間力顕微鏡観察と二重量子核磁気共鳴法時間領域核磁気共鳴測定により評価した均一性の高い網目構造と相関させて探究することができたから。 さらに、これまでゴム科学の分野で先人が仮定してきたジエン系ゴム分子から亜鉛元素への電子効果による加硫の活性化に関して、そのメカニズムを理論計算と実験結果との一致から世界で初めて実証することができたから。また、二相不均一ゴム網目構造で酸化亜鉛周りに形成される連続網目ドメイン相が及ぼす力学物性向上効果を発見し、論文発表できたから。そして、加硫ゴムの比較試料と位置付けたパーオサイド架橋イソプレンゴムの自由体積に関する研究で、網目鎖密度に寄らず、同じ大きさの自由体積が存在すると言う知見を世界に先駆けて論文発表できたから。 このように、ほぼ計画通りのデータ収集が完了し、ゴールに向けて研究を進めている段階にあり、また、予想外の研究成果も得られたことから(2)と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
均一性の高いイソプレンゴム網目の配向ダイナミクスと力学物性の支配因子の解明に向けて考察を深化させる。つまり、解析を終了したシンクロトロン放射光による時分割広角X線回折/引張試験同時測定結果と繰り返し引張試験、動的粘弾性試験のマクロな力学特性を基にしてゴム弾性理論との比較により、ゴム材料の高強度化に及ぼす均一性の高い網目の作用機構を解明する。特に、ナノスケールの構造変化からマクロな引張特性の支配因子が抽出できるかどうかに関しては、原子間力顕微鏡と時間領域核磁気共鳴分析により評価した架橋点間分子量の分布の影響も考慮して探究する。ここで、ゴム網目構造と物性の相関をゴム弾性理論に基づいて明らかにする。 さらに、不均一ゴム網目の配向ダイナミクスと力学物性の支配因子の解明への第一ステップとして、架橋ゴムの網目不均一性の評価を原子間力顕微鏡によるヤングモジュラスマッピング測定と時間領域核磁気共鳴分析等により行う。後者については先ずは評価方法の確立から行う。そして、マクロな力学特性を、繰り返し引張試験、動的粘弾性試験、応力緩和試験等により測定する。また、不均一ゴム網目を有する架橋ゴム試料のシンクロトロン放射光による時分割広角X線回折/引張試験同時測定結果の解析も進行させる。 なお、本基礎研究は非ゴム成分を含まないイソプレンゴムを使用して展開しているが、最終的には、本研究成果を合成ゴムでは代替え不可能な「天然ゴム」へ応用展開することが必要であり、今後、研究進捗状況が良好であることを踏まえた上で「天然ゴム」探究へと挑戦を開始する。
|