研究課題/領域番号 |
23K23422
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補助金の研究課題番号 |
22H02154 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分35030:有機機能材料関連
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
小林 範久 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (50195799)
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研究分担者 |
中村 一希 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (00554320)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,810千円 (直接経費: 13,700千円、間接経費: 4,110千円)
2024年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2023年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2022年度: 11,440千円 (直接経費: 8,800千円、間接経費: 2,640千円)
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キーワード | 電気化学素子 / エレクトロクロミズム / 金属電解析出精密制御 / プラズモン共鳴 / カラー反射型ディスプレイ |
研究開始時の研究の概要 |
エレクトロクロミック(EC)素子は環境調和型デバイスとしてその応用展開が急速に進展し,注目を集めている。本研究では銀電解析出型EC素子において, 析出銀単一ナノ粒子光学特性と析出粒子形態の実験的な相関結果に, 理論計算を用いた包括的プラズモニックナノ粒子解析法を加え, 銀ナノ粒子の可逆的精密任意形態制御論を確立, 銀電解析出デバイスを今まで以上に深化させた省エネ型フルカラー表示・調光・光学素子の開発を目的としている。
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研究実績の概要 |
エレクトロクロミック(EC)現象を利用したデバイスは,表示・調光素子等の環境調和型デバイスとして応用展開が期待されている.本研究では包括的プラズモニックナノ粒子解析法を主軸に,種々の電解析出条件精査により,銀ナノ粒子の可逆的精密任意形態制御論を確立,銀電解析出型ECデバイスを深化させた革新的省エネ型フルカラー光学素子の開発を目的としている. 令和5年度においては1)添加材等の電解条件最適化による形態制御法の飛躍的発展,2)電析銀ナノ粒子のLSPR色純度改善を主要な目的とした.具体的方法として,電解析出した銀ナノ粒子の析出形態制御の可能性を期待し,研究計画調書記載のポリビニルピロリドン(PVP)をEC電解液に導入した.その結果,PVP分子が電析した銀ナノ粒子全体を被覆,粒子同士の融着が防がれ,個々の球形を維持した析出形態に変化した.従来,粒子のランダムな融着はLSPR帯のブロード化を引き起こし色純度が低下する原因であったが,PVP分子キャッピングされた銀ナノ粒子は,シャープなLSPR帯による鮮やかな発色を示した.従来の二極EC素子の課題であるメモリ性能も,PVP導入により銀ナノ粒子と銅イオンとの接触が防げられ,繰返し特性に無影響で発色保持時間を40倍以上に向上させた. 加えて,電解条件による銀粒子析出形態を評価するため,印加電位と銀イオン濃度の二つの観点から電析銀ナノ粒子の形態解析を行った.銀還元の過電位制御により電極上と既析出の銀上における還元反応の確率密度が変化,銀層の平滑性に影響することを解明した.また,銀イオン濃度の最適化を達成,素子反射率が90%近くまで上昇した高反射率の鏡状態素子の作製に成功した. これらの結果は,今後の研究計画におけるデバイス化に非常に有効な結果であり,未来のディスプレイや調光素子における省エネルギー化の可能性を広げるものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度の達成目標として,1)EC素子中の粒子形状・粒径・集合状態と光学特性の理論的,実験的相関明確化,2)添加材及び電解質組成効果,電極修飾など諸条件の最適化によるナノ粒子形態精密任意制御方法論の発展を挙げた. 結果として, 1について,前年度に達成した暗視野顕微鏡法を用いた測定技術を応用することで,EC素子駆動中に析出・溶解する銀ナノ粒子のLSPR光学状態のその場観察が可能となった.この実験的評価に加え,本計画で導入した電磁場解析ソフトを用いた時間領域差分法(FDTD法)に基づくシミュレーション解析を実施した.それにより,得られたLSPR光学情報とFE-SEMで得られた析出形態情報をFDTD解析が理論的な仲立ちをしたことで,更なる理論・実験的包括プラズモニック解析法の実証に成功した.また,このシミュレーション法の理論的正当性が担保されたことで,従来得られていなかった赤色発色に必要な析出形態の逆算が可能となり,2)のナノ粒子形態制御に流用可能な評価方法を明確化した. 2に関して,化学合成法にて銀ナノ粒子への保護効果が示されている高分子(PVP)をEC電解液に導入した.従来,EC素子の発色制御は析出電圧の印加により行われたが,PVPの粒子保護効果により,酸化電圧印加による銀ナノ粒子の溶解が緩やかになったため,粒子溶解時における形態制御が可能とした.その結果,黄色発色の色純度の大幅な向上に加え,新奇発色として赤色発色の発現に成功した.更に,印加電位や銀イオン濃度による銀ナノ粒子の形態制御の可能性も検討し,本EC素子の基本的な光学状態である鏡状態の反射を高める平滑性の制御方法論を見出した.また,銀粒子の析出領域の制限を目的として作用極上にシリカ逆オパール(IO)層を構築した結果,IO間隙中に粒子の析出を制限することに成功し,新奇析出銀粒子形態制御法としての可能性を見出した.
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今後の研究の推進方策 |
これまで研究計画通り順調な成果が得られており,今後の研究推進方策も当初の計画通りで変更はない.しかしながら,目標とする高色純度を有する減法混色CMY,加法混色RGBの各8段階表現可能な革新的フルカラープラズモン共鳴帯精密任意制御型EC素子の実現と実用化を念頭に置いた場合,未だ課題は多い.当初の目的を達成するため,以下に示す項目について令和6年度も引き続き検討を進める. 1)本研究の発展的課題である電解析出銀ナノ粒子の高異方性化によるLSPR帯制御を実現する.未だ,既報の添加物や電解条件では,プレートやロッドといった異方性形態の銀ナノ粒子は得られていない.しかし,令和5年度中において,電気化学的に安定性に長け,かつ電析した銀ナノ粒子において,特定の結晶面の成長を飛躍的に促進させる粒子保護材を発見した.令和6年度は,新規保護材について検討を進め,FDTD計算を活用しつつ,異方性形態制御可能な銀ナノ粒子をEC素子中で発現,色純度の大幅な向上と階調表現の手法を明示する. 2)これまで得られたプラズモン粒子の実験的・理論的包括評価法と,添加材をはじめとする電解条件精査による銀ナノ粒子析出形態制御論の知見を基に,無彩色・有彩色フルカラー階調表示可能な二極銀析出型プラズモニックEC素子の構築を目指す.これまでの電解条件知見を集積化,様々なパターンにおける銀ナノ粒子の析出形態を総体的・体系的に評価する.さらに実際のデバイス駆動法の検討も行う.セグメント等エリア分割,単純マトリクスで駆動することで,高解像度のマルチカラー光学素子を実現する.ファッション性の高い加飾ロゴや複雑な模様・文字の表示・調光も可能で,本EC素子の特徴の金属電着系プラズモン共鳴帯制御を広義に展開,紫外・赤外波長を含めた広波長域に渡る調光など,光学的機能性を多面的に制御可能な高機能省エネルギー光学素子の可能性を模索する.
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