研究課題/領域番号 |
23K23427
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補助金の研究課題番号 |
22H02159 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分35030:有機機能材料関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
谷 洋介 大阪大学, 大学院理学研究科, 助教 (00769383)
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研究分担者 |
宮田 潔志 九州大学, 理学研究院, 准教授 (80808056)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,810千円 (直接経費: 13,700千円、間接経費: 4,110千円)
2024年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2022年度: 11,310千円 (直接経費: 8,700千円、間接経費: 2,610千円)
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キーワード | りん光 / 分子液体 / 立体配座 / 相転移 / 刺激応答性 |
研究開始時の研究の概要 |
液体は、固体と異なり流動性をもつ凝縮系である。有機分子には立体的なかたち=配座という自由度があることに注目すると、液体は、多数の配座が混在し動的に変化する「多配座ダイナミクス」を許容しうる特異な凝縮系と言え、固体では実現できない未踏機能が眠ると期待される。本研究では、独自の柔軟な機能骨格「チエニルジケトン」を基盤とし、巨視的物性、分子配座、光機能が多配座ダイナミクスによって連動する、革新的な有機りん光液体を開発する。
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研究実績の概要 |
本研究が目指す動的機能性分子液体の科学の基礎を築くためには、分子構造・液体の熱物性および粘弾性・光機能の相関を明らかにすることが重要である。そこで2022年度は、実施計画に従って、チエニルジケトン誘導体を系統的に合成し、各種基礎物性を評価した。その結果、熱物性および粘弾性を分子構造によって制御する指針を得ることができた。 具体的には、分子に導入するアルキル置換基の鎖長や置換様式を系統的に変えることで、室温で熱力学的に安定な液体から速度論的安定性が低い過冷却液体まで、幅広い熱物性が実現できることを明らかにした。また、合成したうち複数の分子については、液体状態の動的粘弾性をレオメーターで測定し、マスターカーブを作成した。その結果、室温付近の粘度を一桁程度の幅で制御する指針を得ることにも成功した。これらの成果の一部は複数の学会で発表しており、国際誌への投稿準備中である。 一方、前年度に報告した室温で過冷却液体を形成する非対称ジケトンについて、その結晶が光刺激によって液体化することを見出した。さらにこの光融解現象では、融解に至る過程で発光挙動が段階的に変化した。より具体的には、初めは緑に弱く光るもののすぐに消え、やがて黄色に強く発光し始め、その後融解することを見出した。これは、発光色と強度の変化を伴う世界で初めての光融解現象である。単結晶X線構造解析、量子化学計算、発光挙動の経時変化の解析などから、光励起状態における2種類の配座変化を伴う自己触媒的な融解メカニズムを明らかにした。また、光で融解する結晶としても、これまで知られていたアゾベンゼン誘導体を基盤とする物質群とはまったく異なるケミカルスペースを示すことに成功した。これらの成果は複数の学会で発表したほか、Chemical Science誌に投稿し、当該年度を越えたのちに受理され公開された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
チエニルジケトン誘導体のライブラリ構築の指針として当初計画していた3つの合成戦略のうち、置換基の変更だけで熱物性および粘弾性が大きく制御できることを見出すなど、上記のように多くの進展がみられた。さらに刺激応答機能としても、以前まで一部のチエニルジケトン誘導体について明らかにしてきた機械刺激への応答ではなく、光という時空間分解能に優れた外部刺激への応答を達成し、さらにその応答メカニズムを解明することに成功した。計画当初は結晶が液体になる相転移をトリガーとした物性変調を予想していたが、実際に相転移を誘起することに成功しただけでなく、相転移の前駆段階においてりん光特性が変化することを見出した。これは、一般的には静的と考えられることの多い結晶中でも分子配座が動的に変化することを示している。また、発光特性の変化として応答させることができたため、従来は検知することの難しい結晶状態でのごく少数の分子の配座変化を可視化することができた。 このように、動的機能性分子液体の科学を確立するための基盤の構築が順調に進行したことに加え、従来は静的と捉えられることの多い結晶状態にまで研究対象が拡張されたことから、本研究が当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、基盤骨格のりん光特性をより詳細に明らかにすると同時に、さらなる応用展開を検討する。特に、「非対称化」「同形結晶」を鍵とした新規結晶性材料の開発を重点的に検討する。一方、研究対象のジケトンは極めて優れたりん光特性をもつことがわかってきており、当初計画に縛られずりん光材料としての可能性を広く追究する。 当初計画通り、バルクの粘弾性特性に連動したりん光機能の開拓を試みる。まず、前年度の知見をもとに、異なる合成戦略のもとでチエニルジケトン誘導体のライブラリを拡大する。これによって、粘弾性やその温度依存性、励起状態における配座変化の活性化障壁などが大きく異なるジケトン誘導体を開発する。その発光特性を詳細に評価することで、多重りん光や励起波長に依存したりん光挙動を実現するとともに、粘弾性や温度に対して発光挙動がレシオメトリックに応答するりん光センサーの実現を狙う。
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