研究課題
基盤研究(B)
本研究は、温帯から熱帯の水田土壌における有機物蓄積機構を、広域土壌調査と土壌有機物の分画や各種化学分析・14C年代測定などの先進的な精密理化学分析を組合わせて包括的に理解することを目的とする。すなわち、温帯・熱帯という気候要因と火山の影響の有無という地質要因で規定される4つの生態環境下における水田土壌について、1) 安定化機構に応じて土壌有機物を分解性の異なる4画分に分け、その存在量や平均滞留時間などを定量評価するとともに、2)それらと気候・土壌特性・施肥管理法との関係解析から蓄積機構の規定要因を解析し、さらに、3)肥沃度と炭素貯留機能をともに高める有機物蓄積手法を生態環境ごとに構築する
本研究は、温帯から熱帯の水田土壌における有機物蓄積機構を、海外での広域土壌調査と土壌有機物の分画や各種化学分析・14C年代測定などの先進的な精密理化学分析とを組合わせることで、包括的に理解することを目的とする。2023年度は、水田土壌の現地調査を温帯から亜寒帯気候に属する韓国で実施し、広域で水田表層土壌を30点、32点採取した。また、これら試料の全炭素を測定するとともに、試料を53μmで粒径分画後、粗粒画分を比重分画により軽比重画分 (LF) と重比重画分 (HF) に、細粒画分を次亜塩素酸処理によりNaClO易分解性画分 (OxF) とNaClO難分解性画分 (NOxF) に4分画し、乾式燃焼法により各画分の蓄積炭素量を定量し、一部試料についてデルタ14C値を測定した。さらに、画分別炭素量と気候因子、土壌特性値との関係解析を行った。その結果、韓国の全炭素量の平均値は16.5 (gC/kg) となり、すでに測定済みの日本 (27.0)やマレーシア (26.2)、ネパール(17.0)よりやや低かったが、台湾(12.5)よりは高かった。画分別では、細粒画分のOxF, NOxFが全炭素の約7割を占めた。画分別デルタ14Cの平均値はOxF, HF > NOxFの順となった。画分別炭素量と気候因子や土壌特性値との関係解析より、OxF, NOxFはAlp, Fep, 粘土含量と有意な正の相関 (p<0.01) を、年平均気温とも有意な正の相関 (p<0.01) を示した。後者は従来の知見とは逆の結果であり、寒冷な韓国では気温の上昇に伴う非晶質性鉱物の生成が炭素貯留にプラスに働くと解釈された。よって非晶質Fe, Alと年平均気温は、水田に基づく食料生産と環境保全の両立を担う重要な因子であると結論づけた。
2: おおむね順調に進展している
2023年度は、コロナの収束を受けて、日本と同じ温帯に属するものの火山の影響が少ない韓国の土壌調査を行うことができた。ラボ実験も概ね順調である。従って、全般的にみれば、おおむね順調に進展している。
2024年度は、水田土壌の現地調査を熱帯気候に属するスリランカとベトナムで実施する予定である。また、これら試料の全炭素を測定するとともに、試料を53μmで粒径分画後、粗粒画分を比重分画により軽比重画分 (LF) と重比重画分 (HF) に、細粒画分を次亜塩素酸処理によりNaClO易分解性画分 (OxF) とNaClO難分解性画分 (NOxF) に4分画し、乾式燃焼法により各画分の蓄積炭素量を定量し、一部試料についてΔ14C値を測定する。さらに、画分別炭素量と気候因子、土壌特性値との関係解析を、昨年度までに得られている、日本・タイ・フィリピン・マレーシア・台湾・ネパール・韓国と合わせて行い、アジア広域での規定要因を解明する予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Soil Science and Plant Nutrition
巻: 70 号: 3 ページ: 208-217
10.1080/00380768.2024.2320393
巻: 70 号: 3 ページ: 218-224
10.1080/00380768.2024.2320871