研究課題/領域番号 |
23K23505
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補助金の研究課題番号 |
22H02238 (2022-2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2022-2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38020:応用微生物学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉見 啓 京都大学, 地球環境学堂, 准教授 (60436102)
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研究分担者 |
河内 護之 京都大学, 農学研究科, 特定准教授 (70771294)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
2024年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2022年度: 7,670千円 (直接経費: 5,900千円、間接経費: 1,770千円)
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キーワード | 糸状菌 / 細胞表層 / 基質攻略 / 多糖 / SSPs / 細胞表層科学 / 細胞外マトリクス / 細胞表層多糖 / 低分子量分泌タンパク質 / ハイドロフォビン / 菌糸表面疎水性 / 分泌タンパク質 / 固体攻略 / 菌糸接着 |
研究開始時の研究の概要 |
糸状菌(カビ)は、独自の細胞形態である「菌糸」を介して固体基質へ効率良く侵入する。それ故、菌糸の表層と基質界面でおこる生物反応が 、基質の認識・定着と分解において極めて重要な鍵となる。これまでにも、モデル糸状菌等において、細胞表層物質の菌糸接着因子としての機能や基質分解酵素のリクル ート能は解析されてきたが、これらの機能が糸状菌の高い固体攻略能の根拠として一般化できるか否かは不明であった。そこで本研究では、生態特性の異なる数種の糸状菌を用い、細胞生物学・生化学・界面化学的な視点と比較ゲノム学を組合せた解析を実施することにより、糸状菌と基質界面で起こる生物反応の普遍性と特殊性を理解する。
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研究実績の概要 |
本研究は糸状菌の基質攻略における初期イベントについて、細胞表層物質の機能に着目し、生態的・系統進化的に特徴の異なる菌類を比較しながら、糸状菌たる生き方の基本原理を理解することを目的としている。本目的を達成するため今年度は、遺伝学的、生化学的なアプローチを中心として、(1)細胞表層多糖を介した菌糸-基質間の定着機構の解析、(2)低分子量分泌タンパク質ハイドロフォビンおよび環状ペプチド化合物を介した菌糸細胞表面への疏水性付与メカニズムの解析に関連する研究を展開した。 具体的には、(1)に関連して、これまでにもトウモロコシごま葉枯病菌における細胞外マトリクス(ECM)を構成する多糖の生合成に関与する遺伝子を2種類同定していたが、今年度はさらに本菌のECM生合成に関わる3種の遺伝子を同定し、その機能を解析した。また、担子菌ヒラタケにおいて、多糖蛍光標識プローブを用いた細胞壁多糖の空間配置解析、キチン生合成遺伝子の機能解析および細胞壁構築シグナル伝達系の解析を実施し、子嚢菌と担子菌では細胞壁多糖の局在や役割が異なることを明らかにし、その制御機構についてもいくつかの新知見を得た。次に(2)については、菌糸表面に疏水性を付与する因子は菌の種類によって異なること、すなわち菌糸の疎水性に対するハイドロフォビンおよび環状ペプチド化合物の依存度が菌種により多様化していることを明らかにした。さらに、担子菌ヒラタケにおいて、菌糸で発現するハイドロフォビンの機能を解析し、本菌の菌糸表面疎水性は複数のハイドロフォビンにより協調的に付与されるが、個々のハイドロフォビンの機能は分化していることが明らかになった。以上のように、今年度実施した解析から、糸状菌の細胞表層に局在する物質について、その機能は菌種により多様化しており、それらは生態的・系統進化的な特徴に基づいて機能分化してきたと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度本研究では、子嚢菌トウモロコシごま葉枯病菌と担子菌ヒラタケを用いて、細胞表層物質について遺伝学的・生化学的な解析を実施し、概ね想定通りの成果をあげた。 具体的には、1)トウモロコシごま葉枯病菌における細胞外マトリクス(ECM)構成多糖の生合成酵素遺伝子を探索し、これまでに同定していた2つの遺伝子に加えて、新たに3種の遺伝子を同定した。それらはいずれも細胞内におけるタンパク質の品質管理に関わるもので、予想を上回る複雑な機構によりECMが生合成されていることが示唆された。2)トウモロコシごま葉枯病菌における菌糸表面への疎水性付与に関する包括的な研究から、菌糸表面に疎水性を付与するメカニズムは菌種により依存する物質が異なることが明らかになった。本成果は、国内外の研究集会において高く評価された(国際学会における招待講演)。3)ヒラタケにおいて、多糖蛍光標識プローブを用いた細胞壁多糖の空間配置解析を実施し、子嚢菌と担子菌では細胞壁多糖の局在が異なることを明らかにした(国内外研究集会にて成果を公表)。また、担子菌の細胞壁構成多糖および細胞壁構築の制御機構に関する新知見を多数得ている。特に、ヒラタケにおいては細胞壁多糖のキチンが気中菌糸の構造に強く影響を与えることを明らかにした(査読付国際誌投稿論文リバイス中)。4)ヒラタケにおいて、複数のハイドロフォビン遺伝子の機能を解析し、 それらが協調的に菌糸表面に疎水性を付与するだけでなく、環境ストレス応答やリグニン分解に関与するものも存在するなど、その機能は個々に分化していることを明らかにした。 他方、当初から計画していた細胞表層物質のin vitro機能評価についても、多糖の可溶化やタンパク質の発現精製を進めており、次年度の本格実施に向けた準備が進んでいる。以上より、総合的には概ね順調に研究が進展していると自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度実施したトウモロコシごま葉枯病菌のECM多糖生合成遺伝子の探索において、新たに3種のECM合成に関わる遺伝子を同定した。これらは想定とは異なりタンパク質の品質管理に関わる酵素タンパク質をコードする遺伝子であったことから、ECM多糖が単純に膜局在型の糖質関連酵素の働きだけでなく、より複雑な生合成機構により合成・制御されていることが示唆された。この知見は、古くから存在は知られながらも謎が多いECM多糖の生合成機構の全容を解明し、その存在意義を理解する突破口となる可能性がある。今年度は、これら遺伝子の機能解析を進展させるとともにECM多糖の構造を決定する。すでにECM多糖の可溶化条件はほぼ確立できていることから、NMRによる構造解析が可能でありin vitro機能性評価も実現できる見込みである。 さらに、これまでの本研究において子嚢菌(麹菌およびトウモロコシごま葉枯病菌)と担子菌(ヒラタケ)の比較解析から、細胞壁多糖を含めた細胞表層多糖の機能分化、低分子量分泌性タンパク質(ハイドロフォビン)の菌種による機能分化が明らかになってきている。今年度は、これらの比較研究を深化させ、細胞表層物質の制御機構を含めて比較ゲノム学的手法を交えた解析を行い、生態特性と細胞表層構造およびその制御機構の関連性について解析する。また、ECM多糖やハイドロフォビン欠損株を用いて、病原性評価や基質分解評価を行うと共に、精製多糖や精製タンパク質と人工基質などとを組み合わせたin vitro機能性評価も併用し、菌の細胞表層物質の機能が多様化してきた生態的意義を考察する。これにより、糸状菌の基質攻略における初期イベントの分子機構の一端が明るみになり、糸状菌たる生き方の基本原理の理解が進む。
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